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Empire State of Mind NYから英語小話

「男の子」「女の子」として育てない「ゼイビーズ」

ダイエットや、財テクや、環境保護運動……何をやるにしても「ちょっとやりすぎなんじゃないの?」と思ってしまうほど突きつめて徹底するのがニューヨーカー。それが上手くいったり、効果があったりすれば、ニューヨーク以外の場所でも受け入れられていくムーブメントになったり、トレンドとして世界中に広がっていくこともあれば、いくらなんでもそれは日本じゃムリ! と思うこともあります。今回はそんなびっくり仰天のTheybies(Babyをもじっている)について。


そもそも、英語って相手の性別に応じてhe/she、Sir/Madam、Mr./Ms. と使い分けなければいけないのって、ややこしいと思ったことありませんか? 例えばこちらからメールや手紙を出す場合、失礼がないようにしたいとは思うものの、名前から男性なのか、女性なのか分からないときはどうしてますか?DavidやMaryみたいに分かりやすい名前ならまだしも、AlexやPatだと、アメリカ人だって判断できません。私も以前、仕事でメールのやり取りをしていたFarleyという人を女性だと思っていて、いざ打ち合わせしてみたら男性が現れて(失礼がなかったかと)ヒヤッとしたことがあります。いっそのこと、どちらにでも使える敬称や、(s)heと表記してはダメなの? というのはアメリカ人でも思うらしく、3人称単数をtheyに置き換えたらどうか? と主張している人たちもいます。


一方で、今までは公的な場ではっきりと「男か女」しかなかった性別にLGBT[注1] が加わり、人間の性別というものが一筋縄ではいかないことが分かってきました。 言語上の理解では【sex】というのは生物学上、つまりペニスがついているかいないのかという区別で、【gender】というのは、本人が自分で男と感じるのか、あるいは自分が女だと思うのか、 【self-identification】(自己意識)上の性別、というふうに理解されています。
[注1] LGBT:レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシャル(Bisexual)、 トランスジェンダー(Transgender)、の頭文字からとった性的少数者を指す言葉。


さて、子育てをするにあたって、わが子に望み得る最高の環境を整えてやりたいという思いはどんな親でも同じではないでしょうか。Theybies(ゼイビーズ)というのは、まだ自分が何者であるかということも分からない赤ちゃんの時から「女の子」「男の子」と強調して育てること自体がおかしいのではないか、という親たちが選んだ新しい子育て、といえるでしょうか。


どんな産婦人科に行っても、赤ちゃんが生まれたとなれば「男の子ですよ!」「女の子ですよ!」と言われ、おめでとうと言われることには代わりありませんが、アメリカでは日本以上に男の子の赤ちゃんだったら水色、女の子の赤ちゃんだったらピンクのもので埋め尽くす、という風習があり、まだ本人が性別についてなんの意識もしていない時から、人形やクルマのおもちゃを与えられ、服装も違い、挙句の果てには「男の子なんだから泣いちゃだめ」とか「女の子なんだから、おとなしくしなさい」というしつけをするのは間違いなんじゃないか、と疑問を持ち始めた親たちが、ある意味実験的に試行錯誤しているのです。

Peter Mai/ flickr

(写真:Peter Mai / Flickr)


具体的には、すぐに男の子や女の子と分かるような名前ではない名前をつける(親や推進グループがやっているSNSではDylanRileyAveryなどがリストアップされ、中にはRainStormなど昔のヒッピーを思い出させるような名前の子もいます。 子どものことは基本的に名前で呼び、heやsheの代わりにtheyを使い、服装もピンクや水色を避け、子どもが望めばスカートでもズボンでも着せ、おもちゃも性にとらわれずに与える、というやり方のようです。もちろん、子どもが自発的に女の子らしい服を好んだり、男の子用とされているおもちゃが欲しいと言えば反対はしないそう。


これを通すためにはまず、親がその考えを家族や親戚に伝えて協力してもらうことが第一歩なんだとか。そして次は、保育園や幼稚園にも自分の教育方針を伝えて、できるだけ(強制することはできないので)協力してもらっているようです。英語では日本語のように管轄の違いによる「幼稚園」「保育園」という区別はなく、以下の言葉が使われます。


nursery: 3~5歳の子ども対象に、勉強以外のしつけを中心としている。day care centerchild care centerと同義語。
kindergarten: ドイツ語由来の言葉で、小学校前の5歳児から小学校入学までの教育を施す施設でpreschoolと同義語。 小学校の施設の一部となっているところが多い。


なかなか周りの理解がないと難しそうな教育法ではありますが、私も昔からリカちゃんやバービーがキライで動物のぬいぐるみばかり抱えてましたし、服についているフリフリのレースやリボンがキライで、親に「邪魔だからとってほしい、代わりにここにウサギのアップリケお願い」などと勝手なことを言っていた記憶があるので、ちょっとだけ「ゼイビー」だったのかもしれません。

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著者略歴

  1. 大原ケイ

    日本の著作を欧米の出版社に売り込む文芸エージェント。 自称・
    元祖帰国子女。講談社のアメリカ法人やランダムハウス・ジャパン
    など、ハイブリッドな出版社勤務の後、エージェントとして独立。
    著書に『ルポ電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)など。ブロ
    グサイトBooks Beyond the BrinyDeep(海の向こうの本の話)で海
    外出版ニュースを中心にあれこれ書いている。
    note→https://note.mu/lingualina
    ブログ→https://oharakay.com

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