Humpty Dumpty その2
今日のタイトルに沿って話す前に。100年に一度あるかないかという、地球上を襲っているウイルス、コロナウイルス(Covid-19)の恐ろしさに直面している私たちですので、まずは、どうぞ、皆さまが健康でご無事であることを願っています。
実は、マザー・グースのなかには、今から356年も前にあったGreat Plague(1664-66にロンドンで大流行したペストの大疫病)をあらわしているというのがあります。手をつなぎ輪になって歌う子どもたちの遊び歌です。言葉が違うものが12種類ほど見つかった、といわれていますが、最も知られていて、小さな子どもたちでもすぐに口ずさむというのが、以下にご紹介するものです。
Ring-a-ring o’ roses,
バラの はなわを つくろうよ、
A pocket full of posies,
ポケット はなで いっぱいにして、
A-tishoo! A-tishoo!
はくしょん! はくしょん!
We all fall down.
みんな いっしょに たおれるよ。
1行目のaは、言いやすいようにはいっているaです。o’は ofです。Ringは輪を作るです。pocketは、今ある服についているポケットとは違います。服の表面ににくっつけたのは、後の時代になります。これは小袋で、小さな袋に香る花をたっぷりといれています。ある人たちはこの小袋にいれるのは野草、いわゆるハーブで薬草だというのを読んだことがあります。疫病を退けたり匂いを避けるために、ポケット(昔は小袋)一杯に花やハーブをいれて身に着け、立って手をつないで輪を作り、歌いながらまわります。身に着けないとしても身近にそうやって置かれていた。なぜバラかというと、ペストだとわかったのが、まず皮膚に赤いバラの花のような発疹がみえたからでした。
「はくしょん」もその兆候のひとつだったと言われています。「たおれる」のは、死を意味します。マザー・グースにその時代の出来事などを表す内容が多くありますが、この「バラの はなわを つくろうよ」もそのひとつです。
さあ、今回の話に入りましょう!
ビートルズの歌の中には、マザー・グースの言葉から刺激を受けて引用しているものが、いくつも見つかります。John Lennonは、言葉遊びを得意としていました。ノンセンスな作詞をしているのが、ジョンだったと言えるでしょう。とくにルイス・カロルのアリスの物語とマザー・グースの詩は、読んでおかないとジョンの詞を理解できないかもしれないくらいに、ネタはアリスにあり、またはマザー・グースにあり、なんです。英国の文化、文学、ならわしや歴史がRhymesの背後にあるのです。
その中でもかなり飛んでいるレノンの表現があちこちにあって、理解はずいぶん困難なのが、’I am the Walrus’ でしょうか。外国人にはわからないスラングであったり、想像力が一行ごとに跳んでいたり、飛んでいったりしているからです。下にご紹介するのは詞の三分の一です。
I am he
as you are he
as you are me
and we are all together.
See how they run
like pigs from a gun
see how they fly. I’m crying.
Sitting on a cornflake-waiting for the van to come.
Corporation teashirt, stupid bloody
Tuesday man you been a naughty boy
you let your face grow long.
I am the eggman oh, they are the eggmen―
Oh I am the walrus GOO GOO G’JOOB.
この詞の中に出てくるeggman「たまご男」、これは明らかにHumpty Dumptyからきていますね。ジョンにとって、たまご男とハンプティ・ダンプティは同一かも・・・こわれやすさ、あぶなげな・・・
「ジーニアス英和大辞典」によりますと、eggはguyと同じ意味にもなり、He is a bad eggは、あいつはろくでなし、He is a good eggは、あいつは頼もしいやつ、という意味にとらえられています。eggは虚勢を張った男のことみたいですね。でもここには、どうやらこわれやすさやもろさが入り混じっています、だって虚勢ですから。意味深長でもあり言葉遊びで出来上がったレノンの作詞でもあるでしょう。
「ぼくはセイウチだ」と訳せるこのタイトルを見て、『鏡の国のアリス』のTweedledum and Tweedledeeの章に登場する「セイウチと大工」をすぐに思い出してしまいます。とにかくジョンの詞でもありますから、アリスの物語のなかに、作詞のネタがみえてきます。
どのようなことか、超簡単に説明します。セイウチと大工は、寄り添って海岸をぶらぶらしていると、牡蠣たちが海からあがってきて浜辺を散歩するんです。二人は牡蠣たちと親しく優しく言葉を交わして一緒に歩いていきます。途中でセイウチと大工はおなかがすいてきて、パンがほしいとか、バターやお酢があればなあ、なんてしゃべるうちに、牡蠣たちをみんな食べてしまう、しくしくと泣きながらです。これは長い詩で、Dum とDeeがアリスに聞かせているのです。ジョン・レノンはこれを読んで、悪いのはセイウチか、大工かと考えたのですね。
そんな時のつい最近ですが、『ザ・ビートルズ全曲バイブル』*というすごく面白い辞典のような本を図書館で見つけました。ビートルズの213曲について書いてある、個性豊かな情報に面白がるやら喜ぶやらで、私の目は輝きました!やっぱりジョンはアリスの物語から影響されたと、本人が語ったことが書いてありました。そしてさらにジョンが言っていたというのは、セイウチと大工のことで、どちらがいけないかと言えば、やっぱり悪いのはセイウチだったと思う、というのが上記のバイブルに書いてありました!
ところで、I am the Walrusの詞の中に気になる言葉があります。ブタが飛ぶ?宮崎駿さんの「紅の豚」は飛んでいますが、英語のことわざでPig might fly!と言われたら、それは、できっこないよ、の意味になります。
*『THE BEATLES ALL SONGS GUILD TO 213 OFFICIAL RECORDINGS ザ・ビートルズ全曲バイブル 公式録音全213曲完全ガイド』大人のロック!編フロム・ビー責任編集(日経BP社刊)