イギリスに住むと立派な左官になれる
皆さん、こんにちは。何でも古いイギリスです。ここでは、古いが正義、古いは高い、古いはすてき、古いは女子力、古いはスノッブ(気取り屋)、古いはお上品、なのであります。
つまり、家は古ければ古いほど良いのです。古ければ古いほど資産価値は上がり、知り合いには“Lovely Victorian House!”(あら、すてきなビクトリア時代のお宅ね!)などと言われて鼻高々なのです。ビクトリア時代って「江戸時代」ですよ、奥さま。
(写真:Mike McBey / Flickr)
何でそんな古い物が良いのかというと、古いと家の素材が今より良いとか、古い家の窓のデザインは再生できないとか、いろいろ理由があるんですけど、古い物が好きなんですよ、ここの人々は。
そういうわけで、イギリスの人々は古い家を買います。「新しい家」とか言っても「昭和10年ごろの家」とかです。どうですか、昭和10年。いいですね、昭和ロマンな感じですね。ちなみに、わが家は昭和12年ごろに建った中古(いや、骨董)物件で、われわれが4代目のオーナーです。
古い家なので当然直さないと住めないわけですが、ここは労働環境が良いイギリス。サビ残(サービス残業)と過労死がないわけですよ。ないということは、人件費が高いわけです。従って家を修理するのも高い。しかも、若い者は builder(建築業者)とか、plumber(配管工)とか、electrician(電気工)などの tradesman (職人)にはなりたがらないので、数が足りないため売り手市場。良い人の予約はなかなか取れず、いつになっても家は直りません。お値段もお高い。
結局どうなるかというと、自分でやるんです。Do It Yourself (DIY)、つまり「自分でやってみよう」であります。イギリスの DIY は、日本の趣味レベルの日曜大工とは大違いで、プロが来てくれないから自分でやるしかないというレベルなので、日本だとプロしかやらないレベルのことも自分でやるんでございます。
ここは冬寒いため、家がぶっ壊れると死にます。マジで死にます。死ぬから DIY はもうサバイバルのためなわけですよ。いいですか、ここに住む人はみんなノッポさん* にならざるを得ないわけです! はい、ワタクシはノッポさんです!!
*ノッポさん:1970年から20年間、NHK教育テレビで放送されていた幼児向けの工作番組『できるかな』の登場人物。
そういうわけで、テレビでは DIY show (日曜大工番組)が大量に流されておりますが、「こんな面白い家を造りました」じゃなく、「壁を塗るコツはこれだ」「このボンドが良い」「階段を造り替える手順」など、真剣かつスーパー実用的な中身です。たまに、失敗して家が崩壊したとか、そういう楽しいエピソードもあります。人の不幸が大好きなイギリスらしいですね。
さて、わが家は現在、lay a solid wooden floor on top of the old original floorboards(オリジナルの古い床板の上に、フローリングを敷く)予定です。フローリングというのは和製英語で、イギリスでは wooden floor と呼びます。床は通常、硬い木でできた floorboards(床板)がはまっているので、その上にフローリングやカーペットを敷くわけですが、ここでは15ほど前までは何でもカーペットでした。最近はフローリングにしてニューヨーク風、大陸欧州風にするのが流行です。
フローリングを敷くには、timber board packs(木の床板パック)、hand saw(手動ののこぎり)、mallet(木づち)、adhesive(接着剤)などが必要になりますが、家を自分で修理すると、日本語でもなじみがない英単語に精通するようになります。
生死がかかってるから、仕方ありませんね!