目次と「日本語版の読者のみなさんへ」
つい先日発売されたばかりの、『日刊イ・スラ 私たちのあいだの話』。本書は、当時27歳だったイ・スラが学資ローンを返済するために始めた、毎日1本文章を書いてメールで配信する連載プロジェクト「日刊イ・スラ」がもとになった本です(正確に言えば、その「日刊イ・スラ」の連載を書籍化した2冊の中から41編の文章を選んで収めた日本オリジナル版)。書かれているのは、家族、恋人、友人、文章教室の子供たち、飼っている猫……。「愛すべき他人」たちから発見した、私たちの日常と地続きのような話が、いろんな文体で収められています。 |
目 次
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日 本 語 版 の 読 者 の み な さ ん へ
私は、今この本を開いてくれた隣の国の読者のみなさんの顔を思い描いています。まだ見ぬ顔であっても、好奇心と慎み深い心をたたえたその顔を、すでに好きになっています。自分とは違う考えを持つ他人に関心を持ち、知ろうとする人が、美しくないわけがないと思うのです。自分のことしかわからない「私」から抜け出し、経験したことのない人生に立ち会い、会ったことのない存在について泣いたり笑ったりする。それが、本を読む人の内側で起きていることです。私が書いたフィクションとノンフィクションのあいだの文章が、輝く光と、温かい影を描き出せていれば幸いです。
この日本語版『日刊イ・スラ』は、私が二〇一八年から二〇一九年にかけて書いた散文を収めた本です。私の最初の本、『日刊イ・スラ 随筆集』と、二冊目の『心身鍛錬』から文章を選んで一冊にまとめました。これらはすべて「日刊イ・スラ」という連載プロジェクトで書いたものです。「日刊イ・スラ」は文字通り、私イ・スラが一日一編、文章を書いてメールで送るプロジェクトです。作家は通常、新聞社や雑誌社、出版社から依頼されて紙面に文章を発表します。ですが、私が二十七歳のときは生活費もなく、学資ローンが山のように残っていたため、媒体からの依頼をただ待つわけにはいきませんでした。それで始めたのが、この連載プロジェクトです。野菜の直売のように、どんな媒体も通さずに読者と直接取引きしたいと思ったのです。
当時はこのやり方の前例がなく、うまくいくのかもわかりませんでしたが、とにかくお金を稼ぐために始めました。「誰からも依頼されずに文章を書きます。月・火・水・木・金曜日は連載して、週末は休みます。購読料は一カ月で一万ウォン(約千円)、二十編送ります。一編が五百ウォンなので、おでん一串よりは安いですが、それ以上に満足していただけるように努力します」。購読者を募るこの広告が拡散されて話題となり、購読を申し込んでくれる読者が増えました。驚くと同時にうれしくもありましたが、「これは大変なことになった」という気持ちのほうが大きかったです。なぜなら、それまで毎日文章を書いたことがなかったからです。
それでも、先にお金を受け取ったので約束は絶対に守らなければと思い、私は毎日書くようになりました。私たちはどうしたって約束を守りたがる生き物のようです。会ったことのない読者が私を信用し、購読料を払ってくれたことで、私は韓国初の「文学直売」を成功させました。その後も「日刊イ・スラ」は四年間、盛況に続きました。
この本は、若くて粗い百坪の畑のようなものです。このように勇敢に書くことはもうできないでしょう。だからこそ良いとも言えますが、成長しなければならないとも思います。
本書は私の初期の作品ですが、今はもっと多様なジャンルにわたって書いています。変化した私の最近の作品も、いつか日本のみなさんに読んでいただける日が来ることを願っています。その日を心待ちにしながら、楽しんで、ずっとずっと文章を書いていきます。
二〇二一年秋、ソウルにて
愛と勇気を込めて
イ・スラより