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夢をデザインする―夢の世界の住人―

国や文化が違っても見る夢は同じ

現実世界で若者たちを待ち受けているのは少子高齢化、増税、物価高騰……本当に年金はもらえるのか、子供を産み次世代につなぐ余裕なんてあるのか…。未来について思いを馳せるとつい鬱屈した気持ちになってしまいがち……。頑張れ!自分らしく生きろ!と暑苦しく言われても、もう十分頑張っているよ……。でも大丈夫、現実世界では自分の力だけではコントロールできなかったとしても、寝ている間は自分の思うままになるかもって考えたらどう?なんてたって人間は1日の3分の1をベッドの上で過ごしているのだから。

   ―――夢の専門家が心の奥に潜む感情と夢の関係について優しく綴る。


ここまで3回にわたり、夢の頻度や内容の個人差について、性格、感情、感覚の面からみてきました。今回は夢の内容のテーマを取り上げたいと思います。

王道の“間に合わない夢”

ドイツの夢研究者であるMathes, J.とSchredl, M.が2014年に、2800名を超えるドイツ人にWEB調査をし、典型的な夢のテーマを順に56位まで発表しました。まずは多いものからいくつかご紹介していきましょう。

  1位   空中を飛ぶ 
  2位  何かに何度もトライする 
  3位  追われる、追跡される
  4位  性的体験
  5位  学校、教師、学ぶ
  6位  間に合わない
  7位  既に亡くなっている人が生きている 
  8位  今生きている人が死んでいる
  9位  身体的暴行を受ける
   10位   泳ぐ
   11位  落ちる 
   11位  暴力的な野獣
   13位  洪水、津波

 

皆さんも見た経験がある夢のテーマばかりではないでしょうか?第7回の五感をフルに使って楽しめる鮮明な夢の例でお話しした、「美味しい食べ物を食べる夢」は14位でした。「空飛ぶ」夢のバリエーションが多いことは第6回で既に述べましたが、「間に合わない」夢もバリエーションが豊富な夢の一つです。例えば、アポイントの時間に間に合わない、試験勉強が試験開始前に終わらず問題を見て頭が真っ白、あるいは試験時間内に回答が終わらない、乗り物に間に合わず遅れてしまうなどです。今年の春学期、関東は新型コロナ感染抑制のため、自粛期間中にWEBでの授業に変更となった大学が多かったのですが、「ネットのトラブルでレポートの提出が間に合わなかった」夢をみていた学生さんもいました。夢のシミュレーション機能から言えば、きっと真面目な学生さんでそういった事態を防ぐために準備をしているためと思います。同様の焦りの夢では、「何かに何度もトライするがなかなか上手く行かない」などもよく見る夢の一つと思います。「遅刻しそうなので、相手に電話をかけようとするがなかなかうまく番号を押せずにかからない夢」などがそうです。その他、ラインで指がすべって文字の入力がうまくいかない夢なども体験したことがあるのではないでしょうか。なぜ夢に共通パターンがあるのか、はっきりとはわかっていませんが、我々がより良く社会生活を送るためのシミュレーション、つまり人間の進化的な価値が夢にはあるのではないかと考えます。

 
夢の中で使う電話も進化する

このドイツの研究では、夢の性差と年代差についても調べています。調査に協力したのは10~80歳代の男女でした。男性に特に多い夢は、「性的体験」(4位)、「乗り物のコントロールができない」(21位)、「火事」(34位)などです。女性に多い夢は、「既に亡くなっている人が生きている」(7位)、「今生きている人が死んでいる」(8位)でした。男性の夢は一般的に性的要素や攻撃的要素が多く、女性の夢は友好的な対人関係が多いことがこれまでの研究で指摘されていますが、この調査の結果からもそういった傾向が見えますね。

一方、年代差があったものは次の通りです。年齢を重ねるほど増える夢は、「空中を飛ぶ」(1位)、「何かに何度もトライする」(2位)、「既に亡くなっている人が生きている」(7位)、「落ちる」(11位)、「洪水、津波」(13位)。一方で年齢を重ねるほど減る夢は、「性的体験」(4位)「学校、教師、学ぶ」(5位)でした。死に関連する夢のほかはなぜ増えるか説明が難しいものもありますが、減る夢の方はわかりやすいですね。「学校、教師、学ぶ」など学校に関連した夢は、大学生よりも高校生の方が目立ちます。部活や試合、試験なども若い方の頻出のテーマです。基本的には夢の研究では、夢の内容を日常生活(覚醒時)との連続性で説明しようとする仮説があります。「間に合わない夢」や「何度もトライする夢」の頻出例として、「遅刻しそうなので、相手に電話をかけようとするがなかなかうまく番号を押せずにかからない夢」を挙げました。『通販生活』の編集部が読者に繰り返し見る夢の調査をした時にも、小さいころから何度もこのテーマで繰り返し夢をみるのですが、昔はダイヤル式電話、次にプッシュホン、現在では携帯電話、スマートフォンと、夢の状況や設定は変わらないまま、ツールのみが変化していく面白さに気づかせてくれた人もいました。このように夢のディテールには時代差、年代差があらわる傾向がありますので、各世代の価値観や物事への捉え方が反映されていると言えます。ここに夢を読み解く面白さがありますね。

 

夢の世界の色彩

講演会では、「夢がモノクロなのはどうしてですか?」「カラーの夢を見るのですが変ですか?」など、夢での色彩感覚(色がついていますか?)についてよく質問されます。どうやら色彩感覚には個人差があることは何となく知られているようです。「ほとんどの大学生はカラーの夢ばかりです」と答えると、ご年配者はとても驚かれますし、その逆もしかりです。「ほとんどの夢が白黒の方もいる」と答えると、大学生は驚きます。「ときには白黒の夢、ときにはカラーの夢」と混じって体験する人もいます。なぜ夢での色彩感覚に年代差が出るのかについて決着はついていませんが、日本とドイツの研究グループそれぞれが行なった研究では、白黒テレビとカラーテレビの世代によっての普及率のと、加齢に伴い色彩感覚が減少する傾向との関係性について指摘しています。



悪夢のテーマは世界共通

悪夢の典型的テーマはどうでしょうか?岡田らのグループが日本人の大学生の夢を質的にカテゴリー化し、体験頻度について予備調査を行った結果(2017年)をご紹介したいと思います。悪夢の典型的テーマは、先の典型的な夢のテーマ順位と比べながら挙げると(カッコ内)、以下のようになりました。

  1位    落ちる(11位)
  2位  何かに追いかけられる(3位)
  3位  遅刻する(6位)
  4位  大切な人が死ぬ(8位)
  5位  自分が攻撃や暴力を受ける(9位)
  6位  家族や恋人と別れる、縁が切れる
  7位  怖い動物や想像上の生き物が出て来る
(11位 暴力的な野獣、40位 想像上の動物や人間
  8位  災害に遭う(13位 洪水・津波、22位 火事、48位 地震)
  9位  他人が攻撃や暴力を受けるのを目撃する(9位)
   10位  自分が危害を加える(27位 誰かを殺す)

 

ドイツの調査と比較しても似たカテゴリーとなっています。典型的な夢のテーマと悪夢のテーマのカテゴリーの順位が似ているということは、人は全体的にそもそも悪夢の方が記憶に残りやすいということです。夢のテーマには、国、文化をこえて共通している部分が多いのです。

明晰夢も悪夢も鮮明性が高いことは共通しており、個人の中で同じテーマが繰り返される特徴があります。明晰夢の体験自体がとても稀なものですから、典型的テーマというのは見出すことは難しいのですが、明晰夢を頻繁に見る人は、その人が普段からよく見る夢の設定やスクリプト(筋書き)を持っている印象があります。いつも水槽が登場する人、いつも場所が同じ校舎である人など、場面設定が似たようなところからスタートしていくので、より夢を見ていることを自覚しやすいと言えます。

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著者略歴

  1. 松田英子

    東洋大学社会学部教授博士(人文科学)/公認心理師・臨床心理士
    お茶の水女子大学 文教育学部卒、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科修了。博士(人文科学)。専門は臨床心理学・人格心理学・健康心理学。著書に『夢と睡眠の心理学―認知行動療法の立場から』(風間書房)、『眠る』(二瓶社)、『図解 心理学が見る見るわかる』(サンマーク出版)など。睡眠の改善から心の健康を高めることに関心がある。

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