アメリカに虫取り少年はいる?
*こちらは朝日出版社メールマガジン『英語を“楽習”しましょ』記事のバックナンバー連載です
「ホタル狩りって英語でなんて言うの?ニューヨークの人もホタル狩りってするの?」と聞かれて考えたんですが、この季節ならセントラルパークあたりに行けば夕刻に普通にホタルはいます。日本のゲンジボタルやヘイケボタルよりもひと回り大きく、しぶとそうな光を放っています。西海岸の人は見たことがないと言うので、全米どこにでもいるというわけではないようですが。fireflyと「火のハエ」って名前で呼ばれているのがちょっと気の毒な気もします。
「ホタル狩り」の「狩り」の方ですが、英語でも「ハント」という言葉はよく使われます。セールをあさることをbargain hunt、イースターの時に大人たちが隠した色付きの卵を探す遊びをegg hunt、女の子同士でバーや海に出かけて行ってイケメンを物色するのがboy hunt。ただし、ホタル狩りや紅葉狩りのように鑑賞するだけに留まるのは「ハント」とは言いません。卵もオトコもゲットしてナンボです。
ホタルに限らず、アメリカの男の子はあまり「虫を捕まえて飼う」遊びをしない気がします。子どもの頃を思い出しても「虫かご」や「虫取り網」っておもちゃ屋さんで売ってなかったような…。日本みたいに当然のようにクワガタやカブトムシも売ってませんし。虫は嫌というほどいるんですけどね。
中国人が「コオロギを飼う」と聞くと、アメリカ人は不思議そうな顔をします。映画『ラスト・エンペラー』で初めて知ったという人も多いです。
(写真:Ching Ching Tsui / Flickr)
虫の鳴き声を表すのにも、英語には日本語のような擬声語がほとんどないので、せいぜいこの記事に出てくるchirp(小鳥のピヨピヨという音)、hiss(セミの声のように何かが擦[こす]れるシャーっという音)、trill(コオロギの声のように細かいリズム感のある音)ぐらいしか表現のしようがありません。そもそも「鳴き声」って言わないし。よく日本の人がブログなどで夏の風物詩としてセミやコオロギのことを説明しようとして、crying(日本語でも「泣く」と「鳴く」は違うのに)って書いてしまうんですが、これ、全く伝わってませんから。
ただ、アメリカの子どもが虫に興味がないわけでもなさそうなんですけどね。日本でも人気のある絵本シリーズ『はらぺこあおむし』(The Very Hungry Caterpillar board book)の著者はエリック・カールというアメリカ人の絵本作家だし、ほかにもカマキリが主人公の『My Awesome Summer』や、『Du Iz Tak?』のように虫が出てくる絵本は大好きだし、 『アンツ』 (Antz)や『バグズ・ライフ』(A Bug's Life)のようなアニメーション映画も人気です。
だけど、日本人の「虫好き」にはかなわない。タマムシの羽を使った「玉虫厨子」[注1]っていうnational treasure(国宝)が奈良にあるよ、と言ったら「ぎょえ?」という反応をされたこともあります。タマムシも見たことないのに失礼な。ちなみに「虫博士」に当たる言葉はentomologist。
[注1] 玉虫厨子(たまむしのずし): 奈良県斑鳩町の法隆寺に所蔵されている飛鳥時代(7世紀)の仏教工芸品。
ニューヨークには知る人ぞ知る若き「虫博士」アーロン・ロドリゲスさんという人がいて、夏休みにはあちこちの植物園や博物館でレクチャーをしてくれます。子どもの頃から虫が大好きで、ゴキブリから毒グモのタランチュラまでペットにしていたそうです。でも、周りの子どもたちに彼の“ペット”を見せても無関心だったとか。三つ子の魂百まで、の心意気でニューヨーク大学でentomologyの博士号をゲット、虫一筋に生きているアフロのお兄さんです。
虫を見るとゾワっ!?とする人も多いと思いますが、それは相手のことを知らなくて、最初は怖いと思ってしまう人種差別的な気持ちとつながっているということですね。この夏、ぜひ童心に帰って虫と遊んでみてください。