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読んで知る! 英語の言葉の面白さ Mother Gooseの世界へようこそ!

One, two, Buckle my shoe

Nursery RhymesまたはMother Goose

いったい、この題名はなんだろう? と思う人もいますよね。ライムズだから、韻を踏んだ言葉かな、と気がついたら素晴らしい! ナーサリィ? えっ、子供部屋? ガチョウの母さんって何……。

ともあれ、このふたつの題名は同じものを指しています。英国ではNursery Rhymesと言われ、米国ではMother Gooseと言われます。この「韻文」は、曲があり歌われているのも数々あります。例えば、「ロンドン橋おっこちた、おっこちた」や「メリーさんのヒツジ、かわいい、かわいい」など。本当はMaryさんはメアリさんだけど。文字よりもまずは口伝えで受け継がれ、歌って受け継がれてきたものです。

Mother Gooseは、英語で読むことにより、そのリズムが身につき、表現を覚え、文法をいつの間にか知り、英米の人たちとの会話のきっかけにもなります。まあなんて便利な「言葉、ことば」でしょうか! ノンセンスにあふれ、歴史を笑い、政治を皮肉り、数え歌から謎々、摩訶不思議で面白い、意味不明もあるんです(日本にもありますよね、ずいずいずっころがしごまみそずい、ちゃつぼにおわれてとっぴんしゃん、とか)。言葉遊びの宝庫でもあり、言葉の織りなす面白さに、英米の人たちは声に出し、時に歌い、楽しんで育っていきます。

子どもたちは韻を踏む言葉を覚え大人になっても忘れません。この何世紀もかけて今に続くMother Gooseが、多くの書く人、描く人、表現する人たちに影響を与えていて、素晴らしい絵本も数知れず生まれています。

イタリアの有名な映画監督となったタヴィアーニ兄弟がいますが、この二人の作品『グッドモーニング・バビロン!』の中で、米国にやって来た移民の若者が、がんばって英語で数を覚えようとするシーンがあります。そこで口ずさむのはなんとMother Gooseです。そこで私たちも、数え歌から始めましょうか。

 

One, two, Buckle my shoe

 

One, two,             いち、に、

Buckle my shoe;          くつ はこう(*1)

Three, four,             さん、し、

Knock at the door;            ドア たたこう

Five, six,                                         ご、ろく、

Pick up sticks;                                こえだ ひろって

Seven, eight,                                  なな、はち、

Lay them straight;                          そのえだ ならべて

Nine, ten,                                        きゅう、じゅう、

A big fat hen;                                  ふとった メンドリ(*2)

Eleven, twelve,                               じゅういち、じゅうに、

Dig and delve;                                さがして しっかり(*3)

Thirteen, fourteen,                          じゅうさん、じゅうし、

Maids a-courting;                            メイドは 恋をして(*4)

Fifteen, sixteen,                              じゅうご、じゅうろく、

Maids in the kitchen;                       メイドは だいどころ

Seventeen, eighteen,                      じゅうしち、じゅうはち、

Maids a-waiting;                             メイドは ぐずぐず

Nineteen, twenty,                            じゅうく、にじゅう、

My plate’s empty.                            わたしのおさらに なにもない

 

【語注】

buckle: ~をバックル(締め金)で留める / pick up: ~を拾い上げる / lay: ~を並べる / hen: めんどり / dig:(埋まっている物を) 掘って探す ※digには努力して見つけ出す、探すの意味も。/ delve: 徹底的に調べる / courting:[女性に対する]求愛、求婚 ※a-courtingとa-がついているのは、声に出して言いやすいように、です。

 

二行ごとに韻を踏んでいるのが、わかります。リズムをつけて読んでみてほしい。読む音こそが重要です。訳してみるのも楽しいでしょうが、意味がよくわからない、想像してみて、というところがあります。なぜなら、韻を踏むために、そのためだけに、言葉があるからです。

 

*1

buckle my shoeは、文字通りには「くつのとめがね とめよう」ですが、今は靴ひもを結ぶことが多いので、「くつひも むすんで」としたいですね。でも、これだとゴロが良くないので、「くつ はこう」にしました。悩むところですね。散文の文章であれば、きちんと訳したほうがいいのですが。

*2

big fat henは、大きく太ったメンドリですが、bigもfatも同じ意味にとりました。詩の形をとっていない時には、大きな太ったメンドリに。小さくて太ったメンドリもいますからね。しかし、この場合は「詩」ですから、音を考え声に出して読んでみて、表現します。

*3 

このdig and delveは、地域によって伝えられる言葉が変化していて、同じ詩なのに言葉が違っていることもあります。bake it wellいう言葉になっているのもあると、ピーター・オピーさんという研究者が書いていました。digとdelveは探す意味に。どちらにも「掘る」という意味もありますが、ここにはふさわしくないと思います。

*4

maidは、ここにご紹介した詩では、複数を表す“s”がついています。お屋敷に雇われているメイドは、何人もいます、特定の人を言っているのではありません。訳は単数でもOK! maidの訳はむずかしいですね。女中、お手伝い、未婚の女性などの意味があります。秋葉原のメイド喫茶のメイドさんの姿は、英米の映画やテレビドラマに出てくるメイドに、多少は似ていますよね。お客さまに食事を出したりお茶を出したりと働きます。

 

**あのミステリーの女王、アガサ・クリスティーもこの詩と同名の “One, Two, Buckle My Shoe”(邦題:愛国殺人)という小説を書いていますね。あの名探偵ポアロが登場しますよ。それにしても、この詩はいったい誰が語っているのでしょう、最初と最後に“My”とあります。この「わたし」「ぼく」は誰でしょう。まあ、そういうことはどうでもいいんです。言葉とリズムの世界で、想像をたくましくして、英語を知っていくのも、きっと楽しい! 次につづく。

                              (文と訳=みむら・みちこ)

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著者略歴

  1. みむら・みちこ

    文芸翻訳家。訳書に『動物と分かちあう人生』(河出書房新社)『ちびフクロウのぼうけん』(福音館書店)など、共訳書に『なにがはじまるの?』『あかんぼ大作戦』(共に河出書房新社)など多数。A.A.ミルンの評論あり。スコットランドに詳しい。翻訳の専門校フェロー・アカデミーの講師を務める。
    → https://www.fellow-academy.com/fellow/pages/teacher/mimura_michiko.jsp

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