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夢をデザインする―夢の世界の住人―

覚えている夢と覚えていない夢

現実世界で若者たちを待ち受けているのは少子高齢化、増税、物価高騰……本当に年金はもらえるのか、子供を産み次世代につなぐ余裕なんてあるのか…。未来について思いを馳せるとつい鬱屈した気持ちになってしまいがち……。頑張れ!自分らしく生きろ!と暑苦しく言われても、もう十分頑張っているよ……。でも大丈夫、現実世界では自分の力だけではコントロールできなかったとしても、寝ている間は自分の思うままになるかもって考えたらどう?なんてたって人間は1日の3分の1をベッドの上で過ごしているのだから。

   ―――夢の専門家が心の奥に潜む感情と夢の関係について優しく綴る。

 


夢をあまり覚えてない人とはどういう性格?

前回、性格をひもとくビッグファイブ(神経症傾向、外向性、開放性、協調性、誠実性)のうち、頻繁に明晰夢を想起することと強い関係があったのは、「開放性(好奇心旺盛、チャレンジングなど)」や「ウェルビーイング(主観的幸福感)」など精神的健康の指標であったことをお話ししました。

明晰夢が見られるというのは楽しみであることに違いないのですが、そもそも夢自体をほとんど覚えていないという方もいると思います。明晰夢ではなく、一般的な夢を想起する頻度と強い関係があるのは、ビッグファイブのうち「神経症傾向(心配性、敏感など)」でした。ですから夢をあまり覚えていない方は、情緒が安定している性格の人が多いと言えるでしょう。ストレスフルな出来事に際しても、あんまり慌てずに何とかなるさと、のんきに柔軟性をもって対処できる性格の方が多いと思います。ある意味、夢という睡眠中の情報処理、つまり記憶の整理や感情の制御に関わる処理が適正に完了しているイメージで、健康的な証といえるでしょう。「夢を見ないんだよね」と口にする人をよく聞きますが、そのような場合もちゃんと夢は見ているけれど、覚えていない(覚えている必要が無い)ということなのかもしれません。


生まれつきの性格によって見る夢が違う

前回お話ししたビッグファイブは、夢の内容にも関連しています。我々の研究グループが約180名の大学生に協力を得て、夢の中の感情(楽しい、悲しい、焦る、不安、奇怪、不快、恐怖(悪夢))に着目して、それぞれの感情を伴う夢をどの程度見るか(覚えているか)について評定を求める調査をしました。その結果、情緒の不安定性を示す「神経症傾向」高群の方が「悲しい夢」、「不安な夢」、「奇怪な夢」、「不快な夢」をよく想起しており、一方、情緒が安定したグループ(「神経症傾向」低群)は「楽しい夢」をよく想起していました。また、活動の積極性を示す「外向性」高群の方が「楽しい夢」をよく想起しており、内向的なグループ(「外向性」低群)は「悪夢」をよく想起していました。これは言われてみれば、そんな感じがしますよね。明晰夢では相関関係が強かった「開放性」とは、これらの感情の夢の頻度には特に関連がみられませんでした。感情というよりは、イメージ力や思考力に関わっていそうです。

霧

さらに、周囲と親和的な関係を築くことができる「協調性」高群の方が「楽しい夢」を想起しており、「協調性」低群は「不快な夢」、「悪夢」をよく想起していました。いつの時代も人間関係は私たちの喜びや楽しみにもなり、一方でストレスにもなり得ます。人間関係をうまくやる社会スキルの不足から嫌な思いをする夢を見るのではないかと想像します。

意志が強く勤勉な特徴を示す「誠実性」高群は「焦り」の夢を見ていました。真面目なので、「遅刻しないように」「失敗しないように何度もトライする」などの夢を見ていそうですね。普段真面目な方ほど夢を楽しんでいただきたいのですが、失敗がないようにシミュレーションしているのでしょうか。

明晰夢を見る頻度に関わるビッグファイブでは、「開放性」「神経症傾向」について、明晰夢との強い関連を紹介しましたが、性格的に誠実性が高いほど明晰夢を見ないことを指摘する研究もあります。勤勉性の高い人は、普段勤勉でいくぶん硬く規則性のある生活パターンにあることが、規則性のないカオス的な夢を見ている時に自分が夢を見ていることを自覚する能力を減じているからではないかと推測されています。

要約すると、夢の中の感情と性格には関係があり、「楽しい夢」は、情緒が安定し、外向性と協調性が高い性格の人がよく覚えているということです。楽しい夢ならよいのですが、夢を思い出しても、不快な感情の夢ばかりでは嫌になってしまいます。特に悪夢は、忘れてしまいたいのに忘れられない恐怖の夢で、睡眠の途中で中途覚醒を引き起こします。つまり、睡眠そのものが中断されてしまいますし、目覚めた後にも悪夢は嫌な感情を残すので、心身ともに不健康をもたらす可能性が高く、悪夢のもととなっているストレスへの対処などが必要になります。


夢で心のクリーニング

夢と記憶の関係について振り返ってみると、一晩に3~5つほど夢は見ているものの(睡眠時間によって変わりますが)思い出せないというだけで、睡眠中の情報処理は適切に行われているといえるのです。レム睡眠中の役割には、「記憶情報の整理、感情の適正化」がありました。つまりこの時に、大事な記憶は固定され、怒りや恐怖などのネガティブな感情は処理され抑制されるのです。その作業は目が覚めた時には覚えていないものの、寝たらすっきりするという体験はその典型で、夢には心のクリーニング作用もあるといえるのです。ですから、夢の内容を思い出さないことは悪いことではありません。

しかし、覚えてしまう夢もあります。先に出て来た悪夢です。自分ではすぐに対処することが難しい問題がふりかかってきて、ストレスに満ちた精神状態の時には、人は悪夢を見やすいのです。自然災害やウイルスの流行、事故や事件に巻き込まれた時など自分で対処できる範囲を超えた時というのは、どの人にとってもストレスなので、多くの人が悪夢を見やすくなります。

アヒル

「コロナ・パンデミック・ドリーム」も同様です。しかしウイルスは目に見えないので、個人によって夢では様々な形態をとります。人によっては、マスクや防護服、PCR検査や医療器具そのものが出現するかもしれないし、毎日報道されるニュースでのイメージ写真そのもの、あるいは嫌な臭いや音となる場合や、よくわからない物体になるかもしれません。

私が見たコロナ関連の夢は、家族専用の大きなお風呂場に、黒いナメクジのようなオタマジャクシのような気味の悪いものが沢山泳いでいるシーンが出てきて、医師であるきょうだい2人の力を借りて、綺麗に洗い流し、ピカピカにお風呂場を磨き上げるというものでした。掃除という対処行動をイメージの中でシミュレーションしたかのようです。もっと現実的な文脈では、感染してしまい人に拒絶される、会社に迷惑をかけるなどのテーマとして出現するかもしれません。欧米のように死者数が多い地域では、死に関連する事物や人物になるでしょう。夢を覚えてないということは、言い換えればその晩はインパクトに残る悪夢を見ていなかったということで、つまり差し迫った悩みが無い幸せな証拠でもあり、仕事や人間関係など自分が日々の生活をうまくやれているという証拠だと思います。


明晰夢はまず感覚を研ぎ澄ませることから

夢に現れるモチーフから、自分の状況を考えてみると、例えば「空を飛ぶ夢」は出現頻度がとても多く、繰り返しみる夢のテーマの1つなのですが、夢を見た人が自分の人生をどの程度コントロールできているか、とご本人が捉えているのかをわかりやすく示唆しているなと思いながら、毎回興味深く夢の話を聞きます。空を飛ぶと言っても、気持ちよく上空から眺めて飛ぶものから、地上すれすれで建物や人等何かにぶつかりそうになるまで、ストーリーには色んなバリエーションがあります。前者に近いほど人生をうまくコントロールしていて、後者ほど自分の人生をコントロールできていないあるいはコントロールが難しいとご自身が感じているということです。

飛び方も人さまざまで、平泳ぎバージョンや、自転車をこぐように足を動かすバージョンまでお聞きしたことがあります。深いブルーの宇宙を飛びながら青い地球を眺める夢を聞いた時には、人生をうまくコントロールしているということを超えて、芸術的だと思いました。このように、空を飛ぶ夢などは典型的なテーマなので、繰り返し見る確率も高く、夢の内容のバリエーションにも気づくチャンスが多いのではないかと思います。その都度夢の中の感覚を研ぎ澄まし、夢の中での自分の感情をしっかり感じることも、明晰夢を見られるようになる秘訣かもしれません。「これは現実とは違うから夢だ」と気づけば、それは明晰夢です。明晰夢であれば行きたいところに着地できるでしょうし、ぶつかりそうになる夢であっても建物をよけながら飛ぶこともできますよね。

さらに、夢の中で感覚や感情を敏感にすることを継続していると、起きた後も見た夢に対しての記憶が強く残ります。明晰夢は悪夢とも相関があることは前回述べましたが、両方の夢とも鮮明性が高いという特徴を持ち、明晰夢はポジティブ・ネガティブ両方の感情を強く感じ、悪夢はネガティブ感情に偏った夢といえるかもしれません。我々のグループの研究によると、夢の鮮明性が高い人の典型は、全体的に「夢の中でもポジティブ感情とネガティブ感情を強く感じられる」のです。これらの人々は、普段の生活でも強い感情を経験していて、そんな感情を抱く自分を客観的にみているのかもしれませんね。

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著者略歴

  1. 松田英子

    東洋大学社会学部教授博士(人文科学)/公認心理師・臨床心理士
    お茶の水女子大学 文教育学部卒、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科修了。博士(人文科学)。専門は臨床心理学・人格心理学・健康心理学。著書に『夢と睡眠の心理学―認知行動療法の立場から』(風間書房)、『眠る』(二瓶社)、『図解 心理学が見る見るわかる』(サンマーク出版)など。睡眠の改善から心の健康を高めることに関心がある。

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