Pussycat, pussycat
以下の詩を、わたくしが初めて読んだとき、英語圏の幼い子どもたちは、1行目にあるむずかしい文法を、こうやって覚えるんだ、と感心しました。現在完了形ですよ! わたくしたち外国人には、なかなか使えない表現です。物語やビジネス・レターには、しょっちゅう出てきています。この表現をきちんとわかっていないと、きちんとした理解もできません。ビジネス・レターも、間違えてとれば、仕事を失うかも。
Pussy cat, pussy cat,
where have you been?
I've been to London
to look at the queen.
Pussy cat, pussy cat,
what did you there?
I frightened a little mouse
under her chair.
ネコちゃん、ネコちゃん、
どこに いってたの?
ロンドンに いってた、
じょおうさまを みに。
ネコちゃん、ネコちゃん、
そこで なにしたの?
小ネズミを おどかした、
じょおうさまの いすのしたで。
まずは、言葉について考えましょうか。
コネコと書くと、コは子かしら、小かしら。これを子ネコととらえるのは、間違いです。子ネコはkittenです。子どもたちがネコを 呼ぶときによく使うのがこれで,[púsi]と呼びかけます。プスプスともいいます。catはキャットではなく、[kǽt]と発音してください。詩を読むときだけでも・・・。どの辞書をのぞいても、caに続く言葉に「キャ」の発音はない。このことは、前にも書きましたが、念には念を入れ、ですから。catを目にすると、あの英国の詩人T.S.エリオットさんが子ども向けに書いた詩の本 ’Old Possum’s Book of Practical Cats’ (1939)を思います。この詩をもとにして1981年にはロンドンでミュージカルになりました。日本では「キャッツ」として人気を博しています。キャッツ、ですもの。世の中の何かを変えるのは、いつもなんて難しいことか・・・キャは、なかなか、変えられないでしょうね。まずは人の名前からでも・・・
現在完了形は過去形ですが、今もなお続いている状況に使います。この場合も、ネコは今までずっとどこにいたのよ、と言われているわけです. 物語に奥行きを与えるのは、この完了形です。過去完了形もあります、未来形にも複雑ですが、あります。訳には、単純過去形ではない言葉で表現するといい時があるのです、(どこに)行って(どこに)居た、のように。上の訳は口語っぽくしました。
look at
ここの訳によく見られるのが、女王さまに会いに、です。よく考えると、勝手に女王さまには会いに行けませんよね、それが良く表れているのが、このlook atです。英語は意味を確実に指示します。他の意味にならないように。これは、見る、それも、じっと見る。眺めるなどの意味にもなります。会うはありません。約束もしないで女王さまのところに勝手にお顔を拝見に行くのです。ネコですから、出入りは簡単。
ところで、最近テレビで見たヴィクトリア女王のドラマで、ネズミが大繁殖して大騒ぎする場面がありましたっけ。登場人物には、 時代や背景が関係してきます。
「見る」には、いくつもの英語があります。Look以外に、see, glance, gaze, view, watchなど、目でどうみるかは、使われている英語の言葉で訳に違いが出てきます。
A little mouse
mouseはハツカネズミのことで、littleがついたら、小さいか若いかでしょ。ここでは小ネズミにしようか、ハツカネズミにしようか、迷います。大きさはどうでも、ハツカネズミかしらね、やっぱり。しかしratというドブネズミ、クマネズミでないことを言ったほうがいいだろうか、などと考えます。でも、小ネズミのほうが2 syllable(2音節)短かいので、これを使います。
この詩にまつわる面白い話がありました。本当の話がふたつ。
印刷物として載ったのは1805年と言われています。英国の歴史の中で文化が栄えた三つの時代をあげれば、エリザベス1世の時代(1558-1603)、シェイクスピアはエリザベス朝の人。ヴィクトリア女王の時代(1837-1901)、ヴィクトリア朝には文学者、冒険家、発明家がたくさん生まれた。そしてエリザベス2世の現代(1952-)、この時代にビートルズが生まれた。この中の二人の女王さまの話です。
ある時、ヴィクトリア女王に招待されたLord Ernle アーンリ卿という人が、娘にこうたずねました、「女王さまに何か伝えることはあるかい?」 娘は即座にこういいました、「ええ、あるわ、椅子の下に住んでいるネズミをください、って頼んでね」。女王さまとの食事が終ると、アーンリ卿は、女王は子どもたちに関する変わった話を聞くのが大好きなのを知っていましたから、娘の伝言を女王さまに伝えましたところ、ひどく喜ばれたとのこと。そして、他の招待客を集めて、もう一度その話をさせたそうです。最後にもう一度アーンリ卿を呼び、娘のことをちっとも分かっていないような彼に、憤慨して女王は言ったそうです。
「なんてこと!アーンリ卿・・・知らないなんて、この詩を、Pussy cat, pussy cat, where have you been?
I’ve been to London to see the great Queen.
Pussy cat, pussy cat, what saw you there,
I saw a little mouse under her chair.
もうひとつ、今の女王さまエリザベス2世にも、同じようなことがありました。1949年に,女王さまが、英国空軍で働く人たちの家族を訪問した時のことです。一人の少年が女王さまの足をとめると、批判めいて聞きました、’Where's the pussy cat?' すると女王は、ネコを連れてこなかったことを、少年に謝ったのでした。
とてもよく知られているネコのこの詩、多くのイラストレイターたちは、だいたいがエリザベス1世の時の話として描いています。政治的に読む人もいます。その時代に考えられるとらえ方で、マザー・グーズも使われてきているのです。
ついでです、ノンセンス作家のEdward Learの名前を一度書きましたが、そのリアはネコが大好きで、いつも一緒に暮らしていました。フォスという名のデブネコです。リアに、The Owl and the Pussy-catというノンセンス詩があります。わたくしは、このネコが好きというよりも、フクロウとネコちゃんが海の旅に出る時に乗っていく、小舟の色が好き。この詩も韻を踏んでいます。
The owl and the Pussy-cat went to sea
In a beautiful pea-green boat,
They took some honey, and plenty of money,
Wrapped up in a five-pound note.
フクロウはギターを弾きながら、ネコちゃんに愛を語ります。結局、着いた島で結婚するのです。Pussy-catは、子ネコではないんです。
(文と訳=みむら・みちこ)