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教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.144「TEDトークで英語をどう学ぶ?」

現在TOEIC 600点で将来的にもっと英語力を伸ばせたらと思い、勉強を続けています。先日友人から、TEDを聞くと良いと言われ聞いてみました。内容的には面白いのですが、理解するまでに何度も聞かなくてはならず、10分程度の動画だと、初めから終わりまで何を言っているのか理解できるようになるのに時間がかかります。友人は1日1本の動画を見たほうが良いと言っていたのですが、とうてい無理だなと感じています。ちなみに、彼はかなりの上級者です。やはり、私の現在のレベルでは、TEDを教材として使うのは、難しいのでしょうか。それとも、とにかく視聴しまくるのがよいのでしょうか?TEDを使った学習ができるレベルの目安と学習方法(できれば、発信面について)を教えていただけると嬉しいです。


 

TEDトークのレベルによって、多聴と精聴を使い分けましょう

TEDを使用してリスニングの学習をされているとのこと、実感されているとは思いますが、TEDトークの内容はとても面白いです。登壇者は優れたプレゼンターなので、楽しみながら英語学習が進められるといいですね。しかし、TEDは元々英語学習者用の教材ではないので、学習者のレベルによっては、ランダムに選んだTEDトークをそのまま聞くだけで学習に活かすというのは、少しハードルが高いかもしれません。英語学習はリスニングやリーディングから始まるので、TEDトークを教材として用いることは全く問題ありません。ですが、意味が理解できないと学習が進まないので、まず学習目的に合ったレベルのTEDトークを探し、多聴と精聴の使い分けをして学習を進めていくことをおすすめします。

ありがたいことに、ほとんどのTEDトークは「Read Transcript」ボタンがついており、これをクリックすれば、無料でスクリプトが見られます。このスクリプトは自動生成のものらしいので、すべてが正確に表示されるというわけではありませんが、それでもこのスクリプトのお陰で、それぞれのトークのレベルがある程度把握できます。

 

まずは使われてる語彙がほぼ理解できるクリップを選びましょう!

まず、タイトルやサムネイルを見て、聞きたいと思うTEDトークのスクリプトを入手してください。そして、冒頭の100~200語程度を読んで、ご自身の知らない語彙表現がどれくらいあるか把握してみてださい。リーディングで意味が理解できる語彙表現も、リスニングになると理解できない場合も少なくありません。ここでは98%程度の語彙表現を知っているTEDトークを探すことをおすすめします。98%以上の語彙表現を知っているテーマのクリップを使用すると、たまに登場する知らない語彙表現でも意味を上手く推測でき、文意の理解の妨げにならないため、学習効果を高めることができます。文意が理解できるので、その知らなかった語彙表現の学習が自然な形で行われます。これは辞書や単語帳を使用して行う意識的な語彙学習とは異なる学習で、母国語の語彙習得に似ています。何度も同じ語彙表現を耳にすることで、自然にその表現の意味が理解できるようになり、次第にそれが使用できるようになっていくのです。この学習方法は多聴と呼ばれるもので、聞いて理解できる題材ばかりを使って、内容を楽しみながら聞くことを毎日のように継続することで学習効果が期待できます。

 

一度触れたクリップは複数回の反復を!

この学習方法で重要なのは教材のレベル設定ですから、最初は少し手間がかかるかもしれません。ですが、自分に合ったレベルのTEDトークをいくつか見つけては、それを何度か聞き返すことで、時々登場する馴染みのなかった語彙表現も繰り返し聞くことができ、知識の定着も期待できます。一度聞いたものであれば、さらっと聞き流すこともできますから、比較的継続しやすい学習方法です。この多聴では、長いトークを数回に分けることも十分可能ですから、例えば15分間以上の長いTEDトークを数回に分けて聞くのもいいでしょう。

また、たとえ英文に出てくるすべての語彙表現を知っていたとしても聞き取れない場合があります。それは、個々の語彙の意味は分かっているが、正しい発音を知らなかったり、音の繋がりによって、個々の単語の発音とは違って聞こえてきたりすることがあるのが主な原因です。個々の単語の発音については、スクリプトを見て、対象となる単語を探し、発音を再生できる電子辞書やオンライン辞書などを使用して発音の学習をしておきましょう。音の繋がりなどのために個々の単語が聞き取れないクリップを使って、個々の単語の発音を学習するのは簡単ではありません。単語の発音は、できる限り辞書などを活用するといいでしょう。

 

音のつながり学習には、「高速音読」を!

音のつながりに関しては、体系的に学習することもできますが、一人でも簡単にできる学習方法があります。それは高速音読です。スクリプトがあるので、聞き取れない箇所周辺のスクリプトを、できるだけ早く音読してみてください。私がこの方法を授業で行う際には、10回連続高速音読するように学生に指示しますが、それで十分効果があります。この高速音読によりご自身の発音が元の音声のスピードを超えるとその箇所の音の繋がりが聞こえるようになります。

このように、自身のレベルに合った題材を使用する場合にも、ただ聞き流すだけでなく、音の繋がりを含む発音の学習も取り入れると、さらに高い学習効果が期待できます。

 

一歩上のTEDトーク学習法とは?

さて、ここからは少し高いレベルのTEDトークを使用する学習方法についてです。TEDトークで題材探しをするとどうしても難しいと感じる題材を相当量見つけることになります。難しいと思った題材については、各題材についてメモを残しておくといいといいでしょう。現在のレベルでは全体の80%程度の語彙表現しか知らなかったとしても、後に語彙が増えた際には、それが85%になり、やがて90%になりと、いつかそのTEDトークを使用して多聴することができるようになります。将来使えるように、タイトルと日付とどれくらいの語彙表現を知っていたのかをメモしておくと、後にそれを聞く準備ができているかどうかの目安となります。語彙力は向上していくので、あくまでも目安に過ぎませんが、タイトルなどから一度興味を持った動画なのできっと楽しんでリスニングができるでしょう。ぜひメモを残しておいてください。

多聴だけでももちろん十分な学習になりますが、せっかく興味を持ったTEDトークの内容を楽しみたいと思われるのでしょうか。そこで、全体の90%程度の語彙表現を知っているレベルで、すこし難しいと判断した題材を学習に活用する方法を紹介させてください。こちらは精聴という方法です。おそらくこれまでのリスニング学習は、この精聴に近い方法だったと思いますが、おすすめの方法をご紹介します。

 

まず、スクリプトを見ます。リスニングの学習ですが、こちらのスクリプトをリーディングで理解しましょう。リーディングと同様の学習ですから、知らない語彙表現は辞書を使用し意味と発音をチェックしておくといいでしょう。複雑な文法構造をしている文などは、分析して正確に文意を理解するようにします。TEDトークの言語設定を変えると、100%正確というわけではありませんが、日本語訳を表示することが可能です。ある程度の文意理解のチェックには十分使用できるのでぜひ活用しましょう。また、ここで学習した語彙表現については、単語ノートを作成するなど、後に繰り返しその語彙の復習ができるようにしておくとさらに学習効果が期待できます。

スクリプトを使用して読んで理解できた題材について、リスニングをする前に、再度、スクリプトをさらっと読んで文意が理解できるかどうか確認してみてください。この際重要なのは、絶対に読み返さないことです。少し理解できない部分があっても止まったり読み返したりすることなく読み進めていき、全体的の文意が理解できたか確認してみてください。これはリスニングでは音声の聞き返しができないのと同様の状況をリーディングで作り出して行うトレーニングになります。このように読み返すことなく文意が理解できるようになれば、リスニング題材として使用する準備ができているはずです。ただし、難しい表現が含まれているので、多聴で使用した題材より聞き取りも難しいかもしれません。学習して知っているはずの単語も聞き取れないこともあると思いますが、その場合には焦らず再度辞書などを使用して発音を確認してみましょう。音のつながりも同様に高速音読をすることでかなり克服できるはずです。

 

TEDトークからプレゼン力も学ぼう!

TEDトークは内容が面白いのが最大の特徴です。何よりプレゼン力の高いスピーカーが多いので、彼らの表現の仕方を学習にぜひ活かしたいところです。スピーキングをする際に、聞き手に言いたいことを上手く伝えるために、どのように話すべきかをぜひ分析してみてください。その方法をご紹介します。

ここでは聞いて文意を理解できる題材、つまり多聴で使用したトークを再利用します。スクリプトを見ながらトークを聞き、長い文がどこで区切られているか確認し、スラッシュ(/)で区切ってみましょう。このスラッシュとスラッシュの間にある塊がthought group(意味のまとまり)と呼ばれるもので、この意味のまとまりごとに話すというのが、言いたいことを上手く伝える上で非常に重要になります。この意味のまとまりのないところで区切り目を作ってしまうと、聞き手の理解度が下がってしまうので、話す際には、意味のまとまりを作りながら話すように心掛けてください。もし、意味のまとまりの途中で詰まってしまったら、詰まってしまった単語だけを言い直すのではなく、詰まってしまった箇所を含む意味のまとまりの最初に戻って言い直すといいでしょう。

次にそれぞれの意味のまとまりの中のどの単語が強調されているかを確認します。これが文意を伝えるのに重要な役割を担う部分ですので、強く、長く、高く発音されている部分をチェックして、ハイライトするなどして、見てわかるようにしておきます。

ここまで来たらいよいよ発話練習です。意味のまとまりと強調する単語を意識しながら、音読練習してみましょう。意味のまとまり内は音声が途切れないように、単語と単語を繋げて話すことを意識しましょう。何度か練習してスラスラ読めるようになったら、シャドーイングをするのもいい練習になります。音声を流して、その音声のスピードについていくように、また、意味のまとまりとそれぞれの意味のまとまり内の強調された語句を意識して、元の音声の完全コピーを目標に練習してみてください。このように意味のまとまりと強調を意識しながら練習を継続していくと、後に話す際に、聞き手に伝わりやすい英語が話せるようになります。

 

このように題材のレベルによって学習方法を少し工夫しながら、TEDトークを利用した英語学習を進めてください。聞き取りもできるようになっていきますし、スピーキングも上達していきます。

 


★編集部より★

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著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

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