民は食をもって天となす
日本人と中国人が一緒に仕事をすることになった。日本だと「打ち上げ」と称して終了後に飯を食う。中国はまず先に飯を食って,相手と親しくなる。仕事の前に親しくなって相手を理解しようとする。大事なことも「食事の場」で決まることが多い。
もし「まだ食事なし」なら,そのプロジェクトは見込みがないと知るべし。そう懇意にしている中国人に言われた。
実はこの話,私がその日本人であった。中国人は骨董ビジネスをしていて,中国で古美術を扱う骨董商を集めて訪日ツアーを組みたい。団体で来日し,バスツアーを組んで,日本でオークションを回りたい。ついては日本側の旅行社を手配してくれないか。私はこの方面に明るくないが,骨董は好きだし,旅行社も知らないわけではないので,「考えてみましょう」といった返事をしたのだった。
そして一ヶ月ぐらい音沙汰がなく,会う機会もなく,もちろんメシも食わず,この企画はどこかに消えてしまった。
ビジネスであれ友だち同士であれ,中国人にとって「ともに食事をする」ということは,我々の想像を超えた重要性をもつ。
何か頼み事があるときも,まず食事に誘いご馳走することを考える。招待するほうはメンツがたってうれしい。誘われる方も気持ちが良い。
そもそも頼み事なぞなくても「割り勘」ということはない。中国は,誰かが払う。おごるか,おごられるかだ。よく勘定書の争奪戦がおこる。中国人は,しかし,今回はだれが支払ったか,覚えておく。小さな恩でも,そのやりとりは心に記帳する。
言うまでもなく食事は大事だ。中国には「民は食をもって天となす」と言う言葉がある。食ほど大切なことは無いというのである。
人と会うときに,時間を決めるが,昼なら11時とか,夜なら7時とか,ともかく食事の時間帯を指定したほうがおごる。私は「では11時半に会おう」といったら,即座に「それはありがとうございます」と言われたことがある。もちろん「お昼をご馳走様」という意味だ。