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「まとも」から抜け出すための対話

木ノ戸昌幸さん×稲垣えみ子さんトークレポート(1)「あげる」と人とお金が集まってくる

木ノ戸昌幸さん(以下、木ノ戸) 今日を迎えるまでずっと緊張していたんですが、お会いしてやっと肩の力が抜けました。今日はよろしくお願いいたします。

稲垣えみ子さん(以下、稲垣) 初めまして。こちらこそお会いするのを楽しみにしていました。よろしくお願いします。
 私が『まともがゆれる』に寄稿させていただいたのは、たまたま以前からお付き合いがあった担当編集者さんから依頼を受けたのがきっかけなんですが、本を読ませていただいて、即答で「書きます!」とお返事しました。
 というのも、私はいま54歳で、高度成長期に生まれて、良い大学、良い企業へと良いポジション取りしていこうという価値観のなかで生きてきたんですが、3年ほど前に亡くなった母が、最後の3年間くらい認知症だったんですね。努力すればなんとかなる、上へ行くことが幸せだという価値観では解決できない問題にぶち当たったんです。
 でも「母の老い」はマイナスなことだけじゃなくて、間近で見ていて老後に対する考えも変わりました。「老後不安」って、老後は海外旅行とかにたくさん行くのが幸せ、みたいな「リッチな老後」のイメージと表裏一体で、そうなれなかったときにどうなるんだ、という恐怖だと思うんです。でも老後の幸せってそれだけじゃないんじゃないか……と考えはじめて。
 そんなときにこの本を読んで、ここに「脱出口」があるんじゃないかと。すごくいい出会いをさせていただきました。そういえば、木ノ戸さんっておいくつなんですか?


木ノ戸 41です。

稲垣 私と干支がひと回り違うんですね。

木ノ戸 やっぱり一緒の干支ですか!というか、そう思いたかったです(笑)。

 
稲垣 世代の違う方がこういう本を書くっていうこと自体、すごいなと思います。昔は若くて才能ある人を見ると、怯えたり嫉妬したりしていたんですが、最近では嬉しいというか。まだまだ日本大丈夫!みたいな気持ちになります。

木ノ戸 ありがとうございます。僕は眼鏡とか髭のせいとかでよく「怖い」って言われるんです。眼鏡は、スウィングを立ち上げた2006年の半年後くらいに強烈なストレスにやられまして、いわゆるパニック障害になったんですね。あれは突然来ます、みなさんも明日来るかも分かんない。今はもう発作もなくなったんですけど、それから光にすごく弱くなって。

稲垣 そうだったんですね! 私も眼鏡、掛けてきていいですか?

木ノ戸 え? い、いいですけど。

稲垣 じゃ、ちょっと失礼します。

木ノ戸 実は今日、ご参加のみなさんにお土産として詩集をご用意しました。スウィングは「なんかあげる」ということに価値を感じてまして。金銭を介さない、難しい言葉で言うと「贈与」ということになるんですけれども。

稲垣 (稲垣さん戻ってくる)あ、はいはい、贈与の話ですね……あの、どうですか。眼鏡!

木ノ戸 ……そのフレーム、どこのですか? 高そう。



稲垣 これ、今の私の所有物のなかで一番高価なものなんですけど。前は500円のサングラスを使ってたんですが、壊れちゃって。たまたま仕事で銀座に行ったとき寄ったGINZA SIXの眼鏡屋で、なぜか店員さんに英語で話しかけられるという困惑の事件とともに購入した、思い出のサングラスです。(木ノ戸さんの眼鏡に)負けてねーぞ!って気持ちで。で、何の話でしたっけ?

木ノ戸 贈与の話です(笑)。「あげる」が流行ってるっていうか、大事だなと思ってて。

稲垣 なんで「あげる」に凝りはじめたんですか?

木ノ戸 お金のやり取りに、罪悪感が伴うことってないですか? 例えば絵画が数十万円とかで売れて、こんなにもらっていいのかなとか。作品に価格が付くと、お金を出す人しか手に入れられないじゃないですか。でもお金がなくても、それを生活のなかに取り込みたいという人はいる。だから、じゃあそのお金という概念をとっぱらってみようと。そうすれば、欲しい人が気持ち良く手に入れられる。
 作品を差し上げてみたところ、お金の代わりに「もらった人が喜ぶことが嬉しい」という対価を得ることができたんですね。なのでどんどんあげているんですが、そうすると、逆にお金が集まってくるんですよね。

稲垣 ……いやー分かる! ちなみに具体的に言うと、どんなことですか? 

木ノ戸 いちばん分かりやすいのはスウィングで発行しているフリーマガジンですね。その中で、年会費というかたちでスウィングをサポートしてもらう賛助会員を募集しているんですが、フリーマガジンを配れば配るほど、会員が増えます。
 あとスウィングには、全国、遠い場所だと海外からも見学者がたくさん来るんですが、交通費とか宿泊費とか支払って来ているわけですから、どこかに経済効果が生まれている。見学者を受け入れるだけで、経済活動に関与できるという不思議なことが起こるなあと。あるいは、僕たちが無料で行ってきた日々の活動を元に本ができることで、本を買ってくれる人がいたり、電車賃を払ってイベントに来てくれる人がいたり。

稲垣 会社をちょうど50歳で辞めたんですけど、それまで給与生活者だったので、どんな不良社員でもクビにならない限りは毎月、期日にお金が振り込まれていました。なので辞めるときに何を一番恐れたかっていうと、定期収入がなくなることです。大学を出てすぐに就職して働いてきたので、そんな経験がなかった。だからまず、お金のことをすごく考えたんですよ。でも実際に会社を辞めて生活してみて気づいたのは、実は世の中って「あげたい」人が多いってことです。お金は貯められるので貯め込みたいって思考になっちゃうんだけど、その枠をとっぱらって考えると、実は人って「もらう」よりも「あげる」ほうが幸せを感じるらしいんですよね。でもお金を貯めこむことばかり考えていると、それだけが目的化してしまって、人に喜ばれたいって思いが遠のいていくってことがあるなあと。
 『まともがゆれる』には、お金を生む仕事は偉いとか、お金を生まない「福祉的就労」はダメとかじゃなくて、それをミックスするのがちょうどいいって書いてあって、あ、自分がやっていることと同じだなと思いました。お金で動くことも世の中と関わる方法のひとつだけど、それだけでは世界が細っていってしまう。お金を介さずやってみると、意外と人間関係に動きが生まれるというか。経済って結局回っていけばいいので、そのひとつの手段がお金なんですけど、「嬉しい」という感情もその手段じゃないかと。

木ノ戸 お金が生まれない仕事にも価値があると思ってるし、それを創造していくことが僕たちの役割のひとつだと思っています。同時にお金は必要で、あるときにはとても便利なものにもなる。だからお金が生まれる仕事もしているんです。
 

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著者略歴

  1. 木ノ戸昌幸

    1977年愛媛県生まれ。NPO法人スウィング理事長。立命館大学文学部卒。引きこもり支援NPO、演劇、遺跡発掘、社会福祉法人勤務等の活動・職業を経て、2006年にNPO法人スウィングを立ち上げ、「障害福祉」の枠を超えた創造的実践を展開中。今回が初の単著。

  2. 稲垣えみ子

    1965年愛知県生まれ。87年朝日新聞社入社。論説委員、編集委員を務め、原発事故後にはじめた「超節電生活」を綴ったアフロヘアの写真入りコラムが話題となる。2016年に早期退職し、現在は築50年の小さなワンルームマンションで、夫なし、子なし、定職なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしの「楽しく閉じていく人生」を模索中。近著に『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)など。

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