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マニマニ教えて!今の韓国ヨギヨギ~

似ているようでちょっと違う!日本語と韓国語 ―お金は「下ろさない」?トイレの水は「流さない」?

#韓国語学習 #한국어학습 #文法 #문법


皆さんの「そうそう!これ、聞きたかったぁ~」に答える連載『マニマニ教えて!今の韓国ヨギヨギ~(たくさん教えて!今の韓国こっちこっち~)』です。韓国で、または日本で韓国関連分野を研究している先生たちが今の韓国についてやさしく解説してくれます!韓国語版おまけ付きで、言葉の勉強もできるなんてチョアヨ(素敵です)>_< 連載を読み終える頃には、あなたも韓国通になっているかも?!

第24回は、朴天弘先生(東京大学)です。今回は「単語は合っているのに、つなげてみたらおかしなことに・・・」という現象を解説していただきました。韓国では「お金は下ろさない」とは、一体どういうことでしょうか?


 執筆者: 崔銀景 河正一 飯倉江里衣  

      金根三 朴天弘 鄭敬珍    


 ずっとほしかった限定商品を見つけたけれど現金を持っていないとき、「돈 내려 올게요.[ドン ネリョ オルゲヨ]お金を下ろして来ます。」と言った経験はありませんか。「お金、下ろして来ます」と言ったつもりでも、多分韓国人にはうまく伝わらず、「돈을 내려요?[ドヌル ネリョヨ](上から下の方に)お金を下ろすって意味ですか。」と不思議な顔をされてしまうかもしれません。

 外国語を学習するときは、母語の知識を使って対象言語にも当てはめようとする傾向がありますが、日常生活でよく使う表現の場合には、一つの形式が複数の意味を持っていたり、二つの単語が強く結び付けられ、ひとまとまりの性格を持っている表現がたくさんあります。このような表現はもはや「A+B=AB」ではなく、「A+B=C(AとBを合わせて新しい意味を表す)」場合が多いため、直訳ではうまくいきません。ですので、上記のような間違いは外国語を学習する人には誰にでもあり得ることだと思います。

 日本語の「下ろす」を韓国語で調べると「내리다[ネリダ]」として説明されることが多いですが、今回はこの「내리다」についてお話ししたいと思います。

 「내리다」という動詞は、初級韓国語では普通「버스에서 내려요.[ボスエソ ネリョヨ]バスから降ります。」のように「降りる」か、または「비가 내립니다.[ビガ ネリムニダ]雨が降ります。」のように「降る」の意味として習います。「내리다」は、「(雨・雪など)が降る」、「(人)が(乗り物)から/を降りる」、「(人)が(モノ・コト)を下ろす」などに使われ、全般的に「あるモノ・コトが(相対的に上から)下のほうに動く」イメージがあることがわかります。

  ① 비가 내리다([ビガ ネリダ]雨が降る)」

  

  ② 마차에서 내리다([マチャエソ ネリダ]馬車{から/を}降りる)」

  

  ③ 짐을 내리다([ジムル ネリダ]荷物を下ろす)」

  

  ④ (화장실) 물을 내리다([ムル ネリダ](トイレ)水を流す)」

  

 どうですか。上の①から④においてそのようなイメージが湧いて来ますか。ここで③のように日本語の「下ろす」に対応できる訳があるため、銀行のATMで「お金を下ろす」のような場合に、韓国語学習者は「내리다」を使ってしまう間違いが生じやすいわけです。しかし、銀行やATMの場合では、お金を「내리다」ではなく普通「찾다([チャッタ]探す)」、そのほかにも「뽑다([ポッタ]抜く、引き抜く)」、「꺼내다([コネダ]取り出す)」、または、漢字の「인출(引出)」を使って「인출하다([インチュラダ]引出す)」と言います。銀行に預けた自分のお金を「探す」、ATMからお金を「取り出す」のような感覚ですね。

 また、日本語では「내리다」を「下ろす」という状況では使わないために起こる間違いもあります。④のようなケースがそれです。トイレで使う「(水を)流す」という表現の場合、日本語は「(トイレの)水を流す」のように「流す」という動詞を使いますが、韓国語ではこの時も「내리다」を使います。「レバーを下ろして、水を下の方向に移動させる」と考えれば「내리다」を使うイメージが湧いてくるのではないしょうか。このような日本語との違いから、公衆トイレの案内文(韓国語)では日本語の「水を流してください」を「흘리다[フルリダ]流す」にそのまま変えて、「물을 흘려 주세요.([ムル フルリョ ジュセヨ]水を流してください。)」と訳して表示してある場合があります。しかし、韓国語としては「물을 내려 주세요.[ムル ネリョ ジュセヨ]」と言うのが一般的です。

 このほかにも、飲み物の場合でも「내리다」を使う場合があります。皆さんは、コーヒーはお好きですか。私は毎日2杯くらい飲んでいますが、コーヒー豆(커피콩[コピコン])を買ってきて、飲むたびに豆を挽いて(갈아서[ガラソ])、自分でお湯を注いで飲んでいます。このような飲み方で「コーヒーを淹れる」は韓国語でどう表現するかわかりますか。ヒントは、「挽いたコーヒー豆に注いだお湯」はどうなるのでしょうか。正解は、そうです。「커피 한 잔 내려 줄까?([コピ ハンザン ネリョ ジュルカ]コーヒー一杯淹れてあげようか。)」のように「내리다」を使います。

 外国語の学習においては習慣化されている表現をどれくらい使いこなせるかは大事です。似ていると思われる言語であっても、当然違いがあるという事実と向き合って、学習していく姿勢が必要だと思います。今回は、日本語を韓国語で考えるときの違いとして、「내리다」を中心に関連のある表現についてお話をしました。韓国語では、お金は下ろさないし、トイレの水は流さないということを確認しましたね。잊어 버리지 마세요.(忘れないでくださいね)。今日はどんな一日でしたか。疲れた日は、好きな音楽をかけて「한 잔 가득 내린 커피를 마시며(たっぷり淹れたコーヒーを飲みながら)」一息つくのもいいですね。

朴天弘(東京大学)

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著者略歴

  1. 朴 天弘(パク・チョンホン)

    韓国ソウルの出身。韓国外国語大学で日本語を専攻、2007年から東京大学大学院言語情報科学専攻で言語学を専攻。日本の放送大学やNHKラジオ講座に母語話者ゲストとして出演したことをきっかけに、韓国語を母語ではなく外国語として見るようになる。研究分野は日本語をベースとした意味論や推論、日韓対照研究などに興味を持っていて、今は中国語にも興味がある。いつも楽しく授業ができるように心がけている。現在、東京大学 大学総合教育研究センター、特任講師。

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