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London Calling ──イギリス英語に耳をすませば

 移民大国イギリス

イギリスというと、「白人であるイギリス人が多数派を占める国」という印象を持っておられる方が多いかもしれません。しかし、この国の空港に降り立った瞬間に目に入るのは真っ黒なチャドル(イスラム教徒の女性が着用する、全身を覆い隠す服)から目だけ出した中東の女性や、ゾマホンさん(日本のバラエティ番組で知られるベナン共和国出身のタレント)そっくりな、アフリカの民族衣装の男性です。

国際会議の会場や多国籍企業のオフィスには、中東のイスラム教徒がお祈りする部屋があり、その横で中国系移民が餃子を食べているわけです。

残念ながら、耽美(たんび)系白人執事のような方は、ワタクシの住むロンドン郊外では少数派になりつつあります。うちの隣はギリシャ人とスコットランド人のカップル、反対のお隣はフランス人とベトナム人のカップル、その他、ご近所の人たちの国籍は、中国、インド、パナマ……等々で、訛りのない英語を話す人の方が少ないのです(ですので、実家に近所のビデオなんぞを送ると、「はぁ?あんたイギリスにいるって嘘だろう」となるわけです)。

このように、多様な人々がイギリスにやってきた理由は、難民だから、先祖がイギリス人だから、結婚したから、とさまざま。しかし、文句を言いつつ、みなさんこんなに天気の悪い島に住んでいる理由は、イギリスが外国人にとって開かれた国であり、なかなか住みやすいという事が理由のひとつでしょう。

ここは島国ですが、日本と異なりバイキングをはじめとする異人種に何度も侵略され、王室のご先祖はドイツ系(大体、王室からして外国人ですよ)、大陸続きの欧州とは長年交流があり(ねちっこい戦争を含みます)、各国から亡命者を受け入れてきました。

一時期は七つの海を制する帝国だったので、旧植民地から大勢の人がやってきました。1950年代から1960年代には戦後の労働力不足を補うために、インドやパキスタン、カリブ海の島々から工場労働者や繊維業従事者、公共交通機関の運営担当者が大量に「輸入」されます。

このように、昔からさまざまな外国人がこの島にやってきて交ざり合っているので、近くに外国人がいてもそれほど驚かないイギリス人が少なくありません。その上、個人主義で「人が何やってても、僕には関係ないや」という人が多いため、少々変わった外国人がいても、ほっておいてくれます。

また、かな~りいい加減な人が多いため、外国人がとっぴな行動をとったり怪しい英語でしゃべっても、「そんなもんだ」と驚きもしない人が多いのです。もともと移民で構成された国ではないわりには、大陸欧州(イギリスを除く、欧州大陸の諸国)や日本と比べると、外国人には物凄く寛容です。

さて、昔からさまざまな外国人がいるイギリスですが、90年代初めから現在までは、イギリス史上最大の「移民ブーム」となっています。イギリスに流入する移民はなんと現在、年24万人。社会の根底をひっくり返すような事態になっているわけです。

The Economist 誌は、イギリスの急激な移民の増加は、前政権である労働党の「大風呂敷」が原因だった、ある意味失敗だと述べています。

数が多い、政策失敗と色々言われているイギリスの移民ですが、移民にオープンな態度を取ることによって、イギリスが世界中から多様な人材と「お金」を引き寄せているのは明らかです。

イギリスの The Sunday Times が毎年実施している、イギリスのお金持ちリストによると、イギリスの上位1000人のお金持ちのうちイギリス生まれの人はたった40人、トップ10だと半分は外国生まれの外国人です。それらの外国人の多くが、インド、ロシア、中国など新興国出身です。ちなみにイギリス一のお金持ちは、インド人であります。

このようなお金持ち外国人には、「投資ビザ」や「特殊な才能を持った外国人向けビザ」なるものがあります。成功している企業家と認められれば、ビザが下りるわけです。才能のある外国人がイギリスに投資し、イギリス人に仕事を作ってくれることで、イギリスがさらに栄えるという考え方が根底にあります。また、お金のある外国人がイギリスで買い物したり、不動産を買ってくれれば地元の経済が潤います。

さて、こんなイギリスに移民してみたいわ、と思われる方もおられると思います。仮にイギリスに日本人が移民するとしたら、いくつか方法があります。

技能がある人(例えば、IT技術者や医者など)や企業家、投資資金のある人には、Tier 1 (Highly skilled workers) というビザがあります。これはその人の要件(年齢、教育等)をポイント制で評価してビザを発行するという仕組みです。

私の知り合いの日本人の方で、エンジニアの方数名がこのビザで渡英して活躍されています。ITをはじめとする技術者の仕事や医療は人手不足なので、日本人でもチャンスがあるかもしれません。

大学や大学院に留学して学位を取得し、どこかの企業で雇用許可を出してもらい、所定の年数がたったら永住権を取得するという方法もあります。ただし、現在はイギリスは大不況で仕事が限られており、就労許可をサポートしてくれる会社が多くはないので、なかなか難しい選択肢です。

私の場合は配偶者がイギリス人なので、配偶者ビザを取得して2年後に永住権に切り替えました。ただし、最近イギリスの移民法が変わり、配偶者ビザや婚約者ビザを取得するにも「イギリス市民テスト」の合格が必要になりました。合格しないと、ビザをいただけません。

なお、この試験の問題は、例えば「高速道路の最高制限時速は何キロか」「移民の割合は何%か」「祝日はいつか」「FAカップって何よ」「女性は殴ってよいか」という「雑学的」な内容です。

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著者略歴

  1. 谷本真由美

    神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院修士課程修了。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連食糧農業機関(FAO)などを経て、現在はロンドン在住。その傍ら、ロンドン大学教授である夫とともに日本人の英語指導にもたずさわっている。
    趣味はハードロック/ヘビーメタル鑑賞、漫画、料理。
    著書に『添削!日本人英語 ─世界で通用する英文スタイルへ』、『ノマドと社畜 ~ポスト3.11の働き方を真剣に考える』
    (ともに小社刊、http://goo.gl/4KLPHQ)、『キャリアポルノは人生の無駄だ』(朝日新聞出版)など。
    ツイッター→http://twitter.com/May_Roma
    ブログ→http://eigotoranoana.blog57.fc2.com/archives.html

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