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しなくてもいいことしかすることがないーヒトとゲーム

Vol.5 マジックザギャザリングから学ぶ「メタゲーム」

「しなくてもいいことしかすることがない」第5回は世界的トレーディングカードゲームの《マジック:ザ・ギャザリング》(以下、マジック)について考えていきます。

世界で最もよく遊ばれているトレーディングカードゲーム

いきなり出てきたマジックについて軽く説明をしておきます。マジックは数学者でもあるリチャード・ガーフィールドによって作られ、1993年にアメリカで発売された元祖トレーディングカードゲームです。「トレーディングカードゲーム」というのはトランプやUNO(ウノ)のように決まった共通のカードの束(デッキ)で遊ぶのではなく、プレイヤーがそれぞれ各自で集めたカードの束で遊ぶカードゲームの総称です。

なぜいきなりマジックのことを書き始めたかというと、単に僕自身がマジック好きでよく遊んでいるというだけではなく(いつも周りの人たちにマジックを広めています)、僕の考え方やものの見方に大きく影響したゲームだからです。それはざっくりと言えば「メタゲーム」のことです。直接的ではないかもしれませんが、僕はトレーディングカードゲームによってメタゲームという概念が一般に浸透したのではないかと考えています。

大抵のゲームではプレイヤーに戦略が存在します。例えば、将棋では《玉》を囲んで守りを固めたり、《飛車》でガンガン攻めたりと、どんな戦略を選ぶかはその人のスタイルや、ゲームの流れの中で選択される場合が多いと思われます。同じ条件で始まるゲームにおいては、ゲーム中のプレイヤーのスキルや運によって勝敗が決まります。そのため、ゲーム前にできることは勉強で、すなわち「ゲームに対する理解を深めること」と言えます。

マジックでも将棋と同じような攻めの戦略も守りの戦略もありますが、その戦略の選択はゲームプレイ中に行われるとは限りません。むしろ、ゲームをする前の「デッキ構築」の段階で選択される場合が多いです。それゆえに、マジックをはじめとするトレーディングカードゲームではゲーム中の努力だけではもうどうにもならないような「有利・不利」な状況が存在しえます。

戦略の具体例を挙げると「相手の手が尽きるまでしのぎ続けて、相手の手が尽きたところで一気に反撃に転じる」デッキや「相手が対応しきれないうちに一気に倒し切る」デッキ、「たとえやられてもリソースが尽きないようにしてじわじわと追い込んでいく」デッキ、「特定のカード同士の組み合わせで一撃必殺を狙う」デッキなどいろいろあります。そしてこれらのデッキの中には、対戦相手との相性によってはそもそもよほど運が良くなければ基本的に勝てないような組み合わせも存在しています。

僕がよく使用する<マルドゥシャドウ>と呼ばれているデッキ(カードの組み合わせの束)
マジックではデッキの構築に様々なフォーマットあり、その種類によって細かいルールが定められているが、このデッキは2003年以降に販売されたカードしか使用しない<モダン>というフォーマットタイプである。このデッキの戦略ポイントは、自分のライフポイントが減れば減るほどかえって強くなる《死の影》というクリーチャー(モンスターや人物などの生物)にある。ライフポイントは1さえ残せば敗北ではないので、自分のカードを使って自分のライフを積極的に減らしていく。

今日は「グー」を出すと決めて参加するじゃんけん

例えて言うなら、「今日はグーを出すぞ」と決めてじゃんけん大会に行くようなイメージです。これだとパーとマッチングしたら100%負けてしまう訳ですが、「それの何が面白いのか?」という所からがメタゲームの面白いところです。

先ほどじゃんけん大会を例に挙げましたが「大会」というのが重要ワードです。つまり、1対1のゲームを1度して終わりではないのです。複数回のゲームをして最も勝った人が勝ちというのが大会です。1つのゲームよりも視点を高くしてそのゲームが行われている大会全体の中で自分がどんな戦略を選ぶと最終的に勝ちやすいかを考えることが「メタゲーム」と言えます。

また極端なことを言うと、グー・チョキ・パー全てを出せるようにしてじゃんけん大会に行けば、何も手が出せずに負けることはないかもしれません。しかしマジックの場合、じゃんけんとは異なり、限られた手札で、かつどんな順番で重なっているのかわからない山札(デッキ)を運用して戦うので、戦略の幅を広げるとかえってタイミング良く使えない場合も当然あります。つまり、なんでも対応できるようにすると勝つには運が必須で、1つのことしかできないようにすると運に左右されにくくなるが、不利なマッチングにいざ遭遇してしまうとまったく勝てないということになります。実際には「なんでもできる」と「1つのことしかできない」の間にはグラデーションが存在しますが、両極どちらに寄せるかを大会全体の対戦環境から判断します。

「対戦環境」もプレイ戦略を考えるうえでは大事な判断材料です。簡単に言えばプレイ市場の流行です。現代では、人気のゲームになると年がら年中、不特定多数の人が遊び、大会も開かれます。情報社会では、大会結果がすぐに公となります。その大会の参加者もそうでない人も、大会結果から対戦環境を読解し、次に備え、また次の結果からその次に備え…という繰り返しを、勝ちにこだわる強いプレイヤーはしています。その過程で、流行していた戦略の対策が確立されては次なる流行が生まれ、そしてそれに対抗する強い別の戦略が生まれて、はたまたその強い対抗戦略が結局はもともと流行っていた戦略だったなんてこともあったりします。このような現象を「メタゲームが回る(メタが一巡する)」なんて言ったりします。

これがどういうことかと言うと、楽しく遊ばれ続ける対戦ゲームにはいくら遊んでもキリがないような仕組みが備わっていて、その仕組みこそが「メタゲーム」ということです。

 

つい最近までマジックでスタンダードだったメタゲーム種
《王冠泥棒、オーコ》(2019.10発売)というプレインズウォーカー(マジックの世界における強大な魔道士)カードを使用する青色と緑色を組み合わせたデッキが、最強(凶)デッキとしての不動の地位を得ていた。そのオーコに対策すべく<出来事><創案の火><サクリファイス >などの工夫を凝らしたデッキが続々編み出されが、あまりにも強すぎたオーコは今年1月使用禁止カードに指定されてしまった。

さらにマジックをはじめとしたトレーディングカードゲームでは「拡張(エキスパンション)カード」が定期的に発売され、プレイヤーを飽きさせずさらに楽しめるよう、新しいシステムやストーリーを投入し、ゲームの世界観を拡張してくれます。マジックはトレーディングカードゲームですが、読み物としてのストーリーもしっかり作られていて、対戦ゲームの道具(ツール)としてだけではなく、物語の断片としてカード1枚1枚を楽しむこともできるようになっています。また、製作者側がメタゲームにテコ入れして環境を荒らしたり整備したりもしています。このように27年近く続いているマジックでは、対戦環境がマンネリしてしまわないように工夫され続けています。

と、ここまでマジックの「メタゲーム」がどんなものでどのように面白いか書いてきましたが、ここからは僕が「メタゲーム」からどう影響を受けたかを書いていきます。ここからは前回と合わせて読んでもらえると理解が深まるかもしれないです。

メタゲームでアートや社会を考える

僕がやっている現代アートというゲームでは、未来に書かれるだろう現代アートの歴史の中心に、現在打つ一手によってどれだけ近づけるかを競っている側面があります。

僕は社会の問題を扱う作品が最近のアートの「メタゲーム」の中心と考えています。具体的にはマイノリティや政治、環境などの分野です。僕自身はゲームという表現(という戦略)を使って、文化や人間という抽象度の高いものを扱っていると思っていますが、一見イメージしやすい「社会問題をテーマとした作品」よりも注目を集めにくいという点で弱みがあります。一方で、逆に「簡単に消費されにくい」という長期戦向きの強みがあると考えながらアートの世界でプレイをしているわけです。

アーティストがどのようなゲームプランで活動しようと考えているかによって、戦略が選ばれると思います。そして、「社会問題タイプ」は僕が思うに、椅子取りゲーム的に揺るぎない地位を獲得できれば、ほぼ勝利と言える可能性があります。基本的にゲームは先手があっての後手なので、参照項になるという意味で(特に黎明期ならそこまで優れていなくても)重要な地位を築くことができると考えています。そのため、社会の動向とリンクし、その都度いち早く回答し話題になることができれば、「社会問題タイプ」は先導者になれるという構造です。他タイプのアートプレイヤーたちは、「社会問題タイプ」のアーティストの地位を揺るがすために批判をしたり、良いと思われる作品を地道に作り続けてブームが過ぎるのを待ったりしています。

僕はマジックを遊んできた経験からざっくりとこんな風にアート界を見てプレイしている訳ですが、これはアートに限った話ではなく、いろんな分野で無意識に「メタゲーム」を考えながら生きている人も多いのではと思います。

パープルーム予備校でマジックを初めて遊ぶ方に僕がデッキの組み方を教えている様子。
僕は新しいエキスパンション(拡張カード)が出ると基本的に1箱(36パック入り)買うので、「シールド(事前に戦略的にデッキを組むのではなく、その場で開封したカードを用いてデッキ構築する遊び方)」や「ドラフト(その場で開封したパックを他のプレイヤーに回し使いたいカードをドラフトで獲得しデッキ構築していく遊び方)」という形式で遊びながら開封する。新しいエキスパンションが出るたび、遊びたい人を募集してます。

アートや社会というゲーム自体は、人類が絶滅するまでは終わりませんが、プレイヤーの寿命は明らかに有限なので、短期戦か長期戦かを選ぶだけでも、生きていく中で遭遇する様々な選択の場面でブレることなくゲームメイクしていくことができるのではないかと思います。自分の人生の中で幸せに生きることを第一目標にするのか、家族の幸せを第一に考えるのか、はたまた、歴史に残ることを第一に考えるかなどです。そして不安に襲われた時には、自分で決めた自分の役割を見直すことでゲームプランを修正できるのではないかと思います。

人間もマジックのカードと同じように、大雑把に強い人間もいれば、基本は弱いけど特定の状況では活躍できる人間もいます。ゲームに参加すらしなければ、システムに都合よく動かされるだけのNPC(ノンプレイヤーキャラクター:ゲーム内でプレイヤーが操作しないキャラクター)になってしまいますが、1人のプレイヤーとしてゲームに参加すれば、私たちを取り巻く環境も、各人の活動によって変えることができます。当然、異なる目的で動くプレイヤーたちの集合体なので、環境を変えるのは簡単なことではありませんが、自分のステータス(社会的地位のことだけではなく)を把握してメタゲームを読み、有効な戦略を立てることができれば目標に近づくことができると思いますし、僕はそれ自体が楽しいと思っています。現実的に考えると大変に感じるようなことを、《マジック:ザ・ギャザリング》ではシュミレーションとして、楽しく遊びながら経験することができます。パソコンで気軽に遊べるマジックアリーナというサービスもあるので一度プレイしてみてはいかがでしょう?

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著者略歴

  1. アラン(三浦阿藍)

    1991年鳥取生まれ。アーティスト/ゲームデザイナー、美術コミューン・パープルーム予備校生。建築士である永禮尊大と、ゲーム制作チーム「Arquetendu(アーケタンデュ)」を結成。ゲームデザイナーとしてボードゲームを販売する一方、ゲームをテーマにした美術作品を制作。昨年は、コミュニケーションをテーマにしたボードゲーム作品≪コムニカチオ≫を来場者が実際に体験できる初の個展「communicatio - コムニカチオ(TAV GALLERY/東京)」が話題に。

    ⓒPhoto by KO-TA SHOUJI

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