路上占い師・近藤さんの不本意な運命の話
深夜のJR新宿駅西口。足早に駅へ向かう人々の隙間で、「運命」と書かれた灯籠の火がひっそりと揺れている。胸の内に迷いがあるほど吸い寄せられる、不思議な灯りだ。ほろ酔い気分で、しかしけっこう切実に、人相と手相を見てもらう。それが占い師の近藤さんとの出会いだった。
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路上はつらいよ
──実際、お客さんは毎日どのくらいやってくるんですか?
昔は1日何十人も見ていたこともありましたが、今は全然暇ですね。以前はこのあたりも専業の路上占い師がたくさんいたのですが……。
──では、路上占い師として生活するのは難しい?
路上占い師自体、もうあまり存在しませんしね。そもそも、世間の流れからして路上で占いができない。道路を一歩出れば道路交通法違反ですから。路上で商売するには道路占用許可っていうのがいるんですけど、占いにはそんなのまず下りない。前はほら、ビルの軒下とか銀行前の隙間とか、ちょっとした私有地があちこちにあったんです。今は敷地ぎりぎりで物が建ってるからそういうスペースもありません。
──近藤さんがいる西口前も本当は……?
駄目ですよ、グレーゾーン。でもまあ、ここにいる占い師はみんな何十年もいるおじいちゃんおばあちゃんだから。僕は隣で占ってるおばあちゃんの道具を代わりに運んであげたりもしています。
──そうだったんですね!
おばあちゃんがいる限り僕もいなきゃいけないなと。路上に出るときは、占いよりもトラブルにならないようにする労力のほうが膨大なんですよ。露天商やホームレスが来る前に場所を確保したり、ミュージシャンが来たら演奏する前に移動してもらったり。ここは音が反響するので、耳の遠いおばあちゃんは占いできなくなっちゃうんです。
──路上に居続ける、というだけでもすごく大変なんですね……。新宿は人も多いぶん、トラブルも多そうです。
新宿西口なんて、始めてから終わるまでもう戦場です。酔っ払いがゲロ吐いたり、立ち小便しようとして来たり……。だからこそ人間ってものがよくわかりますよね。人を知るには低いところにいると最高です。いい意味でも悪い意味でも。
──占い師として路上にいるときは、どんなことを考えているんですか?
僕は基本的に自分を占いができる状態に保つ努力をしてます。こんな人通りが激しいところにいたら、いろんなことが気になっちゃって雑念が湧いちゃうじゃないですか。そうならないためにもあまり考え事はせず、いつ話しかけられても動じないように心がけています。
新宿だとリピーターはあまりいなくて、通りすがりにパッと来る人がほとんどです。観察はしているので「この人本当は占ってほしいんだろうな」という人はわかりますよ。同じ時間帯に通りすぎる人もけっこう覚えています。
真面目に生きていたって、どうにもならないことがあるんじゃないか
──近藤さんはどうして路上で占いをするようになったんでしょう?
23歳のとき、この場所で初めて手相を見てもらったんです。占いなんて興味なかったけど、人生に行き詰まっていて……。毎日見かけていたら視界に入ってくるじゃないですか。「なんかいいこと言ってもらえたら元気がでるかな」と思って。非常に感じの良い方だったんです。
──それで、占ってもらった結果は?
「もっと悪くなる」って(笑)。
──元気がでるどころか。
「だからこうしなさいよ」とアドバイスはされたんですが、冗談じゃないと思いましたね。「男子たるものこんなものに頼らない!」って、言うこと聞かなかったんです。
──実際はどうなったんですか?
占いで言われた10倍くらい悪くなりました。
──10倍の悪さ!?
あれよあれよという間に。悪く言えば占いが当たってないぐらい悪くなりました。
そのとき僕、大学を4浪していて。家があんまり裕福じゃないので昼間は会社に勤めて、何回も受験しては落っこちていて。
──占いたくもなります。
でも、職場の上司が実は詐欺師だったんです。知らないあいだに片棒を担がされていて、ふと我に返ったら、僕も11社の消費者金融からお金を借りていました。そのころって金利が105パーセントまで合法で、サラ金地獄って言葉があったぐらい自殺者が多発した時代です。
受験どころじゃないと、すごく頑張って1年10カ月かけて返済したけど、完済直前で体の具合が悪くなって。おかしいなと病院に行ったら、「良性のポリープがあるけど、悪性になったら困るから胃を半分取る」って言われたんですよ。
──本当に、ものすごい勢いで悪くなっていきます……。
やばいですよね。でもそのとき、もしかしたらこういうのを運命っていうのかなと思って。
──運命?
どうにもならないことってあるじゃないですか。真面目に生きているんだけれど、怒濤のごとくいろんなことがやってきて。努力して、命を懸ければ成せないものはないと思っていたけど、そうでないものがあるんじゃないかなって。
──それで、近藤さんご自身でも占いをやってみようと。
きっかけは、それですかね。最初に手相を見てもらった人の師匠が、その後、僕の先生になったんです。「君、占いやりなさい」って。
──最初の占い師さんと交流が続いていたんですね!
そうそう、ずっと相談にのってもらってたんです。
とはいえ占い師になりたいわけでは
──そんな不思議な巡り合わせがあって、近藤さんは新たに占い師になるという目標が生まれたんですね!
いえ、全然なりたくなかったです。
──あ、なりたくなかったんですね!?
格好悪いじゃないですか。普通の人がやらない仕事だし。人の弱みにつけこむ占い師もたくさん見てきました。人のことがわかる分、どんどん思い上がっちゃって、どうしようもなくなっちゃった同業者もたくさん知ってます。人としてバランスを保つのが難しい職業なんじゃないかな。占いが嫌すぎて、始めはストレスからくる病気には大体かかりました(笑)。
──そんなやりたくなさを抱えて、どうして30年近く路上にい続けられたんですか?
いやあ、なんででしょうね。逃げられないの。辞めようと思えば何かでてきて、続けるしかない流れになったりね。やっぱり運命なのかもしれないです。
でもどう言ったらいいのかな、モチベーションがあるとすれば……。どっかでね、困ってる人がいるんじゃないかなと思って。自分がそうだったように、占ってもらいたいけど恥ずかしがってる人が、困ってる人が、占いを欲してる人がいるんじゃないかなって。
──ありがとうございます。最後に、路上で占い師を続けていて、一番つらい!と感じることは何ですか?
うーん……やっぱり寒さじゃないですかね? 罵声を浴びせられたり酔っ払いに絡まれるのは日常なので。別にそんなのは仕事の一部なんだけど、寒いのは我慢できない。暑いのはしょうがないんですが、寒がりなんです。それに寒さに耐えながら占っても、良い判断ってできないじゃないですか! 今日もUNIQLOの超極暖ヒートテックは履いてますよ。もっと寒いときはホッカイロ10枚くらい貼ってますし。23時を過ぎるとまた一層冷え込むんですよね……。
──お疲れ様です……!