朝日出版社ウェブマガジン

MENU

CNN EE編集部後記

CNN English Express インタビュー 猪子寿之(チームラボ代表)

 

2018年、東京・お台場に広さ1万平方メートルの地図のないミュージアム「チームラボ ボーダレス」がオープンした。館内で待ち受けるのは、次々に花が咲く鮮やかな森、人々の足元を避けながら流れる滝、軌跡を描きながら次の空へと飛んでいく鳥たちといったアート作品の数々。無数のランプが並ぶ空間に足を踏み入れれば、遠近感も時間も消え去るような感覚を味わえる。まさに「ボーダレス」な体験を楽しめる同ミュージアムはオープンからわずか5か月で来場者数100万人を突破、現在もチケット完売の日々が続く。

アート作品を創造しているのは多種多様な分野のスペシャリストから構成されるアート集団「チームラボ」だ。その最先端かつ唯一無二のアートが高く評価され、今や世界中で開催される展覧会は大盛況となっている。代表・猪子寿之氏に「体験」することの意味について話を聞いた。

 

都会の中にこそ境界なき世界を


――「ボーダレス」という言葉にはどのような思いが込められているのでしょうか。
本来、世界には境界なんてないと思うんですよ。歴史の中で、必要に迫られた人間が政治や宗教といったくくりで作ったものがあるだけで。都会に住んでいるとその境界がまるで最初からあったものかのように錯覚してしまうけれど、今僕らが生きている新しい情報社会では境界という概念がなくなってきている。ビジネス界でも昔はITと家電は違う産業だったのに今やAppleがスマートフォンを発売しているし、通販でスタートしたAmazonも今では動画配信事業を伸ばしていて、いつかは映画業界の中心になるような日が来るかもしれない。

そういう情報革命が起きている中で、本来世界は連続性の上に成り立っていて、それぞれ多様なコンセプトで独立している存在が連続していること自体が美しいのだということを表したかったんです。森の中にひとり身を置くことができれば、全ての命が連続してつながっている世界に自分が生きていることを実感できるでしょうけど、都会にいるとそれを感じることは難しい。だからこそ都会の中に自分が境界なき世界の一部であることを体験できる場所を作りたかったんです。

――日本のみならず海外でも高い評価を受けていますね。
1年の三分の一は海外で仕事をしています。去年は、パリの展覧会に数十万人の方が来てくれたし、ヘルシンキではマイナス8度の寒さの中、5時間待ちの行列が毎日できていたそうです。2011年に村上隆さんが「新しいことをするなら海外に行ったほうがいい」と言って台北で個展をするきっかけを作ってくださって、それが実質的な海外デビューになりました。当時日本国内ではチームラボの作品に対してなかなか興味を持ってもらえず、苦肉の策として僕の名前を出して三流文化人のように露出を増やしたりしたこともありました。グローバルな視点だとまだ世界にないものや新しい概念、未来を感じさせるものが重要視されるけれど、ローカルな視点ではすでに世界の中で価値が確定したもの、それでいて国内にはまだないものが評価されるんです。日本は島国で、ローカルな価値観が強い。

シリコンバレーでYahoo!が成功していてそれをいち早く日本に持ってきた孫正義さんがすごいと言われるように、世界で認められたものを最初に国内にもたらした人がえらいという風潮がありますね。もちろんアートもそう。ローカルが強い文化の中で本当に新しいものが認められるためには、一度グローバルで価値を認められる流れが必要だったということはあると思います。

 

海外に出て真の意味で価値観が広がった

――大学時代の一時期を海外で過ごしたそうですね。
高校3年のときにインターネットの存在を知って、世界中の人々が直接つながっていくことがすごくロマンチックだと感じました。デジタルネットワークが中心となる世界で自分も何かやりたいと思ったし、もっと世界を見てみたいとも思い、ロンドンとサンフランシスコに行きました。留学というよりうろうろしていただけですが(笑)。当時のロンドンは「アンダーワールド」のようにコンピュータを使った音楽や「トレインスポッティング」のような新しい若者の映画が出てきていて、コンピュータと文化がとても近しい印象があって行ってみたかったんです。サンフランシスコに行ったのは十代の頃ヒッピーカルチャーに引かれていたし、シリコンバレーのそばというのもあって興味を持ちました。

まあ、ヒューレットパッカードの看板の前で写真を撮るくらいしかできなかったけど。それでも海外にいた一年弱の間、必死で英語を勉強しました。電車に乗っている間はずっと英字紙を読んで、単語帳を持ち歩き、日本人とはひとことも話さなかった。努力も好きだし、強い信念を持って頑張ったんですが、なかなか英語は話せるようになりませんでした。サンフランシスコにはゲイの人が多いので、やたらとモテてよくおごってもらったりして友達はできましたけどね。それでもロンドンに行ったばかりのマクドナルドでコーヒーを頼んだら一番嫌いなコーラが出てきてがくぜんとしたあの頃に比べたら、今の僕は別人だと思います。滞在中全ての時間を英語の勉強に使ったおかげで今は海外でもスターバックスくらいは行けるようになりました。

 

続きはCNN English Express7月号(6月6日発売)をご覧ください。

 

石油のタンクがあった建物を再利用した上海の美術館TANK Shanghaiのオープニング展として、「teamLab: Universe of Water Particles in the Tank」が開催中(8月24日まで)。また、4月29日から北京で開催の国際園芸博覧会では植物館パビリオンに作品を展示するほか、今年はスペイン、デンマーク、ブラジルでも展覧会を予定している。

 

バックナンバー

ジャンル

お知らせ

ランキング

閉じる