Humpty Dumpty
Humpty Dumpty sat on a wall,
ハンプティ・ダンプティ へいに すわった
Humpty Dumpty had a great fall.
ハンプティ・ダンプティ どかっと おちた。
All the King’s horses and all the King’s men,
王さまのウマ、へいたい、けらいと みんなで
Couldn’t put Humpty together again.
ハンプティ もとに もどせなかった。
ナーサリィ・ライムズ(マザー・グース)の中で、とびきりの人気者のハンプティ・ダンプティという登場人物をご紹介します。わずか4行の詩の中に堂々と登場し、超有名なハンプティ・ダンプティは、この名前そのものが体(たい)を表しています。名前を声に出すだけで、その姿が目に浮かぶほど、hump(もっこり)としてdump(ずんぐり)な人物。英米の子供たちはこの詩を、声に出して言ったあとに、決まってこういいます、「これは、なーんだ」。
実はこの詩はなぞなぞです。答えは、わかりますか?(*答えは一番最後に)
【読み取りと翻訳の小さなヒント】
*humpとdumpにtyやyがついて、親愛の情がうかがえます。かわいいもの、ちいさいものに、ついているのを度々目にしているでしょ。puppy(子犬)、kitty(子猫)、pony(子馬)、babyとか。
*sat on a wall:訳としては短くするために「へいのうえ」でもいいくらいです。でも絵がないと横になっていると思うかもしれない、つまり、英語はいつもきちんとどんな様子かを伝えていますよね。そこで、sitの過去形satを訳にちゃんと入れました。
*a great fall:fall は動詞も名詞も数十の意味があります。ここは名詞で「墜落、落ちること」などですが、had a fallがあって、落ちたと訳せます。
*the King’s horses:複数を表すsがつき「(王様の)騎兵、騎兵隊、(王様の)家来」。ここで私の訳には騎兵隊を使わなかった理由があります。小さな子どもには難しい言葉だからです。horse(horses)とman(men)は簡単な言葉です。
*put together:「よせあつめる、組み立てる、くっつける」が元の意味ですが、寄せ集めても元の形に作れないというところから「もとにもどせなかった」と訳しました。
ハンプティ・ダンプティを一躍有名にしたのは、数学者であるのに、子ども向けの物語『不思議の国のアリス』(1865年)を書いたあの人、ルイス・カロルでした。(日本ではルイス・キャロルとされていますが、本来の発音[kǽrəl]に近いのはカロルです)2つ目の物語『鏡の国のアリス』(1872年)の作品の中で、挿絵画家ジョン・テニエルとともに目も鼻も口もあるハンプティを登場させ、個性あふれる「人物」としました。作家は、ナーサリィ・ライムズから、ハンプティ・ダンプティを借用したわけです。ついでに言いますと、他にもいくつかの詩を作品に引用しています、例えばTwinkle, twinkle, little star…をTwinkle, twinkle, little bat…にしているなど、少々言葉を変えながら面白可笑しく書いています。
カロルは最後の行を、変えました。 Couldn’t put Humpty in his place againとしています。そのために、なんだか和歌や俳句の字余りの詩になっていますよね。
『鏡の国のアリス』よりアリスとハンプティ・ダンプティ
アリスはハンプティ・ダンプティを目にしたとき、たまごみたい、とか、あれはベルトかしら、蝶ネクタイかしらなどとつぶやき、ハンプティを不機嫌にさせます。そして、ハンプティが自分の言い訳をきいていないようなので、アリスはそっと字余りのハンプティ・ダンプティの詩をくちずさみます。それから、またつぶやきます。「おわりの言葉だけど、詩としてはとっても長すぎるわ」って。確かに。「ハンプティ・ダンプティを もとのところに もどせなかった」ですから、長すぎ!
アリスはこの4行の詩が、なぞなぞだと、わかっていたはずです。でも、作品のなかでは決してハンプティ・ダンプティは、落っこちません。なぞなぞであるなんてことは、すっかり忘れられています。しかし、研究家のピータ・オピー氏はこう言っています、「これが、あまりにも良く知られているなぞなぞで、古いなぞなぞの本にも載っていないのだから、私はカロルに異議申し立てはできない」。
似たような民話があちこちの国にあるように、このハンプティ・ダンプティの詩は、ヨーロッパの各地にあるそうです。フランス語やドイツ語を勉強した人、探してみて。
この詩の言葉を使って「もとにもどせない」という状況を表すことがあります。例えば、アメリカの映画は危なげな政治の世界を描いていて、タイトルは“All the King’s Men”(注:1949年製作版と2006年製作版があり、いずれも原作はロバート・ペン・ウォーレンの同名小説)です。この1行を見てすぐに、ハンプティ・ダンプティの言葉を思い出せるというわけです。せまい塀の上に座っているという、なんというあやうさ、もろさをこの詩に感じます。
ついでながら。英国で「ノンセンス」論争があった時代がありました。ルイス・カロルかエドワード・リアのどちらが優れたノンセンス作品を書いたか、というものでした。結論は出なかった。どちらも最高のノンセンス作家ですから。二人の作品に加わるのは、そのノンセンス性からマザー・グース (ナーサリィ・ライムズ)である、と主張しているのが私です。次回は、たっぷりのノンセンスのあるものを選びましょう。
*答・たまご
(文と訳=みむら・みちこ)