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マニマニ教えて!今の韓国ヨギヨギ~

似ているようでちょっと違う!日本語と韓国語 ―「青春しています(アオハルしています)!」

#青春 #청춘 #青春してます! #청춘해요!


皆さんの「そうそう!これ、聞きたかったぁ~」に答える連載『マニマニ教えて!今の韓国ヨギヨギ~(たくさん教えて!今の韓国こっちこっち~)』です。韓国で、または日本で韓国関連分野を研究している先生たちが今の韓国についてやさしく解説してくれます!韓国語版おまけ付きで、言葉の勉強もできるなんてチョアヨ(素敵です)>_< 連載を読み終える頃には、あなたも韓国通になっているかも?!

第20回は、朴天弘先生(東京大学)。同じ漢字語に見えるけれど、日本語と韓国語で大きくニュアンスが異なることがあるようです。今回は「青春」という言葉をめぐって、意味から文法までくわしく解説していただきました。


 執筆者: 崔銀景 河正一 飯倉江里衣  

      金根三 朴天弘 鄭敬珍    


 みなさん、こんにちは。今回は、私が友達の数人で海に遊びに行ったときの出来事をお話しようと思います。私が「海に行って、みんなで楽しく夏を満喫してきた」と日本人の友達に話したら、こう言われました。


                「青春してますね!」


そのとき何となく意味は分かりましたが、面白い表現だと思いました。そして数年後、韓国語学習者の作文でこう聞かれたこともありました。「선생님도 청춘해요? [ソンセンニムド チョンチュンヘヨ?]」。最初は頭を傾げたのですが、数年前私が友人から言われたことを思い出して、「先生も青春していますか?」のことだとハッとしました。

 「青春」(韓国語で「청춘[チョンチュン]」)ということば、辞書では「夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代を、人生の春にたとえたもの」と解説されています[1]。日本では、よく高校生の恋愛・文化祭などの充実した学校生活を表している場合が多いようです。この「青春」に「する」をつけて動詞の「青春する」、さらに今まさに「青春する」を「している」、「青春している」の形で、そのような活動をしている、楽しんでいるという意味としても使っているとよく耳にします。しかし、「青春していますか?」を韓国語で「청춘해요?[チョンチュンヘヨ?]」と言っても、そのことばの意味がうまく伝わりません。最近、韓国でも広告で「청춘해요![チョンチュンヘヨ]」というフレーズが使われたことがあるようですが、やはり変な表現だと思う人が多いようです。その理由は、「青春」という名詞に「する」をつけた「青春する」ということばが韓国では使われない(まだ一般的ではない)からです。

 韓国の『標準國語大辞典』から「청춘」の意味を調べると、「10代後半から20代までにわたる、人生の若い年齢、または、そういう時代」と解説しています。韓国語の「하다[ハダ]」は、下記の①の「勉強」や「掃除」のように、ある動作性を持つ名詞にくっついて「する」という意味として使われますが、②のように状態や性質などを表す表現の後に付いて、形容詞にするときに用いられる場合もあります。

 ① 공부([コンブ]勉強)+하다 → 공부하다(勉強する) <動詞>
 ② 유명([ユミョン]有名)+하다 → 유명하다(有名だ) <形容詞>

 つまり、「青春」は「10代後半から20代までにわたる、人生の若い年齢、または、そういう時代」という意味なので、動作性やある状態・性質を表しておらず、それが故に、韓国語の「청춘하다」は不自然に感じるのかもしれません。

 改めて日本語の「青春する」について考えてみると、もはや「青春する」は「青春+する」の足し算の意味ではなく、「夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代、恋愛・文化祭などの充実した学校生活をする」という意味を表していると言えます。ですが、韓国語の「청춘하다([チョンチュンハダ]青春する)」はそのような意味合いにはまだなっていません。その都度、具体的に表現する必要があるのです。「青春していますか」と言いたい場合、それが文化祭などの学生生活のことであれば、「학교 생활 재미있어요?([ハッキョ センファル ゼミイッソヨ]学校生活楽しいですか?)」、若い時期を「楽しんでいますか」の意味であれば、「하다([ハダ]する)」を使うのではなく、動詞の「즐기다([ズルギダ]楽しむ)」使って、「청춘을 즐기고 있어요?([チョンチュンウル ズルギゴ イッソヨ]青春を楽しんでいますか?)」、または恋愛のことだとすれば、「남자/여자 친구 있어요?([ナムザ/ヨザ チング イッソヨ]彼氏/彼女いますか?)」などのように具体的に表現したほうがいいですね。

 実はこれと似ているケースを最近見つけました。SNSやネット上で、たまに「カフェする」という表現を目にすることがあります。「カフェして帰ろう」や「一人カフェしている」、これらの表現も本来ならば、「カフェに行ってコーヒーなどを飲んで帰ろう」や「一人でカフェに行ってコーヒーなどを飲んでいる」と言うべきでしょうか。やはり、「青春する」と同じく、「カフェする」も単純に「カフェ+する」の意味ではないことがわかります。ですので、「カフェして帰ろう」や「一人カフェしている」を韓国語で表現するならば、「커피숍 갔다가 가자.([コピショップ カッタガ ガザ]カフェに寄って帰ろう)」「혼자서 커피 마시고 있다.([ホンザソ コピ マシゴ イッタ]一人でコーヒー飲んでいる)」のように言ったほうがいいかと思います。「青春する」や「カフェする」は、まだまだ韓国語では日本語ほど自然ではないようです。

 今回は、日本語を韓国語で考えるときの違いとして、ちょっと特別な「青春している」について話をしました。「青春している」の表現が正確に何を表しているかは、使われる文脈によって韓国語では具体的に表現したほうがいいと思います。ですが、私は日本語の、曖昧で、分かったような分からないようなこのことばが好きです。そういうはっきりしない、もやもやする感じが、青春とも言えるのではないでしょうか。「여러분, 청춘을 즐기고 있어요?([ヨロブン、チョンチュンウル ズルギゴ イッソヨ]皆さん、青春を楽しんでいますか?)」私は、気持ちだけは青春!…です。

朴天弘(東京大学)

 韓国語ver.はこちら 


[1] デジタル大辞林からの引用

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著者略歴

  1. 朴 天弘(パク・チョンホン)

    韓国ソウルの出身。韓国外国語大学で日本語を専攻、2007年から東京大学大学院言語情報科学専攻で言語学を専攻。日本の放送大学やNHKラジオ講座に母語話者ゲストとして出演したことをきっかけに、韓国語を母語ではなく外国語として見るようになる。研究分野は日本語をベースとした意味論や推論、日韓対照研究などに興味を持っていて、今は中国語にも興味がある。いつも楽しく授業ができるように心がけている。現在、東京大学 大学総合教育研究センター、特任講師。

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