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教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.135「正しいオーバーラッピングとシャドウィングの練習法」

リスニング学習についての質問です。

今まで、リスニング対策をあまりしたことがなかったのですが、 『シャドウイングが効果的』 というのを方々で聞き、 4月にTOEICを受けた翌日からオーバーラッピングとシャドウイングを行っています。 実際に録音に重ねるようにして音読(オーバーラツピング)したり、録音に後追いで音読(シャドウイング)をしているのですが 少々噛んでしまったり、 少々言い間違いを繰り返して、 気付けば1つの長文に1時間半かけて、 未だに一文通してきれいに読めていない というケースが多発しています。※その過程で何度も聞いているので、聞き取ることはできていると思うのですが。

上手くいかないとイライラしますし、 非常に効率が悪いとも感じています。他の学習者の方はどのようにオーバーラッピングやシャドウイングに取り組んでいるのでしょうか。そして、正しい練習方法についてご教示頂けますと幸いです。 宜しくお願い致します。

(なかたけ、31歳、会社員(休職中))


 

まずは簡単な教材でシャドーイングしましょう!

TOEICのリスニングセクションの対策としてオーバーラッピングとシャドーイングを取り入れて学習されているというのは、本当に素晴らしいことです。オーバーラッピングもシャドーイングも、やり方次第ではリスニング力の向上に大いに役立つのに加えて、テスト対策だけでなく、将来的にスピーキングのための発音の練習にもなりますから、一石二鳥の練習です。

オーバーラッピングもシャドーイングも、音声教材から聞こえてくる音声を、スピード、強弱、イントネーション、息継ぎに至るまで完全にコピーするという練習方法です。この2つの練習方法の唯一の違いは、オーバーラッピングは音声教材と100%シンクロして完コピをするのに対し、シャドーイングは数秒遅れて完コピするという点です。いずれの方法も、音声教材に登場する語彙表現をすべて口に出しますし、スピード、強弱、イントネーションなどをすべて真似するため、聞き取りの練習だけではなく、発音の練習になります。したがって、オーバーラッピングもシャドーイングも、英語の音声に関する学習方法として効果的です。

 

練習は内容を理解している英文で!

「一文通してきれいに読めていない というケースが多発して」いるとのことですが、オーバーラッピングもシャドーイングも、理解できないレベルの英文を使用した学習はあまりおススメできません。自力で理解できないような語彙表現を含む教材を使用する場合には、まず、聞いたり読んだりするいわゆるインプットの学習を通して、語彙や文法の学習をして、それらの表現を難なく理解できるようにするのが先決です。

これは言語学習の基本的な法則です。いかなる言語学習もインプット、つまり聞いたり読んだりして理解することから始まります。音声教材の中に聞いて理解のできないものが含まれていると、その言語学習の法則を無視していることになります。教材にはスクリプトがあるので、理解できていなくても無理やり話したり書いたりするアウトプットの練習をすることはできますが、インプットで理解できない語彙表現は、まだアウトプットする準備ができていないということなので、それほど効果的とはいえません。可能であれば、オーバーラッピングやシャドーイングのようなアウトプットを必要とする練習をする際には、馴染みのない語彙表現を含まない音声教材を使用することをおすすめします。ご自身のレベルに合わせて、自力で理解できる語彙表現のみで作成されている教材を使用するとリスニング力アップのための音声の学習に役立ちます。

 

完コピへの練習方法!

適切な教材の選び方と同様に重要なのは学習方法です。オーバーラッピングとシャドーイング、いずれの練習方法も以下の手順で行ってみてください。

1.音声を聞いて内容を理解する。

2.再度音声を再生して、出来る限りコピーする。

3.2を何度か繰り返す。

4.スクリプトを見て聞き取れていない部分の音声を学習する。

5.スクリプトを見ながら完コピする。

6.スクリプトを見ずに完コピする。

最初の1~3で、知っている語彙表現なのに聞こえてこない箇所というのがあると思いますが、聞こえてこない原因の多くは、発音や音のつながりなどの知識不足です。リスニング力アップには、この発音と音のつながりの理解のための練習としてオーバーラッピングやシャドーイングを取り入れるといいでしょう。

リスニング力アップのためには、リスニングにおける語彙力も向上しなければなりません。リスニング教材の中に理解のできない語彙表現があった場合には、まず聞いて理解できるようにすることが最優先です。無理にアウトプットの練習をせずに、聞き取りに絞って練習するといいと思います。

 

完コピを目指しつつも、気楽にこなそう!

それから、これは英語学習全般にいえることなのですが、オーバーラッピングもシャドーイングも確かに効果的な練習方法です。しかし、完璧を目指してストレスを感じるようであれば、その効果はあまり期待できなくなります。多少言い間違えても、言いよどみがあっても大丈夫です。確かに完コピを目指す練習方法ではありますが、プロのアナウンサーやナレーターではありませんから、ある程度長さのあるスピーチを間違えずに言い切るというのはとても難しいタスクです。日本語の音声を使用してオーバーラッピングやシャドーイングをしてみると、どれほどこのタスクが難しいのかが理解できると思います。母国語ですら簡単にはできないことなので、英語で完璧を目指す必要はありません。聞き手が理解できないレベルの間違いは修正するべきですが、理解にそれほど影響しないような小さな間違いや、言い直しができた場合には、成功したことにしても問題ありません。あまり、完璧を目指し過ぎてストレスを感じて、学習が苦痛になってしまっては継続学習ができなくなります。そうなれば、それ以上のレベルアップが不可能になります。それより、少し間違えていても長く継続学習できた方が、最終的にたどり着くレベルが高くなりますから、英語学習を長い目で考えて、楽しく続けられる方法を選んでください。

 

学習モチベーションを継続させるには

これまでオーバーラッピングやシャドーイングに挑戦されてきて、間違いを繰り返して完璧にできないことにネガティブな感情を抱いたこともあったのにも関わらず継続されてきたという事実には本当に頭が下がります。モチベーションが高いことがとてもよく分かります。そういう方こそ、ぜひ楽しみながら英語学習を継続していただきたいので、ここでは言語学習とモチベーションの関連性について簡単に説明させてください。

まず、英語学習を始める際にはモチベーションが必要になります。きっかけは、学校の必修科目だったから仕方なく英語学習を始めたり、両親の仕事の都合で海外に住むことになり、現地の学校で生活するのに英語学習を余儀なくされたり、キャリアアップのために英語資格が必要になったりと様々です。これらはあくまでも英語学習を始めるきっかけなので、それだけではなかなか継続するモチベーションには繋がりません。

それでは、継続するためにはどのようなモチベーションが必要なのでしょうか。それにはいくつかモチベーションがありますので、ご自身に当てはまりそうなものをできれば複数取り入れてみてください。

 

英語学習に楽しみを

まず、英語学習そのものが楽しいと感じることです。これは、英語学習を趣味や娯楽のひとつと捉えると理解しやすいと思います。例えばゲームを始めるとついつい没頭してしまい、時間を忘れて何時間もゲームをしてしまう方がいます。それほど没頭する方は稀かもしれませんが、英語学習そのものに楽しさを見出せる方は、継続することにそれほど苦労しません。

 

自己分析をして、その成果をモチベーションに!

次に多くの人に当てはまるモチベーションです。これにはいくつかのプロセスが必要なので、試してみてください。まず、自己分析が必要です。たとえば、リスニング力の強化をしているのであれば、現在どの程度リスニングができるのかを詳しく知ることが重要になります。これは、問題集を解いて何問正解するかというような自己分析ではありません。聞き取りの際に、どの表現が聞き取りによって理解でき、どの表現が理解できないのか。理解できない場合は、その要因は発音に関する知識不足なのか、語彙力不足なのか、文法知識が不足しているのか、というようにマイクロレベルのスキルで分析することをおススメします。

この自己診断のためには、多少難しい教材を使用するといいでしょう。TOEICのパート4の音声のようなものを使用するといいと思います。まず、音声を聞いてみて、完全に意味が理解できるかどうか確認してみてください。問題集にある問題が解けるかどうかではなく、話されている内容が完全に理解できたかどうかを確認することが重要です。一度で理解できなければ数回聞いてみてください。聞き取りによって理解できるかどうかを確認する必要があるので、まだスクリプトを見ないように注意してください。今ここで理解できる部分が現在の自分自身のリスニング力です。

次のステップでは、スクリプトを読みます。ここで注意が必要なのは、和訳はまだ見ないことです。あくまでも英文のスクリプトを読んで、聞き取りのみでは理解できなかったのが読むことで理解できるようになった箇所を確認します。この段階で新たに理解できるようになった箇所は、既知の語彙表現や文法知識が音声になった途端に理解できないということなので、二つの要因が考えられます。一つ目は、個々の語彙表現の発音か音のつながりに関する音声の知識不足です。もう一つは、語彙表現や文法知識がまだ自分のものになっていないため、音声のスピードで意味を理解するための処理能力不足です。前者が原因であれば、辞書などを使用して個々の語彙表現の発音を確認したり、知っている語彙表現のみの比較的簡単な教材を使用して、音のつながりの学習をするといいでしょう。後者の場合、同じ教材を何度も聞いて音声のみで理解できるようにする練習や、あるいはスクリプトをできるだけ早く読み、素早く内容を理解できるようにする練習をするのもいいと思います。その際、一度読んだ箇所を再度読み返すことは絶対にしないように注意してください。音声は聞き逃した箇所に戻ってくれないので、読む際にも同様の負荷を与えることで練習できます。

スクリプトを読んだだけで理解できない場合は、和訳を頼りにどの箇所が理解できてなかったのか確認してください。これは、その箇所の語彙表現や文法が理解できていないということなので、ここでは新たに語彙表現や文法の学習を行うべき箇所です。辞書や参考書を使用して、語彙表現も文法知識も続けていきましょう。一度学習しただけでは身につきません。学習しようとしている表現を含む文を、複数回読むことをおすすめします。学習したい表現を引用符使ってオンライン検索(例:”学習したい表現”など)すれば、簡単に例文が見つかるので、語彙表現の学習に役立ててください。

このように自己分析を定期的に行うと、ご自身の英語力が向上していることを実感することができます。自力で理解できる語彙表現が増えていくことも実感できますし、音声に関する知識が増していくことも実感できます。この小さい成功体験を実感することが継続学習にはとても重要です。なかなかうまくできないと学習をネガティブの捉えるより、出来るようになったことに着目して学習経験をポジティブに捉えることが継続するモチベーションになります。ぜひ試してみてください。

 


★編集部より★

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著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

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