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しなくてもいいことしかすることがないーヒトとゲーム

Vol.3 僕が作った「思い通りに行かないゲーム」

前回は「コミュニケーション」をゲーム的視点で考えてみましたが、僕自身が作ったボードゲームもプレイヤー同士のコミュニケーションや、プレイヤーとゲームのコミュニケーションなどのインタラクションに焦点を合わせています。というわけで、僕のゲーム1作目≪ゾンビマスター≫を紹介しつつ、「ゲームにおけるコミュニケーション」についてもう少し考えていこうと思います。

永く愛されるゲームほどルールはシンプル

ゾンビマスターは2人対戦の「完全情報ゲーム」です。完全情報ゲームとは各プレイヤーがどのフェーズであっても、自分の手番時に、それまでに行われたプレイングの歴史が把握できるゲームのことです。チェス・囲碁・将棋、すごろくやバックギャモンなど多くのボードゲームが完全情報ゲームで、反対に麻雀やUNOなどは相手の手札が見えないので「不完全情報ゲーム」とも言います。ゾンビマスターが僕のゲームの第1作目なのですが、ゲームは何よりまず遊ばれなくてはならないので「すぐにルールを理解できる」「プレイ時間がそれほど長くない」という2点を要件にしています。余談ですが、オセロも「覚えるのに一分、極めるのに一生」というキャッチコピーで売り出していたらしく、そういう意味でゾンビマスターはオセロのライバルという意識で作りました。

ゾンビマスター内容品
《Zombie Master》2017/アラン 2人専用ボードゲーム、プレイ時間は30分。囲碁やオセロのようにコンポーネントは最小限で、全てアランによるハンドクラフト。

ちょっと長くなると思いますが、ルールを簡単に説明しておくと、双方6体ずつあるゾンビの駒を交互に1体ずつ動かし、8×8マスのボードの対岸まで自分のゾンビの駒を1体送り込めば勝ちというものです。このゲームの特徴はゾンビの駒の動きにあります。駒であるゾンビは「自分の意思を持たず、敵のゾンビの駒の動きに反応する」という、「ゾンビっぽい」2つのルール性質を兼ね備えています。1つ目の性質ですが、体育座りしているゾンビの駒は前後左右いずれかの方向を向いていて(ゲーム開始時に駒を振って方向を決める)、その「向いている方向にしか動かすことができない」というものです。自分で行き先を決められない「ゾンビ」と同じですね。もう1つは縦の列・横の列問わず、自分のいる列に敵のゾンビの駒が移動してくると連動して「自分は必ず時計回りに90°回転しなければいけない」というものです。あとは先手後手の決め方やゾンビの向きが変わらない条件など少し細かいルールはありますが、概ねこんなルールです。(ゾンビというモチーフは古今東西いろんな作品に登場するので決まったキャラクター設定は無いと思いますが、ゾンビマスターではブードゥー教(西アフリカやカリブ海の民間信仰)のイメージで作っています。)


ゾンビマスタードローイング《ゾンビマスターの駒のデザインのためのドローイング》2017 /アラン
ゾンビを五面体(六面体-1面)のデザインにすることで、サイコロのように駒を転がした際、「立ち」「仰向け」「うつ伏せ」「右寝」「左寝」の5パターン(「逆立ち」を除く)の結果が出るように。「立ち」を「仰向け」と同じ扱いにして、2/5の確率でゾンビが前を向くよう調整している。


ゾンビとのコミュニケーション

将棋やチェスのようなゲームでは自分の駒は自分の思い通りに動かせるわけですが、先ほど書いたルールの通り、ゾンビマスターは相手のゾンビが動くことによって自分のゾンビの向きが変わってしまい、かつゾンビの顔が向いている方向にしか動かせないので、自分の手駒であるゾンビであろうとも完全にコントロールできるわけではありません。自分の駒だけど自分の思い通りに動かないゲームは、イメージしやすいところではランダムな要素を含むものがあります。サイコロやルーレットを使うすごろくなどや、プログラムで技の命中率が管理されているポケモンのバトルなどのコマンド対戦ゲームもその一つだと思います。このランダムな要素はゲームの結果を左右するもので、ゾンビマスターの「思い通りに動かないシステム」とは異なり、確率計算やイカサマ以外ではどうすることもできないものです。

他に自分の思い通りに動くとは限らないゲームといえば、シミュレーションゲーム(実機シミュレーションではない)もそうだと言えます。こちらは自分が将軍や経営者、村長、高校生などのプレイヤーキャラクターとなって、武将や社員、村人、同級生などのノンプレイヤーキャラクターとやり取りをしていくゲームですが、特定の行動を選択した/しなかった場合、プレイヤーキャラクターがその後にできることが変化します。これはどれだけゲーム内の因果関係を把握できているか否かが、思い通りに動くか否かに関わります。因果関係を可能な限り想像し計画を立てていくのです。ランダム要素の強いゲームとの違いは、もし完全に因果関係を把握できていれば完全に思い通りに動かすことができるわけです。ゾンビマスターはなかなか自分の思い通りにいかないのですが、ランダムよりはプレイヤーの選択が互いに次の選択に影響を与え合う(インタラクション)という点でシミュレーションゲームに近いと考えています。(ゾンビマスターにもスタート時のゾンビの向きの決定にランダム要素がありますが、先手後手の決定と大差無いランダム要素と考えています。)

広告漫画
《ゾンビマスター広告漫画》2018 /アラン

つまり、ゾンビマスターとは自分のゾンビと相手のゾンビとの因果関係を盤面から読み取りながら、「目的」のために自分のゾンビに働いてもらうか、じっとしててもらうか、無駄に動いてもらうかというようなコミュニケーションをするゲームということになります。当然、対戦ゲームなので相手の思惑を想像しながら、相手のゾンビを動けなくすることもあれば、自分のゾンビのポジショニングを工夫して相手に動けるようにしてもらうこともあります。ゾンビマスターは相手に何かしてもらうのと同時に自分も相手に何かしてあげなければ勝つことが難しく、自分のゾンビだけでなく対戦相手との(無言の)コミュニケーションも際立つゲームになっていると思っています。

等しくみんなが「凡人」

将棋やチェスでは駒ごとに動けるエリアが違い、それが駒の強弱や役割に違いを作っているわけですが、ゾンビマスターは全ての駒が駒の向いている方向に1マス動くことしかできません。将棋やチェスでは大きく動かせる「飛車」が強くて好きとか、馬を象った「ナイト」がかっこよくて好きなどの愛着によってその人のプレイングも変化するでしょうし、そのゲームをやる動機にもなると思います。しかし、ゾンビマスターでは駒にキャラクターとしての特徴を与えないことにしました。現代では、人間に求められる能力はその時々の場所や状況に応じて左右されるので、特定の分野で抜きんでた能力を持つ人間が必ずしも絶対的なヒーローになれるとは限らないからです。「強ければ全て良し」とか、「計算が得意ならどこにいても勝ち組」とか、「コミュ力が高ければ何でも良い成績を出せる」なんてことはあり得ない社会ですよね。「世界に一つだけの花」ではありませんが、ほとんどみんなが等しく“凡人”であるのが現代の社会だと僕は考えています。なぜなら、どこか特定のフィールドで活躍できたとしても他のフィールドではそれほどでもなかったりしますし、フィールドが無数かつ多層的に存在しているがゆえ、特定のフィールドにずっとしがみついているのも難しいと思われるからです。

対戦
中央の青のゾンビが手前側にあと2マス進めば青のゾンビマスターの勝ちだが、前に進めようとすると並列する赤のゾンビが追いかける形で青の向きを変えてしまうので、青は結局1マスしか進めず足止めされる...。一方で写真右上の赤のゾンビが2体で攻め込んでいる。

ゾンビマスターをプレイしていると「ゾンビ3号くんには前を向いて欲しいからゾンビ4号くんを1マス下げよう」とか「相手のゾンビ2号が危険だからゾンビ6号くんはそこで足止めしておいて」みたいなやりとりを頭の中で思い描いている人もいると思います。このゲームのゾンビは個性的なキャラクターではありませんが、「特徴無き凡人」というキャラクターとしてプレイヤーの前に座っているのです。

ゲームで戦う上で、持って生まれた能力や時間やお金といった「かけたコストの大きさ」は重要ですが、そのゲームへの取り組みが一定のラインを超えた場合にはその差はほとんど無くなります。では何が勝負を分けるのか。それは身の処し方であり、そして望む状況を作るのが上手いものが勝利に近づくのです。つまり「特定の能力が優れている=強い」ではなく、そのうえ何が「強さ」なのか明確ではありません。ゾンビマスターはその謎の「強さ」を考えたゲームなのです。自作について説明し過ぎるのも好きじゃないんですが、僕が自分の考えをどう実践しているのかが伝わればと思います。今回「フィールド」という概念が怪しい感じで出てきてしまったので、もしかしたら次回はそれをテーマにするかもしれません。ぜひまた読みに来てください。

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著者略歴

  1. アラン(三浦阿藍)

    1991年鳥取生まれ。アーティスト/ゲームデザイナー、美術コミューン・パープルーム予備校生。建築士である永禮尊大と、ゲーム制作チーム「Arquetendu(アーケタンデュ)」を結成。ゲームデザイナーとしてボードゲームを販売する一方、ゲームをテーマにした美術作品を制作。昨年は、コミュニケーションをテーマにしたボードゲーム作品≪コムニカチオ≫を来場者が実際に体験できる初の個展「communicatio - コムニカチオ(TAV GALLERY/東京)」が話題に。

    ⓒPhoto by KO-TA SHOUJI

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