朝日出版社ウェブマガジン

MENU

夢をデザインする―夢の世界の住人―

明晰夢を見るためには―睡眠中

現実世界で若者たちを待ち受けているのは少子高齢化、増税、物価高騰……本当に年金はもらえるのか、子供を産み次世代につなぐ余裕なんてあるのか…。未来について思いを馳せるとつい鬱屈した気持ちになってしまいがち……。頑張れ!自分らしく生きろ!と暑苦しく言われても、もう十分頑張っているよ……。でも大丈夫、現実世界では自分の力だけではコントロールできなかったとしても、寝ている間は自分の思うままになるかもって考えたらどう?なんてたって人間は1日の3分の1をベッドの上で過ごしているのだから。

   ―――夢の専門家が心の奥に潜む感情と夢の関係について優しく綴る。


前回は、これまでの連載でお伝えしてきた明晰夢を見るためのポイントとして、普段の生活の過ごし方や、寝る前にできる準備を中心についてお話しました。寝室の状況は整いましたか?目覚まし時計の設定は大丈夫でしょうか?夢を楽しむ時間の余裕がある時には、大きい音刺激(テレビやラジオの音なども)で目が覚めないようにしたいですね。まだ明晰夢を見られないという方も、睡眠そのものが整っていくことは健康にとって良いことですから、焦らずに取り組んでいきましょう。前回お話した工夫は、組み合わせて利用されています。今回はその組み合わせの応用であるラバージ博士が提案した方法を中心に、寝ている最中に行なうことと中途覚醒した時に行なうこと、そして、それらの注意事項についてお話ししたいと思います。睡眠障害(第九夜第十夜)のある方は、主治医の先生に確認してからトライしてください。

夢か現実か夢の中でチェックする

「MILD法」(Mnemonic Induction of Lucid Dreams:記憶誘導明晰夢)は、スティーヴン・ラバージ博士が1980年に提唱し、記憶誘導によって明晰夢を見る方法です。前回お話ししたような、夢を覚えておくための工夫をした後に、「リアリティ・チェック(現実確認)」(第五夜)という、夢を自覚するサインをみつけ夢と気づく方法を中心に試していきます。一日を通して数回、「これは夢か?現実か?」と自分に問いかけ、シンプルな動作を使って、自分がいる環境を確認する方法です。映画の『インセプション』でれば、主人公がコマを回す動作で、「現実」であればスピードが落ち回転が止まるが、「夢」であればスピードが落ちないで回り続けるというものです。例えば、時計の文字版や針を見るのでもよいと思います。ゆっくり時間が進むなら「現実」。全く動かない、異常な速さで時計が進む、逆時計周りに回るなら「夢」である。その他、手のひらをもう片方の指で押し圧や痛みを感じる場合には「現実」、全く痛みを感じない、あるいは手のひらを指が貫通するなら「夢」といった感じです。

いずれの場合にも後者(現実にはあり得ないこと)を「ドリーム・サイン」と呼んで、これを夢で確認できた場合には、夢が自覚できて明晰夢が見られる、ということです。夢の中で文字や数字、色や形に着目するのも良いでしょう。二度見したときに、それらが変わっていれば「夢」ということです。これは、現実には起こりえないことが起こっているということ、つまり「夢のサイン」です。一日のうちタイマーが定時になるようにし、その都度リアリティ・チェックを行なうという経験サンプリング法を用いて、普段から練習すると、夢の中で自覚できる確率が高まります。明晰夢の状態になると夢のシーンが鮮明になり、自己意識を客観的に観察することができます。繰り返し「現実」か「夢」か確認することを習慣づけておけば、より明晰夢を見る確率を上げることができるのです。

次に、布団に入って眠る直前に、「今晩は絶対に明晰夢を見る」「間違いなく自分は夢を見ていることがわかる」「見たい夢がまさに見られるのだ」と、明晰夢を見ることに肯定的な自己教示もしっかり行ないましょう。そして、まさに眠りの入り口であるノンレム睡眠の第1段階に入るまでに、最近見た楽しい夢とその結末をイメージします。これは「イメージ・リハーサル・セラピー(第十一夜)」のエッセンスの利用と考えることができます。このMILD法は、睡眠の前半より睡眠の後半の朝方にトライする方が効果があると、睡眠実験で確認されています。

現実との違いに気づく

訓練としては「リアリティ・チェック」が明晰夢を見る確率を高めますが、夢の中で現実との違いに気づくことも、夢を見ている自覚を高めます。第二夜では、私が「髪の色の違い」に気づいた例をお話ししました。実際には登場人物の髪はビビッドなオレンジ色だったのに、夢の中ではつやつやの黒髪で、学年も違ったということに気づいたのです。300億円の興行収入を上げ、なおブームとなっている映画『鬼滅の刃 無限列車編』では、主要キャラクターが鬼に睡眠と夢を操られるという設定であったため、先ごろ別のWeb媒体からキャラクターの睡眠と夢の解析を行なう依頼がありました。その映画の中では、主人公の少年・炭治郎が夢の中で水を汲みにいった川面に映った自分をみて、「これは夢だ」と気付きます。物語の中では、鬼に夢をコントロールされていて、主人公が一番大切に思っていた家族との楽しい再会場面を夢に見させられていたのですが、実際には、家族のほとんどが鬼に惨殺された残酷な現実を思い出し、これは夢だと再認識します。一般的な明晰夢のように炭治郎少年が幸せな夢を見続けるのではなく、夢から覚めて鬼と戦おうとします。物語の中の炭治郎少年は、「夢の中の自分の死」が「現実の目覚め」につながると考え、夢から起きるときに「自分の首を切る(=夢だから死なない)」という強いイメージで覚醒させます。

典型的な夢を利用する

第八夜で、夢の典型的なテーマを見ていきました。「空を飛ぶ」「泳ぐ」「間に合わない」などは頻出のテーマでした。自分の夢の中でよく出現するシチュエーション、例えば空中、水中、学校、運転などに着目することも有効であると考えます。明晰夢を頻繁に見ることができる方は自分の夢に頻繁に登場する環境や動物に着目して、ストーリーのタイプをいくつかに分類できていました。例えば、水槽と熱帯魚、校舎と大学生などです。すると、「そうか今日はこのパターンの夢か。これって決まってこういうストーリーになることが多いんだよな。結末はどうしようかな」などと考えているそうです。夢と気づき、空中での飛び方を変える、いつもより水中に深く潜ってみるなど、夢の中の自分の行動をいつもより少し変えることができれば、結末をコントロールできる可能性も高まるので、とても興味深く面白いですね!

二度寝で夢の調整をする

「WBTB法」(Wake Back to Bed:再入眠)という二度寝を使って夢の続きを見る練習もあります。覚醒によって脳の働きを良くして、もう一度見た夢を味わい(夢の再体験)、そして、夢の続きを見るためにイメージしながら再入眠していきます。推奨されている覚醒時間は20分から120分までと幅があるのですが、平均的に60分ほどが適正であると指摘する研究結果もあります。WBTB法はMILD法とも共通した要素があり、睡眠リズムが乱れない方であれば、時間に余裕があるときに試してみると良いと思います。同様に、昼寝でMILD法を試すのもありかなと思います。ただし、一旦起きた後に再入眠しにくい人にはお勧めできません。明晰夢にトライすることも貴重ですが、しっかり休息を睡眠でとることが一番重要です。



意識を保ったまま夢に入る

「WILD法」(Wake-Induced Lucid Dreams:覚醒誘導明晰夢)は、これまで紹介したMILD法、WBTB法よりちょっと上級者用で、成功率が低い難しい方法です。前回「入眠前に行なうこと」の中で、マインドフルネス瞑想をご紹介しましたが、入眠前に寝る前に頭に浮かび上がるイメージや思考を客観的に眺めながら、それに巻き込まれないで、平穏な心を保っていきます。瞑想に親しんでいる人は、照明を落とした寝室で実施し、眠りに落ちた瞬間に意識を失わずに夢に入ります。夢ヨガの伝統に基づいているといわれ、「Dream Reentry(夢再入法)」とも呼ばれています。夢を見ていることを明瞭に意識して、夢を能動的に楽しみます。チベットヨガでは、夢も現実も同じように扱うようです。しかし、このWILD法の効果の検証はほとんど行われていません。

瞑想が難しいことの他に、WILD法で明晰夢を見る率が低いことの原因の一つには、覚醒から寝入りばなにレム睡眠が来るのは、睡眠リズムの乱れになりますので、普通の人は金縛りなどの現象(第十夜)が起きる可能性があるためと推測します。金縛りは神秘的現象ではなく、生理心理学的現象です。身体感覚に伴い恐怖を受けることが多いのですが、有害な現象ではありません。金縛りが起こった時には、焦らずに指先や爪先を少し動かそうとする、唾液を飲み込む、声を出そうとする、あるいは心穏やかにそのまま寝入ってしまうなどの対応をしましょう。

次回は、レム睡眠中に刺激を与えて起きた後に明晰夢を思い出す方法の効果について、また、明晰夢(あるいは夢)を思い出したあとの次につながる工夫について、また夢をどう生活に活かすかについてお話します。

 

バックナンバー

著者略歴

  1. 松田英子

    東洋大学社会学部教授博士(人文科学)/公認心理師・臨床心理士
    お茶の水女子大学 文教育学部卒、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科修了。博士(人文科学)。専門は臨床心理学・人格心理学・健康心理学。著書に『夢と睡眠の心理学―認知行動療法の立場から』(風間書房)、『眠る』(二瓶社)、『図解 心理学が見る見るわかる』(サンマーク出版)など。睡眠の改善から心の健康を高めることに関心がある。

ジャンル

閉じる