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夢をデザインする―夢の世界の住人―

明晰夢を見やすい人はどんな人

現実世界で若者たちを待ち受けているのは少子高齢化、増税、物価高騰……本当に年金はもらえるのか、子供を産み次世代につなぐ余裕なんてあるのか…。未来について思いを馳せるとつい鬱屈した気持ちになってしまいがち……。頑張れ!自分らしく生きろ!と暑苦しく言われても、もう十分頑張っているよ……。でも大丈夫、現実世界では自分の力だけではコントロールできなかったとしても、寝ている間は自分の思うままになるかもって考えたらどう?なんてたって人間は1日の3分の1をベッドの上で過ごしているのだから。

   ―――夢の専門家が心の奥に潜む感情と夢の関係について優しく綴る。

 


どのくらいの人が明晰夢を見ているのか?

前回、ロングスリーパーほど、明晰夢を見る可能性が高いとお話ししました。これは睡眠時間をたっぷりとるほど、レム睡眠が増えるので、明晰夢を見るチャンスが高まるということでしたね。折しも新型コロナウイルスへの感染予防対策として自宅で過ごす時間が増えることで、結果として睡眠時間が長くなり、いつもより夢を楽しむ人も増えているかもしれません。誰しも全ての夢を覚えているとは限りませんが、たくさん夢を見る機会が増えることで、夢を思い出せる頻度も高くなります。夢を思い出すことに、明晰夢に近づくヒントが隠されているかもしれません。実際に、一般的な夢を想起する頻度と明晰夢を想起する頻度には高い相関があることが、いくつかの調査から確認されています。

これまでに夢を見たことがないという人にはめったに会いません。しかし今までに一度も明晰夢を見たことのない人は結構いるのではないでしょうか?いったい明晰夢を見る人はどのくらいいるのでしょうか?

ドイツの夢研究者Michael Schredlのグループらは、17~93歳の約2500人を対象にWEB調査をしたところ、自分が夢を見ていると気付く明晰夢を毎週数回見られる人はわずか2.65%に過ぎず、週1回程度が4.46%、月2・3回が7.79%、月1回程度が9.84%という結果が得られました。つまり、比較的頻繁に明晰夢を見られる人は合計24.7%で、約4人に1人です。年に1回以上が22.16%、年に1回以下が11.92%と、ごくまれに明晰夢を見る人を合計すると34.08%と約3人に1人です。一方、今までに一度も明晰夢を見たことのない人は41.19%だったそうですから、かなり多数派ですね。明晰夢を見られることは一般的ではないのだとよくわかります。一方で、もしかしたら明晰夢を見られたかもしれませんが、覚えてなかったので見られなかったことになっているかもしれません。今回は明晰夢を思い出すことと性格の関係についてお話していきましょう。

雲


クリエイティブな人に加えて心配性な人も明晰夢を見やすい?

心理学において、性格を捉える試みは長い歴史を持ちます。現代になると、私たちが性格を表現するときに使う形容詞(情にもろい、几帳面など)を沢山取りあげ、カテゴリー化することで集約していった結果、5つの因子になるという研究が沢山でてきました。これら性格を捉える5つの因子を組み合わせて理解しようとする理論を「ビッグファイブ」と呼んでいます。具体的には、神経症傾向(Neuroticism)、外向性(Extraversion)、開放性(Openness to experience)、協調性(Agreeableness)、誠実性(Conscientiousness)の5つです。ビッグファイブには通文化性があって比較されますが、日本人は平均的に協調性が高いことが知られています。今回は人の性格をひもとくビッグファイブと明晰夢の想起の間の個人差について取り上げます。
 

先述のドイツの夢研究者のグループらの調査結果では、明晰夢と性格の関係性についてもデータを収集していて、そのうち明晰夢を想起する頻度と一番強い関連が見られたのは「開放性」です。開放性を構成する要素から説明すると、知的な好奇心をもっていろんな経験を眺める、新しいことに挑戦し、美意識が高く、想像力が豊かで、アイディアにあふれ独創的ということになります。開放性の特徴が高いほど明晰夢をよく見るということは、芸術家タイプにロングスリーパーが多いこととも関連があるかもしれませんね。特に、寝ている間に脳が記憶を編み合わせて作った想像の世界に没入する、夢の創造的側面と関係がありそうです。自らのクリエイティブな夢から着想して、作品を生み出した芸術家も古今東西たくさんいます。

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開放性よりは弱いものの、明晰夢を想起する頻度と統計的には有意な相関が見られたのは「神経症傾向」です。一言でいえば心配性で、些細なことにも敏感に反応してしまい情緒が安定しない特徴を示す神経症傾向は、一般的に夢を想起する頻度と強い関係があります。睡眠中に起こった自分の思考や感情にも注目しやすく、日中も睡眠中も覚醒レベルが高く、夢の記憶も固定できるということなのでしょう。そもそも明晰夢に気づくには夢の中での些細な違いを把握できることからも、神経症傾向の高い人が明晰夢を見やすく思い出しやすいのは自然でしょう。これが行き過ぎると、不安や恐怖の感情が高まりすぎて睡眠を中断する悪夢になります。新型コロナウイルスによる死者数の多い欧米では、「コロナ・パンデミック・ドリーム」として沢山の悪夢が報告されています。感染への心配が強い人や、身近に不幸なことがあってショックを受けている人、将来への不安がある人は悪夢を見やすいでしょう。悪夢はどの人にとっても強烈で記憶に残りやすいのです。記憶に残りやすい点では、明晰夢と悪夢も共通しており、両者の想起頻度にも正の相関があることがわかっています。

さらにこの研究では、年齢が若い人ほど明晰夢を見ることを指摘しています。脳が活発に働き、明晰夢を見るレム睡眠が減少するのはかなりご高齢になってからですが、年を取るにつれて睡眠が短くなる人が多いことからも、睡眠時間も明晰夢の見やすさに間接的に関連しているでしょう。前回でもお話した通り、睡眠時間が長くなるほどレムとノンレムの1サイクルにおけるレムの割合が多くなるからです。一般的には年を重ねるほど睡眠時間が短くなり、記憶に関わる認知機能のゆるやかな低下や生活の安定など複合的要因から夢は淡くなっていきますが、明晰夢は中高年になってからも見られることもあるようですし、若い頃から明晰夢をみる体験を継続している人は年を重ねても習慣的に明晰夢を見られるのではないでしょうか。

明晰夢を見る人は健康的な人

さらに明晰夢と性格の関係について、オーストリアの夢の研究グループは、明晰夢の定義である「夢をみている自覚」のみならず、意志の力で夢を見続けることや、夢の中のイベントをコントロールしどう自分が行動すべきかの判断ができるポジティブな特徴に注目し、明晰夢と精神的な健康・健康な性格特徴の関係を調べました。協力を得た18~58歳の82名のインタビューに基づき、①頻繁(月1回以上)に明晰夢を見られるグループ ②まれにしか明晰夢を見られないグループ ③普通の夢のグループと3つに分け比較しました。その結果、①頻繁に明晰夢を見られるグループは他の2グループと比較して、毎日夢を見ることを楽しみにしているなど夢に対する肯定的態度が高く、心配性ではなく主張的で自信があり、ストレスへの対処能力やウェルビーイング(主観的幸福感)が高いといった、精神的に健康だと見なされる特徴を持つと指摘しています。

明晰夢を見る確率を高めるには、まず夢に関心を持ち、夢の中だからこそ荒唐無稽なストーリー展開を驚きながら楽しむ気持ちを持ち、それを人に話すなどして記憶づけることが良いでしょう。明晰夢の最中に行なうリアリティチェックは現実との違いにいかに気が付くかがポイントでしたが、寝る前から夢を意識し、鮮明に夢の詳細に注目して楽しむのが良いでしょう。また性格は普遍的なものではなく、日ごろの行動・思考の習慣によって変わっていきます。明晰夢が頻繁に見られるようになって、夢を楽しむことができれば、さらに夢に関心を持ち、夢に対して肯定的な態度になるので、実験結果からも見られたような明晰夢と精神的な健康の好循環が期待できると思います。

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著者略歴

  1. 松田英子

    東洋大学社会学部教授博士(人文科学)/公認心理師・臨床心理士
    お茶の水女子大学 文教育学部卒、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科修了。博士(人文科学)。専門は臨床心理学・人格心理学・健康心理学。著書に『夢と睡眠の心理学―認知行動療法の立場から』(風間書房)、『眠る』(二瓶社)、『図解 心理学が見る見るわかる』(サンマーク出版)など。睡眠の改善から心の健康を高めることに関心がある。

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