朝日出版社ウェブマガジン

MENU

家ごもりヘロヘロ日記

みなさん、お元気にお過ごしでしょうか。どんなふうにお過ごしですか。期間限定で、末井昭さんに日記を書いてもらうことになりました。お茶の時間や、おやすみ前の一時など、くつろいで読んでいただけますと嬉しいです(編集部)。

 

4月20日(月)

 自宅にこもって26日目になる。

 令和歌謡バンド・ペーソスのライブも、4月から5月の初めまですべて中止になったので、出かける用事はいまのところなくなった。

 令和歌謡バンド・ペーソスというのは、スポーツ新聞の風俗記事などでおなじみの「島本なめだるま親方」こと島本慶さんが作った歌を、島本さん自らが歌っているバンドだ。島本さんはシンガーソングライターということなのだが、その言葉が似合わないところがペーソスの持ち味になっているような気がする。その伴奏をしているギターの米内山尚人、クラリネット&パーカションの近藤哲平、テナーサックスの末井昭、そして専属司会のスマイリー井原の5人編成のバンドだ。月に4、5回ライブをやているのだが、4月9日から、予定していたライブがすべてが中止になった。

 こういう状況にうといのが島本さんで、スマイリー井原が近況を聞こうと電話してみたら、スポーツ新聞から「当面エロ記事は入れないから出番なし」と宣告されて、やっと事態の深刻さを理解したとか。島本さんは「こんなことになってるなんて、思わなかった」と言っていたそうで、「やっぱりスゴいなぁ、この人は。テレビもネットも見ていないんですかね?」とスマイリーはメールに書いていた。

 最近のことでは、土曜日の深夜にフジテレビ系で放送されている連続ドラマ『隕石家族』の1回目と2回目に、ペーソスが登場していた。そのシーンは今年の1月の終わりごろ収録したのだが、そのころは島本さんだけでなく、誰もこんなことになるとは思ってもいなかったはずだ。と、ペーソスのことを書いてると長くなるのでこのぐらいにして、日記に戻ることにする。

 出かける用事がなくなったので、家から出るのは散歩と食料品の買い出しだけになった。近くのスーパーマーケットに行くのがささやかな娯楽だったのだが、緊急事態宣言が発令されてからしばらくして、妻の美子(よしこ)ちゃんが「買い物は私が行くから、行っちゃダメだよ」と言いだした。

 連日テレビで放送される新型コロナウイルス情報、感染者数、死亡者数、自粛要請など見ていると危機感がどんどん増す。僕は高齢者だし心臓病もあるので、感染すると死ぬかもしれないと思って、美子ちゃんは心配しているのだ。外に出てもいいのは散歩だけだ。

 といっても、家にこもっていることがそれほど嫌でもない。昔は対人恐怖症があって、自宅でできる仕事に憧れていた。孔版、早稲田式速記、日美のレタリング講座、などの通信講座を受講していたこともある。「自宅で出来て高収入」という広告に飛びついたのだが、まったく儲からなかった。あたり前だが、技術を覚えても仕事がくるわけではなかったのだ。

 60を過ぎてやっと望みが叶って、自宅で原稿書きをするようになった。それとともに家事も好きになった。朝食を作ったり食器を洗ったり、洗濯物を干したり畳んだり、布団を干したり、ゴミを出したり、あまりにも家事が多くてちょっとヘロヘロ状態だが、それでも楽しくやっている。しかし、映画を見に行ったり、会いたい人に会いに行ったり、書店におもしろそうな本を探しに行ったりすることができないのが、軽いストレスになりつつある。

 こうなれば、これをチャンスとして、本をたくさん読もうと思っていたのだが、気がつけばボーッとしてテレビを見ていることが多い。本を読んだり文章を書いたりするには、それなりの力がいるのだが、テレビを見ることに力はいらない。というより力がどんどん吸い取られていく。「これはマズいぞ。何かしなくてはいけない」と思ったのも、この日記を書き始めた理由だ。

 このごろよく来るノラのキーちゃん。

 このごろよく来るノラのキーちゃん。

 

 朝7時過ぎに起きて、風呂に入ったあと新聞を読んでいると、急に胸が苦しくなった。

 脈も早くなったので、血圧計を腕に巻いて測ってみると、上が88、下が64、心拍数はなんと143だった。血圧を下げる薬を飲んでいるので、いつも低めなのだが、心拍数143って大丈夫なのだろうか。血圧計が壊れているのかもしれないと思って、手首に指を当てて脈拍を数えようとしたら、血管が痙攣みたいにドクドクしていて数えられない。薬箱から血管を広げる薬・ニトロペンを取り出して舌の下へ入れる。しばらくして測ってみたら、血圧97-68、心拍数は108に下がっていた。動悸も落ち着いてきたから大丈夫だろう。

 血管攣縮性狭心症と診断されたのは6年前だ。そのころ、目を覚ますと、ときどき胸が苦しくなることがあった。布団のなかで10分ほど我慢していると治まるので、それほど気にしていなかったのだが、美子ちゃんが「サカキバラで診てもらったほうがいいよ」と言うので、まず新宿の榊原記念クリニックで診断してもらって、榊原記念病院に検査入院することになった。

 部分麻酔をし、太腿から静脈にカテーテルを入れ、心臓の近くでカテーテルから薬を注入すると、ドクドク心臓の音がしていたのが、ドク…ドク……ドク………とだんだん間隔が長くなり、一瞬心臓が止まった。注入した薬で血管が収縮して、心臓に血が流れなくなったからだ。死の手前の状態を一瞬体験したといってもいい。それ以来、血圧とコレステロール値を下げる薬を毎日飲んでいて、緊急用のニトロペン舌下錠も常備している。ペーソスのライブのときは、スマイリー井原が首から薬の入った袋をぶら下げているが、ライブ中になったことはない。

 心臓が平常に戻ったので、お腹を空かしている2匹の猫にゴハンをあげ、自分のゴハンを作って食べていると、美子ちゃんが起きてきた(僕と美子ちゃんとは睡眠時間が3時間ほどズレている)。脈が速くなった話をすると「サカキバラに行って診てもらったほうがいいよ。私が連絡してみるから」と言う。「治ったから問題ないのに」と思ったけど、6年前のこともあるので美子ちゃんに従うことにした。

 5日前、共同通信のMさんから原稿を頼まれた。こんな折だからこそため込んでいた本に手を伸ばしてみましょうという企画で、何人かの人がお薦め本を1冊づつ取り上げるらしい。3月初めに、唯一の連載『週刊現代』の「リレー読書日記」の任期が終わって仕事がなくなったので、この原稿依頼は嬉しかった。

 寝室に積んでいる本の中から、何回もチャレンジしたけど最後まで読めなかった島尾敏雄の『死の棘』を選んだのだが、もう4日も読んでいるのにまだ130ページほど残っている。全部で620ページもあるし、改行が少なくて読みづらい本なのだ。原稿の締め切りは明日なので、今日中に読み終わらないといけない。

 ということで午後は読書。本を読むとすぐ眠くなる体質なので、眠気防止のために音読をやってみることにしたのだが、これが結構楽しい。家にいるとついつい喋らなくなってしまうが、音読は喋ることでもあるので、ストレス発散になるのかもしれない。スラスラうまく読めると嬉しくなってくるし、黙読よりも頭に入ってくるような気がする。音読も自宅だからできる読み方だ。夕方までになんとか読み終えることができた。

 読み終わってみると、やっぱりすごい小説だと思った。簡単にいうと、トシオとミホの夫婦喧嘩の話だ。外泊ばかりしているトシオに、妻ミホがついにキレる。ミホはトシオに「あの女」にどういうことをしたのかと執拗に聞く。トシオはそれを話すのが嫌で、話そうとすると頭がおかしくなって「自殺する」と叫んで家を飛び出す。ミホがそれを追う。そういうことが延々と繰り返される。最後にミホは精神病院に入る。トシオもミホの世話をするため、同じ精神病院に入る。ほぼ実話だ。夫婦喧嘩といってもスケールがデカすぎる。高橋源一郎さんが戦後文学ナンバーワンと言っているのもわかる。夫婦の間に嘘が入り込むと2人は永遠に引き裂かれてしまうのだが、その贖罪のような小説ではないかと思った。

 僕たち夫婦もかつてはそうだったけど、世の中には関係性が危うい夫婦が結構いる。緊急事態宣言発令で、会社に行っていた夫が家にいるようになる。妻も家にいる。学校が休みになって子供も家にいる。こういう息がつまるような状態になると、よほど夫婦関係がよくないと喧嘩が絶えないのではないか。そういう夫婦が、『死の棘』のようなものすごい夫婦喧嘩を知れば、自分たちの小さな夫婦喧嘩なんてバカらしくなるかもしれない。そういう意味では、かなりタイムリーだった。

 美子ちゃんが榊原記念病院の予約を取ってくれた。6年前カテーテルをやってくれた女性の先生は辞められていて、最初に診察してくれた榊原記念クリニックの先生も辞められていて、その後任の先生が明日来られるということで、じゃあその先生でお願いしますと話している最中に、その先生が急に休みを取ることになったらしく、代理の先生になると言われたそうだ。美子ちゃんは、代理の先生だと次に行くとき別の先生になるので、常住の先生にしてほしいと頼んだそうだ。こういう交渉が僕にはできないのだなあ。

 夜10時ごろまで共同通信の原稿書き。だいたい書き上がる。

 

4月21日(火)

 7時起床。血圧110ー75、心拍数81。

 入浴したあと朝食の仕度。カボチャの皮を剥き、蒸してミキサーに入れ、牛乳を入れて撹拌し、鍋に移し塩を加えて温める。レタスを洗い、フライパンを火にかけ、オリーブオイルを垂らし、溶いた卵をフライパンに落とし、千切ったレタスを入れて1分ほど混ぜ合わせ、皿に移し、ドライフルーツとミックスナッツを振りかける。ポットに生姜を擦り、紅茶の葉っぱを入れ、お湯を注ぐ。毎朝同じ朝食を飽きもせず作っている。

 朝食を食べ終わり、食器を洗い、猫たちにゴハンをあげて、2つある猫トイレの掃除をしたころ、美子ちゃんが起きて来た。昨日書いた原稿を読み返し、大幅に書き直して10時ごろMさんに送る。

 1時ごろ、美子ちゃんが作った昼食を2人で食べ、美子ちゃんが運転する車で飛田給にある榊原記念病院に向かう。27日ぶりの外出だ。病院行きだけど外出するのは楽しい。人がほとんどいない街並み、新緑の街路樹、車の窓を開けると爽やかな風が入ってくる。車が少ないのでスイスイと30分少々で病院に着いた。

 入り口にはマスクに手袋の看護師さんたちが数人いて、感染症予防チェックシートを書くように言われる。熱はあるか、海外から帰った人と接触したことがあるかなど、15ほどの質問のすべてがNOでないと入れてもらえないらしい。手の消毒をして中に入ると、カウンターにはビニールシートが垂れ下がっていて物々しい感じだ。カウンターの中の人たちはみんな緊張しているように見える。この時期、病院で働く人たちは神経をすり減らしているだろう。広い待合室に人がポツポツと間隔を開けて座っている。

 心電図を取ってもらったあと、担当のS先生の診断を美子ちゃんと聞く。攣縮性狭心症の症状なのか不整脈なのか現状ではわからないとのこと。24時間の心電図をとることになった。

 家に帰って横になって週刊誌を読んでいたら、いつの間にか眠ってしまい、目がさめると夕方6時だった。

 

4月22日(水)

 6時前に目が覚めた。入浴したあと新聞を読む。今日のめぼしい記事は「米原油 初のマイナス価格」と「DV被害者に10万円をどう渡す」だ。物の値段がマイナスになるということは、これまで想像したこともなかった。新型コロナウイルスは既成概念を次々に変えていく。 

 「DV被害者に10万円をどう渡す」は、夫のDVで別居している妻に、どうしたら特別定額給付金10万円を渡せるかという記事だ。原則世帯主が一括申請して、給付金は世帯主の口座に一括で振り込まれることになっている。夫のDV被害で逃げている妻や、虐待で家にいられない子供にはどう行き渡るのか。高市早苗総務相はDV被害者に配慮すると言っているが、おそらくやらないだろう。世帯主というからには、自分が働いて家族を守る義務がある。もちろんそういう世帯主もいるが、家族をほったらかしにしたり、家族に暴力をふるったり、どうしようもない世帯主だっているのだ。たとえば、15歳以上は個々に受け取ることができるというようにはならないのか。

 いつものように朝食の用意。猫の世話。1人で朝食を食べたあと、日当たりのいい場所で『新潮』5月号の古井由吉さんの遺稿と追悼文を読む。

 古井さんは馬事公苑に面したマンションに住んでいて、午前中に馬事公苑をよく散歩されていた。僕も馬事公苑近くに住んでいるので、馬事公苑の武蔵野自然林を通って日本庭園に出るコースをよく散歩していた。ときには前を古井さんが歩かれていたことがあって、こっそりあとをつけるという失礼なことをしたことがある。

 オリンピック馬術競技のための改修工事で閉鎖されてからは、馬事公苑正門前のケヤキ広場を体操のように両腕を振りながら行ったり来たりされていた。だいたい時間が決まっていたので、その時間にケヤキ広場に行って、ときどきベンチからその姿を観察させてもらっていた。馬事公苑が閉鎖されて、おそらく古井さんも残念な気持ちだったと思う。武蔵野自然林や周りの木々がだいぶ伐採されてしまった。そこで生きていたと思われる狸がうちの中に入ってきて、猫のゴハンを夢中で食べていたことがあった。疥癬にかかっていて全身の毛が抜けていた。その狸もオリンピック被害者だが、そのオリンピックも中止になってしまった(1年後と言っているけど、1年後に開催できる保証はない)。

 

うちに入って来て猫のゴハンを食べる疥癬で毛が抜けた狸。

うちに入って来て猫のゴハンを食べる疥癬で毛が抜けた狸。

 

 古井さんの本は『杳子・妻隠』を途中まで読んだことがあるだけで、ファンでもなんでもないのだが、何か惹かれるものがあったのだろう。古井さんの死は、自分の中では身近な人の死のような気がしている。

 昨年の台風のことを書いている遺稿の中に、印象的な箇所があった。

 「人はすくなからず、住んではならないところに住んでいると言われる。昔は大水のあったところに知らずに住んでいる。あそこはよくない土地だ、と古老たちの戒めるのも幾代かは伝わるが、安穏な年が何十年も続くうちに忘れられて、人家の集まったところで、水が暴れる」

 夕方、美子ちゃんが「おもしろいよ」と教えてくれた、ルパート・グールド監督の『トゥルー・ストーリー』をNetflixで見る。

 記事の捏造が発覚してニューヨーク・タイムスを解雇された記者に、妻と3人の子供を殺した容疑で捕まっている男から電話がかかってくる。記者はその事件に興味を持ち、その容疑者をインタビューして本を出そうと画策する。インタビューを続けるうちに、記者は男の罠にはまっていく。容疑者役のジェームズ・フランコの演技がよかった。読書もいいけど、ネットでおもしろい映画をいっぱい見たい。

 

4月23日(木)

 6時に起き、入浴のあと、朝食を作って食べ、食器を洗い、猫の世話をし、新聞を読んだりしていたら8時半になっていた。今日は榊原記念病院でエコー検査とホルター心電図検査のための小型心電計の取りつけがある。あんなに外に出るなと言っていた美子ちゃんが「今日はひとりで行ってね」と言う。てっきり今日も車で行ってくれるものと思っていたので、「あれ?」という感じだが、久しぶりに電車に乗るのもちょっとワクワクする。

 11時の予約だが、電車の乗り換えで迷ってしまうかもしれないので、ちょっと早めに9時に家を出たのだが、3分ほど歩いたところでハンカチを忘れたことに気づく。いつもならハンカチぐらい忘れても平気なのだが、「感染予防の基本は手洗い」と言われているいまは一番の必需品だ。美子ちゃんにハンカチを玄関まで持ってきてくれるよう電話して引き返す。

 ハンカチを受け取って再び家を出て、やはり3分ほど歩いたところで、今度は財布を忘れたことに気がつく。美子ちゃんに電話してまた引き返す。財布を受け取るとき美子ちゃんが「だいじょうぶ?」と言う。ボケが始まったのだろうか。

 電車で榊原記念病院がある飛田給に行くのはちょっとややこしい。用賀から田園都市線で溝の口まで行き南武線に乗り換え、稲田堤で降りて駅を出て京王稲田駅まで歩く。京王稲田駅から京王相模原線で調布に行き、京王線に乗り換えて飛田給まで行くのだが、以前行ったときは調布で電車を間違えてしまった。

 用賀から田園都市線に乗るとガラガラだった。南武線もガラガラ。京王相模線もガラガラ。京王線もガラガラで、人と密接することもなく10時25分に飛田給に着いた。

 飛田給駅から病院まで徒歩15分ぐらいなので、天気がいいから歩いて行くことにする。

飛田給駅から病院まで歩く。

飛田給駅から病院まで歩く。

 

 北口の階段を降りると、駅前なのに人が歩いていない。車も少ない。高い建物がないので空が広い。青い空に白い雲がプカプカ浮いている。なんだか無性に懐かしい気持ちになってくる。その懐かしさはどこからくるのだろうか。考えながら歩いていたがよくわからない。高校を卒業して大阪に出たころの風景と重なるからか。それとも、死んだらこの風景はもう見られないと思うからなのか。だとしたら、無意識のうちにも、死ということがチラチラ頭に浮かんでいるのだろうか。

 

榊原記念病院に到着。

榊原記念病院に到着。

 

 病院に着き、感染チェクシートを書き、手を消毒して入り、受付を済ませ、エコー室に入る。上半身裸になり、ベッドに仰向けになってエコー検査を受ける。目を閉じていると、女性の先生の優しい声で「息を吸って~、吐いて~、止めて~」「息を吸って~、吐いて~、止めて~」とゆっくり繰り返され、それに合わせて息を吸ったり吐いたりしていると、自分がなんだか赤ちゃんになったような気持ちになってくる。全然関係ないけど「マスク美人」という言葉が浮かんだ。

 別の部屋でやはり上半身裸になり、ホルター心電図検査のための小型心電計を取りつけてもらう。24時間の心電図を取るのだ。明日までつけたままの状態で、昼ごろ病院で取り外してもらうのだ。

 帰りも散歩がてら歩く。途中スーパーマーケットがあったので、カボチャやレタスやリンゴを買ったら、バッグがいっぱいになった。

 帰りに調布で乗る電車を間違えて、分倍河原まで行って南武線に乗り換えた。

 家に帰り、昼食後、Yahoo!ニュースを見ていたら、パチンコ店が休業しないことが問題になっていた。3.11のときもそうだったが、こういうときいつもスケープゴートにされるのがパチンコだ。特に最近は、カジノ解禁ということもあって、やたら締めつけが強くなっている。

 マスコミも政治家も世間の人も、パチンコといえばダークなイメージしか持っていない。確かに依存症の人もいるけど、依存症になってなぜ悪いのだろうか。パチンコしか楽しみがない、パチンコ屋しか行くところがないお爺ちゃんたちがたくさんいるのだ。そんな人たちの依存症が治ったら、どんないいことがあるのか。お金がなければ1円パチンコを打っていれば、そんなに大損することはないし。老人から生きがいを取り上げたらいけない。

 夕方、アベノマスクがポストに入っていた。小さいとか、洗うとさらに小さくなるとか、カビが生えているとか、異物が混入しているとか、あまりにもボロボロの評判なので、マスクを見て吹き出すのではないかと期待していたのだが、昔懐かしい普通のマスクが2枚入っていて、カビも生えていなかった。ちょっとガッカリ。

 

4月24日(金)

 5時50分に起きる。血圧が低いせいか、朝起きるといつもボーッとしているので、入浴する習慣がついたのだが、心電計を取りつけていて今日は入れないので、なんとなく気持ちが悪い。

 新聞を見ると、学生が困窮しているという記事。アルバイト先が休業になったり、時間短縮になったりで、学費も払えなくて退学せざるを得ない学生もいるとか。国の予算でなんとか救済できないのだろうか。

 厚労省はコロナウイルス感染者の自宅療養を認めていたが、埼玉で死者が出たため、宿泊施設での療養が基本と改めたという記事もあった。

 朝食を作っていたら、美子ちゃんが起きてきて「もうちょっと寝かして」と言って、また寝室に入った。1人で朝食を食べ、10時15分に家を出て、昨日と同じ経路で榊原記念病院へ。

 11時23分に飛田給に着き、昨日と同じく病院まで歩く。心電計は12時までつけておかないといけないらしい。時間があるので道草して、武蔵野の森総合スポーツプラザの遊歩道を歩いてみたりする。

 11時50分に榊原記念病院へ。入り口で感染症予防チエックシートを書き込み、手を消毒。検査受付に行くと、昨日の看護師さんが出てきて心電計を外してくれた。

 病院を出たあと、同じ道を帰るのもつまらないので、逆方向に出て警察学校沿いのケヤキ並木の歩道を歩く。人がまったくいない。警察学校と警察大学は並んで建っていて、いったいどこまで続いているのかと思うほど巨大な敷地で、それに沿って真っ直ぐな並木道が続いている。歩けば歩くほど駅からどんどん離れていくのだが、駅のほうに曲がる道がない。だいぶ歩いたところで、駅に続くスタジアム通りの標識が見えたのでホッとした。巨大な東京スタジアム(味の素スタジアム)を左に見て、飛田給駅へ。あとでグーグルマップを見たら、多摩霊園が近くにあった。行ってみればよかったか。

 

警察大学沿いの並木道を歩く。

警察大学沿いの並木道を歩く。

 

 帰りは、昨日のように間違わないで、京王稲田堤まで帰ってくることができた。駅前の啓文堂で『感染爆発にそなえる 新型インフルエンザと新型コロナ』ほか2冊の本を買う。書店に入るのは何日ぶりだろう。たい焼きを買って食べながら歩く。束の間の町歩き。

 夕方、美子ちゃんが「絶対見たほうがいいよ」と言うニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ドライヴ』をU-NEXTで見る。日本では2012年に公開になったアメリカ映画。昼は映画のスタントマン、夜は強盗を逃がすためカーチェイスを繰り広げる、無口でいつもツマヨージを加えている男の(おそらく)初めての恋。ものすごく緻密につくられた映画で、ものすごく怖い。絶対見たほうがいい。 

 

4月25日(土)

 朝起きたら8時過ぎだった。よく晴れた気持ちいい日だ。緊急事態宣言が梅雨や真夏でなくてよかった。といっても、このまま梅雨か夏、ひょっとしたら秋まで続くかもしれない。

 入浴、朝食のあと、日当たりのいい部屋で新聞(朝日新聞)を読む。

 

 「3密の場所には行かないで」と行った要請は、一見、穏当に見えます。しかし、責任の主体が政府ではなく、個人に帰せられている。「個人が勝手に自粛し、責任を負う」図式で、政府は責任をとらない。これは、新自由主義的な自己責任論の典型です。

 「補償なき自粛」は、人々にコロナで死ぬか、経済的に死ぬかを自分で選べという、究極の二者択一を迫っている。必要なのは、「自粛しても生きることができる」と言う条件整備ですが、現政権にはその意識が薄すぎます。(山崎望さんのインタビュー)

 

 「コロナで死ぬか、経済的に死ぬかを自分で選べ」という悪魔のような言葉がずっと頭に残った。

 昼食のとき美子ちゃんが、新型コロナウイルスは紫外線に弱いから散歩は昼間したほうがいいと言うので、昼食のあと散歩に出る。砧公園は人が多そうだから、美子ちゃんが育った桜丘を散歩することにした。住宅街なので人はほとんどいないと思ったけど、土曜日のせいか家族連れの人たちと何回かすれ違った。すれ違うたびに息を止める自分がいる。

桜丘を散歩。

桜丘を散歩。

桜丘は美子ちゃんが子供のころ住んでいた。

桜丘は美子ちゃんが子供のころ住んでいた。

 

 1時間ほど散歩して、Netflixでユン・ソンヒョン監督の『狩りの時間』を見る。新型コロナウイルスで劇場公開がストップしていた韓国映画だが、Netflixが買い取ったとか。

 どん底から抜け出せない4人の若者が、廃墟となったビルの一室でやっている闇カジノに強盗に入る。金を盗り逃げ果せたようにみえたが、謎の男に狙われるようになる。超金融危機でスラム化したソウルの町の風景がすごかった。

(次週につづく)

 

著者略歴

  1. 末井昭

    1948年、岡山県生まれ。工員、キャバレーの看板描き、イラストレーターなどを経て、セルフ出版(現・白夜書房)の設立に参加。『ウィークエンドスーパー』、『写真時代』、『パチンコ必勝ガイド』などの雑誌を創刊。2012年に白夜書房を退社、現在はフリーで編集、執筆活動を行う。
    『自殺』(小社刊)で第三〇回講談社エッセイ賞受賞。主な著書に『素敵なダイナマイトスキャンダル』(北栄社/角川文庫/ちくま文庫/復刊ドットコム/2018年に映画化・監督 冨永昌敬)、『絶対毎日スエイ日記』(アートン)、『結婚』(平凡社)、『末井昭のダイナマイト人生相談』(亜紀書房)、『生きる』(太田出版)、『自殺会議』(小社刊)などがある。令和歌謡バンド・ペーソスのテナー・サックスを担当。
    Twitter @sueiakira

ジャンル

お知らせ

ランキング

閉じる