ロンドンっ子の読書会
イギリスはシェイクスピアや名探偵シャーロック・ホームズを生み出した土地で、一応文芸大国ということになっております。天気が悪いので家の中にひっそりとこもって本を読む、というネクラな活動が楽しみのひとつであります。
そんなイギリスの中心地ロンドンでありますが、日本とずいぶん違うのは、本を「声に出して読んだり、感想を語り合う」ということをやる book club (読書会)なるつどいがやたらと盛んなことです。
この集いは、literary enthusiasts (本が異様に好きな人々)が集まって stimulating conversation (刺激的な会話)を繰り広げながら novels (小説)などについて語り合う、同好会みたいなものです。
enthusiast (熱中している人)という表現は、車マニアとか鉄ヲタとかアニヲタなどの「ヲタク」を遠まわしに指す場合にも使います。便利なので覚えておきましょう。ちなみに、 geek (ヲタク)とか looney (狂人)と言うとぶっ飛ばされますからね、はい。
この会、最近始まったものではなく結構歴史がございます。イギリスでは読書って、もともと本を買うお金と読む暇がある人々の「娯楽」だったので、「読んでグチャグチャおしゃべりする」というのが昔から「金持ちの娯楽」のひとつだったんです。昔は本は高かったので、「本を買う銭があるで」という自慢でもございました。
ジェーン・オースティン原作の映画「プライドと偏見」にも、結婚と金のことしか考えていないお下品なお嬢さまたちとお母さまが、召使いに皿洗いをやらせながら、暖炉のそばでダラダラと本を「眺めている」シーンが出てきます。まさにあれです。来客に「あたしたちわぁ、字が読めて、あと本を買うお金もあるのよお!一応アッパークラスよお。だからダーシー様に相応しいのよお」と自慢しているわけです。(ただし、超金持ちではないのです)
(写真:John Carlos Buen / Flickr)
「プライドと偏見」:イギリスの作家、ジェーン・オースティンの 『高慢と偏見』(Pride and Prejudice)を映画化した作品。
ダーシー:ヒロインが恋するお金持ちの大地主。
というわけで、book club というのは、今でも本を読む暇と金がある人々が住んでいる所に行けば行くほどあります。要するに、金がある中流以上の人々が住む郊外の一軒家がある、こぎれいな村のカフェで「俺はこんなに本を読んだ。そして読む暇がある。こんな希少本を持ってるぜ!どや!」と自慢する会であります。
週末に飲んだくれて、サッカーを見て暴れている人々の多い地域にはございません。大体そのような地域には本屋はなくって、ギャンブル屋(サッカーに賭けたり馬券を買う)と1ポンドショップ(日本の100円ショップのような店)ばかりなのです。ここでも階級社会が顔を出しますね。
さて、この book club でございますが、そこはロンドンといった感じで、さまざまな趣味嗜好を持った人向けのものがございます。ゲイとレズビアン向け、食に関する本、SFなどがありますが、最近流行(はや)っているのは erotic book club (エロ本ブッククラブ)であります。
これが流行るきっかけとなったのは、世界的な大ヒットとなっている、イギリスの女性作家が書いたSMエロ小説『Fifty Shades of Grey』(フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ、早川書房)です。この小説、ティーンズ向けの吸血鬼小説『トワイライト』シリーズをもとに創作された作品で、電子書籍として self-publish (自費出版)のような形で発表され、あれよあれよという間に中年&熟年&老年女子の心をガバっとつかみ、ハリーポッターを超えるスーパーベストセラーになったのでありました。
『Fifty Shades of Grey』をきっかけに「エロ本についても語り合いましょう」という会が増えてきまして、最近では本を読み合うだけではなく、 soiree (夜会)形式の erotic book club も開催されております。これは、参加者が仮装して舞台に上がって、好き放題にパフォーマンスをやりつつ、このエロ本のどこが良かったかを語り合う会で、男性が全裸でゲイ小説を朗読する、エロい自作の詩を読む、踊る、ムチで打たれるなど、よく分からない集いになっています。ロンドンに来られる方は参加してムチに打たれてみてはどうでしょうか。