Ladybird, ladybird / Hush-a-bye, baby
英国のナーサリィ・ライムズ(=米国で言うマザー・グース/日本で言う童謡)が収集され本となったのは、今から150年以上前に遡ります。収録された数は少なくても後の研究者に影響を与えました。そして、1951年に出版されたアイオナ&ピータ・オピー夫妻のコレクションは、その数900を超え、世界の研究家にとってナーサリィ・ライムズの宝庫になっています。お二人の書物に手引きされ、私たちはマザー・グースの世界に入り込めるようになりました。
だいぶ前に日本で大規模な「マザー・グースの世界展」が朝日新聞社主催でありました。企画担当者として私はアイオナ・オピーさんを訪ねて話を聞く機会がありました。まず、なぜ収集し始めたのか、です。第二次大戦中にロンドン近郊に疎開した頃のある日、夫妻が畑のあたりを歩いていると、夫人の指に一匹のテントウムシがとまりました。その時どちらともなく、口ずさんだのが、Ladybird, ladybird, Fly away home, Your house is on fire…
いったいこの歌をなぜ知っているの? どんな意味があるの? と思ったのが、Nursery Rhymesに深く関心を抱く始まりだった、と聞きました。その時は夕方であって、それも、西の空が真っ赤な夕焼けであると、この詩にぴったりの状況です。なぜなら、赤い空は、たびたび火事に例えられるのです。
Ladybird, ladybird,
テントウムシ、テントウムシ、
Fly away home,
うちに とんでけ、
Your house is on fire
うちが もえてる
And your children all gone;
こどもたちは みないない
All except one
ひとりだけ のこってる
And that’s little Anne
ちいさいアンだけ のこってる
And she has crept under
はいはいして かくれてる
The warming pan.
ふたつきなべの あんかの したに。
【語注】
on fire 燃えている(「火事」はa fire, There was a fireなどと使う)/ gone 行ってしまった、いない(「死んだ」の意味もあって、こわさがある)/ creep under ~の下を這う(隠れている様子がうかがえる)/ warming pan あんかや湯たんぽのようなもの(昔は長い柄のついた真鍮製の蓋つき鍋に、燃えている石炭や炭火または熱い湯をいれてベッドを暖めていた)
ladybird(テントウムシ)は、大英和辞典によると、原義Our Lady’s bird(聖母マリアさまの鳥)からきていると書いてあります。宗教的な意味がどこかにあるのかもしれません。ただ単純に、子どもたちがテントウムシに言う警告や注意と理解するのが一番いいと、ピータ・オピーさんは書いていますが、じつは呪文でもあるのだそうだ。
短いライム(押韻詩)をもう一つ、ご紹介しましょう。この詩は、英米で一番知られている「子守歌」です。歌詞は1765年ごろに出版された本、“Mother Goose Melody”の中に見つかったと、オピー氏。メロディというのですから、歌えるのですよね。曲も言葉もいつできたかは、わからないとか。この本には注がついていて、それがかなり興味深いものです。「これは、高慢や野心への警告だ。高いところに上れば、落ちるだけと想像できる」と言うのです。この解釈はこじつけみたいであまり楽しくない。でも、あやういこわさがあります。
Hush-a-bye, baby, on the tree top,
ねんねん、あかちゃん、きのうえで、
When the wind blows the cradle will rock;
かぜがふくと ゆりかごゆれる。
When the bough breaks the cradle will fall,
えだがおれると ゆりかごおちる、
Down will come baby, cradle, and all.
あかちゃん、ゆりかご、いっしょにおちる
【語注】
cradle ゆりかご / bough 大枝 / rock 前後左右に揺れ動く(rock-‘n’-rollに使われる言葉でかなり激しさを感じますが、ゆりかごの場合は、rockでも、ゆるやかに前後左右にゆらす)/ and all すっかり、ともに
hush-a-byeのhushは命令形で、「黙れ」とか、「静かにして」などの意味です。ここのaは声に出して言いやすくするために入れられています。byeはgood byeのbyeと同じ文字ですが、子守歌に使われると「ねんね」、「おやすみ」の意味に。hush-a-byeの訳は子守歌なので、「おやすみなさい」、「ねんねして」、のようにやさしい雰囲気に。「黙れあかんぼ」なんて訳しません。
上の詩の2行目‘When the wind blows’は、英国の絵本作家Raymond Briggsの絵本の題名にそのまま使われました。核戦争を主題にした絵本で、ひやりとこわい。ナーサリィ・ライムズは他にもたくさんの絵本作家に、刺激をあたえています。
オピー氏によると、1904年に出版されたある本には、以下のように書かれていたと言います。「アメリカに入植したある清教徒の若者が、目にした光景を作詞したものです。アメリカン・ネイティヴがシラカンバの木で作ったゆりかごを、木の枝につるしていたのでした」だいたいが、想像は(創造も)現実にあり! で、面白いです。
(文と訳=みむら・みちこ)