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S'awesome! ~世界は驚きに満ちている~

神無月~神来月

カボチャの中身をくり抜いた顔型のランタン(Jack o' lantern)にキャンドルを入れ玄関先に置く。魔女の仮装をし、歓迎サインの玄関灯が点く近隣宅の戸口で"Trick or treat!"(悪戯かご馳走か!/お菓子をくれないと悪戯するよ!)と叫ぶと、初対面の人でも笑顔で"Happy Halloween!"と迎えてくれ、お菓子やコインを戴けた。子どもの頃、10月31日のハロウィンはサンタクロースのようなお菓子で膨らんだ大袋を持ち帰る楽しい日でした。


写真:663highland/Wikimedia Commons


写真:Ann Larie Valentine/flickr

我が家の向かいのユダヤ人宅はハロウィンを祝わず電気を消すため、窓に生卵を投げられ石鹸で落書きもされていました。そんなお菓子や悪戯は何歳までしていいの?と話題になりますが、条例で14歳迄と定めたバージニアなどの地域もあります。

Halloween: Should there be an age limit to trick or treating?
Is 15 Too Old to Trick-or-Treat? One City Said Yes

ハロウィンは古代ケルト人(Celt)が行っていた新年を迎える火祭りで、死の神を称える最も重要な祝祭「サウィン(Samhain)」に由来します。ケルト人は太陽暦を用い、日没が新しい一日の始まりでした。10月31日の日没は夏=太陽(収穫)の季節が終わり、 冬=暗闇(田畑を休ませる)の季節が始まる時で、異界と現生の境界が最も薄くなり、先祖の霊だけでなく、異界の悪い妖精(Sí:ケルト神話の妖精)なども自由に行き来すると信じられていました。

 
Wheel of the year:ケルトの暦は10月31日の日没から11月1日の日没が元旦(Samhain)
写真:The Wednesday Island/Wikimedia Commons

そのためケルトの神官ドルイドは古い火を消し、新たな火を焚いて(bonfire)、収穫された食物や動物の犠牲を焼いて神々に捧げました。人々はその灰で顔を黒く塗り動物の頭や仮面を被って悪い妖精から身を守り、火を囲んで踊りました。祭事の火は魔除けのため家に持ち帰り、先人に感謝し、冬を越せるよう願ったと謂われます。


サウィンのかがり火(bonfire)
写真:Rosser1954/Wikimedia Commons

サウィン祭は、聖パトリックの布教によりケルト人が自然崇拝の多神教からキリスト教へ移行した後も根強く残りました。そこで西暦840年にローマ・カトリック教皇グレゴリー4世が、5月13日に行われていたカトリックの「諸聖人の日」(万聖節: All Hallows Day;Hallowmas)を11月1日に変え、その前夜を「諸聖人の日の前夜(All Hallows Evening)」としてサウィン祭を残しました。後に表記はAll Hallows E'enに縮まりHalloweenになりました。

19世紀になり多くのアイルランドやスコットランドのケルト移民がアメリカに渡りハロウィンを広めました。カブや瓢箪で作っていたケルトのランタンはアメリカ原産のカボチャに変わり、中に入れていた石炭はキャンドルになりJack o' Lanternと呼ばれるようになりました。


ケルトのカブで作ったランタン
写真:rannṗáirtí anaiṫnid/Wikimedia Commons

20世紀からは宗教的背景に関わらずアメリカの一大イベントとなり、日本にも広まりました。ニューヨークでは世界一のハロウィン・パレードが毎年行われます。


NYマンハッタンのハロウィン・パレードは最大規模
写真(上):Mr Seb/flickr (下)InSapphoWeTrust/flickr

ハロウィンの発祥地アイルランドでは、10月6日から11月3日までThe Spirits of Meathというハロウィン祭が今年も行われました。

古代ケルト人は頭蓋骨に霊性が宿ると考え、敵の頭は武勇と豊穣の象徴として、また同族や親族の頭は幸福や利益をもたらすとして首を切り、頭蓋骨を崇拝し守り神にしたとの文献があります。キリスト教の布教により頭蓋骨を飾る風習は排除されましたが、ハロウィンのランタンはケルトの人頭崇拝のなごりと考える研究者もいます。

また、お菓子や金銭をもらう風習は、悪い妖精から身を守るために仮装したケルトの子どもや貧しい人が裕福な家々の戸口を歩き回り、サウィン祭の神に捧げる収穫物や犠牲を集めたのが起源といわれます。1000年になりカトリック教会が11月2日を死者に祈りを捧げる「死者の日(万霊節:All Soul's Day」と定め、soulingという風習が始まりました。これは貧しい人や子どもたち(soulers)がハロウィンやクリスマスの時期に家々を訪ね、故人に祈りを捧げてsoul cakeという菓子をもらう風習で、現在も引き継がれています。


十字の模様が特徴的なソウルケーキ
写真:Malikhpur/Wikimedia Commons

ケルト人は重要なことは文字に記さず口承で伝えたため、彼らが残した文書はありません。ローマの歴史家タキトゥスは「ケルト人は生贄の動物や人間の内臓の鼓動から神意を探った」と記しています。また、サウィン祭では丈夫な枝で巨大な人型の檻を作り、生きた動物や人間を入れて火を付けたともいわれます。ドルイドの戦士たちはその檻に入れる犠牲を求めて家々を回り"Trick or treat!"と声をかけ、犠牲を差し出した家には人肉の入ったランタン(Treat)を置き、拒絶した家は呪い(Trick)をかけられたという説もあります。しかし、真偽は定かではありません。

キリスト教から異教とされた古代ケルトの自然崇拝や農耕儀礼は、かなりおどろおどろしく語られることが多いです。ヨーロッパの基層文化は、それはそれで自然と人間とのあいだに繋がりやバランスを保持していたものの、その「評価」は、後の時代の視点からという制限があります。また、当時との文化や価値観の違いから、その評価や記録には偏りがあろうことも意識しつつ、理解していく必要があります。


写真:Thomas Pennant/Wikimedia Commons

ところで、10月31日はプロテスタントの重要な宗教改革記念日でもあります。1517年にマルティン・ルターがローマ・カトリック教会からプロテスタントへ分離する宗教改革を始めた日です。プロテスタントにはハロウィンは関係なく、上述したユダヤ人などと同様にハロウィンの風習を受け入れない人も多くいます。中には、ハロウィンの悪魔的な仮装や風習は魔物を呼び込む行為で有害であると警告する人もいます。

さて、日本では11月は霜月。別名「神来月(かみきづき)」や「神帰月(かみかえりづき)」と言い、神無月(10月)に出雲大社に集まった神々が帰ってくるといわれます。
心新たに、先人や周りに感謝して、今できることを一つずつ頑張っていきましょう!

 

*本連載は、今回をもちまして終了となります。お読みいただきありがとうございました。

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著者略歴

  1. 松田奈利子

    Felicity 教育開発研究所代表。立教大学英語講師(元准教授)。コロンビア大学大学院Teachers College卒。国際教育開発学・英語教授法修士号取得。専門:英語教育、英語教授法、異文化コミュニケーション。オーガニック料理研究、バラ栽培。シンガーソングライター。元CNNニュースキャスター。主著:「テレビで留学!ニューヨーク大学英語講座」(NHK出版)、「モーツァルト英会話」(朝日新聞社)、ヒップホップ・チャンツ(研究社)等。

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