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しなくてもいいことしかすることがないーヒトとゲーム

Vol.2 相手に不必要に伝えないのも「コミュ力」

「しなくてもいいことしかすることがない」略して「しなする」第2回です。第1回をまだ読んでない方は是非そちらから読んでみてください。

第1回ではゲームがどんなものなのかを大まかに考えましたが、今回は予告通り、みんなが日頃から気にしてやまない 「コミュニケーション」についてゲーム的な視点から考えてみようと思います。

コミュニケーションとは「相手を思い通りに動かす」ための手段

ここ10年近く就職活動では「コミュ力」は必要不可欠なスキルとして求められるようになったとかなんとか言われていたりしますが(僕は就活したことないので実際どうなのかは知らないですが)、コミュ力って言われても「その人にとって都合がいいように動く能力でしょ?」って思いますよね。でも実は逆なんじゃないかなと僕は考えています。

……と、なんだか意識の高いセミナーっぽい流れになりそうなので軌道修正してゲームのことから見ていこうと思います。

ゲームには「コミュニケーションゲーム」(コミュニケーションさせることを目的としたツールとしてのゲームや勝ち負けを重要視せず会話や動作によって仲間と楽しむことに重きを置くゲーム)というジャンルもありますが、当然それ以外のゲームでも様々なコミュニケーションが行われていることを忘れてはいけません。わかりやすいところから見ていくと、有名な狩りゲームのモンスターハンターやオンラインでチームを組んで戦うFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム:プレイヤーの主観視点でゲーム世界を移動するゲームジャンル)などは味方と協力して特定の目的をクリアするため、仲間に自分の位置を伝えたり、してほしいことをうまく伝え合わなくては効率よくプレイできないでしょう。サッカーなどでも同じですね。さらに、野球はサインのやり取りが暗号化されていてコミュニケーションの取り方を工夫しているような印象があります。

個展プレイ「コミュニケーション」をコンセプトにしたボードゲーム「《コムニカチオ》をプレイする人々―アラン個展「communicatio – コムニカチオ」展より(2018)自分のターンはもちろん、それ以外でも常に「伝える/伝えない」のプレイングが行われている。

「伝わらないようにする」こともゲームでのコミュニケーションでは発生する

チームスポーツだけがコミュニケーションを必要とするわけではありません。コミュニケーションは何も味方同士だけのものではなく、囲碁や将棋、テニス、格闘ゲームのような個人同士で戦うゲームでも行われます。これらのゲームでは、相手の手に応じて自分の手を決めているというコミュニケーションが実は行われています。また、麻雀のような3人以上でプレイするゲームでは基本的には自分以外はみんな敵同士ですが、状況によっては他のプレイヤーと協力して特定の一人を叩く(協働し誰か一人の勝利を妨害・牽制すること)なんてこともあり得ます。この身の振り方もコミュニケーションの一つでしょう。チームスポーツで味方が思う通りに動いてくれなくて連携がうまくいかないとか、対戦ゲームで相手に手を読まれて負けてしまうなど、ゲームでは「自分の思惑を相手にうまく伝える、もしくは伝わらないようにすること」が勝利や目的の達成に大きく関係します。僕はこの「伝える/伝えない」のプレイング(ゲーム中の様々な場面でプレイヤーが決断する選択やアクションのこと)こそが「ゲームにおけるコミュニケーション」だと考えています。


綱引き
《綱引きの輪》2019 /アラン    ゲーム内では大きな目的到達のための小さな目的群が存在する。それぞれの小目的たちは互いに競合関係にあるとは限らず、図のように各プレイヤーの位置と意図を俯瞰することで、自分のすべき“プレイング”を把握することができる。


そして、例に挙げたゲームで「伝える/伝えない」のプレイングが行われるのは、ある「目的」を達成する(達成させない)ためだということです。目的というのはゲーム内で提示されたミッションをクリアすることだったり、対戦相手に勝つことだけではなく、ロールプレイングゲームやアクションゲームなどにおけるRTA(リアルタイムアタック:特定のビデオゲームを使って、ゲームの起動からクリアまでを実際の時間で計測して競うもの)や縛りプレイ(ゲームを有利に進める特定の行為をあえて禁止して行うもの)のように、自分(達)で設定した課題のクリアや、単に上達するための練習だったりもします。ゴルフや麻雀でよく聞きますが、接待なんかだと相手に気持ち良く遊んでもらうことも「目的」だったりするでしょう。ここで見過ごせないのが、ゲームというのはそれ自体が目的でありそうな場合とゲームを利用して別の目的を達成しようとする場合とに分かれることです。この2つではコミュニケーションのあり方も違います。もっとわかりやすく言うと、「ゲームの上でコミュニケーションをしているのか」それとも「ゲームを使ってコミュニケーションしているのか」です。つまり、ゲーム内の決められたルールや制約のもとで最善を探るのが前者で、同様のルールや制約は受けつつもそれほど拘束力が大きくなく、ゲームはあくまでも目的達成のための場であるというのが後者になります。

会社とは「大変で評価されないクソタスク」を巡る攻防戦

ゲームとコミュニケーションがどう絡まっているのかなんとなく見えてきたような気がするので、ここからはゲームからはみ出してみようと思います。またコミュ力の話になりますが、コミュ力という言葉が生まれる場所の多くは、会社や学校のような大勢の人間がある程度同じ目的を共有する場になるかと思います。学校はめんどくさいので今回は会社を使って考えてみます。ただ会社といってもピンキリなので、古いかもしれませんが「物を売る」「割と人がいる」「ソリューションは無い」という設定にします。

この会社の大きな目的は物を売って利益を出すことです。そのために上の人間は「仕事」を作ります。下の人間はその「仕事」をします。というのが大雑把な構図です。まあ、そのままこの通りに動くなら何の問題もありませんが、上の人間も下の人間も自我があるのであらゆる仕事に「やりたい」「やりたくない」「どうでもいい」という感情がくっついてきます。

わかりやすくするために会社を「上の人間 VS 下の人間による『大変で評価されない仕事』を巡るゲーム」として見ていきます。上の人は下の人をうまく働かせればクリアなので「大変で評価されない仕事」を含め、効率良さそうに仕事を振り分けます。下の人は効率良く稼いで出世すればクリアなので「大変で評価されない仕事」を回避して、違う仕事で能力を発揮しなければなりません。

上の人は仕事を振りますが、あまりにもハードで見返りが無さすぎると思われると下の人に逃げられてしまうので、その仕事の意義をそれらしく強化したり、厳しくしたりやさしくしたりしてバランスを取ります。下の人は極力大変な思いはしたくありませんが、仕事をしなさすぎると出世も昇給も見込めないのでやりたい仕事(それが無ければおいしい仕事)だけを獲得しようとします。両プレイヤーには、「褒める」「ボーナス」「ごますり」「バックレる」「謝る」「別件で忙しくする」など多くのコミュニケーションがプレイの選択肢として与えられています。両者とも自分にとって都合がいいように相手を動かすべく、「伝えたいことを上手く伝える」と同時に、「伝えたくないことは決して伝わらない」ようにしなければなりません。このように会社を「コミュ力を駆使して、仕事を残さず完遂させることと楽しく稼いで出世することを競うゲーム」と見ることもできます

協力型《協力型ゲームにおける目的と各プレイヤーの小目的》2019 /アラン チームで協力して一つのミッションをクリアするゲームでも、プレイヤーはそれぞれが小さな目的を持っていて、その小目的がみんなと共有する大目的達成の軌道をブレさせることもある。


コミュニケーションは状況に依存する多様なものなので例を挙げていくときりがありませんが、他の様々な事象も「ゲーム」と置き換えてみると、そこで行われているコミュニケーションが見えてくるかと思います。まとめておくとコミュニケーションとは、「目的を達成するために他者を都合よく動かす/動けなくする手段」だということになります。人はあくまで自他との間でうまい着地点を探ったり、極端ですが場合によっては他者を叩き潰して一人で勝つためにコミュニケーションしているのです。

一方で、全く苦労することなくクリアできるゲームも存在するように、一見無意識に行われていて目的など無いように見える「仲の良い友達と遊ぶ」状況でもこのようなコミュニケーションは行われています。お喋りしたりじゃれ合ったりする行為には「楽しい時間を過ごす」という目的があり、大きなミスをすると目的を達成できない(険悪な雰囲気になる)可能性があるからです。何気なく行われているので、「他者を都合よく動かす」という意図が明確ではないですが、考え次第では、「自分の態度」によって友達が「楽しんでいる」状態を作り出すコミュニケーションということもできます。また、「あまり親しくない親戚と数時間過ごす」というような状況では無難な近況の話なんかをするかもしれませんが、ここでは「踏み込んだ内容でなければ何でもいいから会話をして時間を使う」ことが目的になります。気まずくなってそれぞれ別の何かをし始めてしまうとゲームオーバーです。(ゲームオーバーを目的にすることもありえます。その場合協力型ではなく対戦型です)

意地の悪い書き方をしたところが多いですが、どのように受け取るかは皆さんがこれまでのゲームで「勝ち越しているか」どうかによると思います。もし「自分は負け越してるな」と思う方がいましたら自分のプレイングを見直すための資料として有効活用していただければと思います。

今回はコミュニケーションについて考えましたが、「良いコミュニケーション/悪いコミュニケーション」については考える余裕がありませんでした。次回もまた「コミュニケーション」についてになっちゃうかもしれないですが、このあたりで一度自分の作品について書いておこうと思います。次回もどうぞよろしく。

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著者略歴

  1. アラン(三浦阿藍)

    1991年鳥取生まれ。アーティスト/ゲームデザイナー、美術コミューン・パープルーム予備校生。建築士である永禮尊大と、ゲーム制作チーム「Arquetendu(アーケタンデュ)」を結成。ゲームデザイナーとしてボードゲームを販売する一方、ゲームをテーマにした美術作品を制作。昨年は、コミュニケーションをテーマにしたボードゲーム作品≪コムニカチオ≫を来場者が実際に体験できる初の個展「communicatio - コムニカチオ(TAV GALLERY/東京)」が話題に。

    ⓒPhoto by KO-TA SHOUJI

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