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にがてしりとり

第5回 ジェットコースターが得意な私は、高いところが苦手です⁉︎ 〜気温とか乗客の体重によって1回1回違うんです。20回、30回乗ってると分かってきます

苦手なことが多い人生を送ってきたというエッセイストの古賀及子さんが、すごい特技を持つ人と、その人が苦手なことをつなげる「にがてしりとり」。今回は「人前で歌うこと」が得意な人の苦手→「ジェットコースター」のプロのお話を聞きました。(編集部)


 人前で歌うことが得意な人としてご登場くださった遠藤舞さんは、ご自身が歌うことはもちろん、ボイストレーナーとして歌い方を人に伝えることについてもクリアに見つめていた。思うように能力が認められなかった経験を経て、偶然歌の世界に入って習得した人でもあり、たゆたうような積極性が印象的だった。

 そんな遠藤さんの苦手なことは、団体行動と絶叫マシンと球技。三つの苦手からどれかひとつを選んで次へ繋げたい。迷いながらも好奇心からお声がけしたのが、絶叫マシンが得意な人だ。ジェットコースターの自他共に認めるマニアとしてご活躍、その名もジェットコースター男さんである。

 日本のジェットコースターは全制覇、さらに世界35カ国を渡り歩き、なんと1180機種に乗った経験をお持ちだ。SNSやYouTube等での発信にも精力的で、拝見すると、マニアではない一般の人に向けてジェットコースターの魅力をなんとかして伝えようとしているのがわかり、そこに「好き」なだけじゃない「得意」な人としての頼もしさを感じた。

 ただマニアとして突き進むだけではなく、なぜこうしてジェットコースター全体の広報活動のようなことに邁進できるんだろう。まずはそこを入り口にお話を聞いてみたい。

国内のジェットコースターの数は、全盛期の半分以下になってます

 “いま、日本のジェットコースターがちょっと低迷してるんですよね。それが残念で活動しているというのがまずあります。全国で遊園地の数が減っていて、一つ遊園地がなくなるとジェットコースターも三つ四つ減ってしまうんですね。国内のジェットコースターの数は全盛期の半分以下ぐらいになってるんです。乗ってくれる人が一人でも増えて、遊園地に行ってくれる人が増えて需要が高まれば、状況が変わるんじゃないかと思って頑張ってます。”

 そんなに減っているとは……まったく気がつけていなかった。それを私が言うと、ジェットコースター男さん(以下、JOさんとお呼びします)はすぐに、「としまえんもなくなっちゃいましたよね」と例を出してくれた。あっ、本当だ。としまえん、なくなった……! 

 としまえんとは、二〇二〇年まで東京の練馬区にあった遊園地である。JOさんは、私が東京に暮らしていることを踏まえ、都内の遊園地から分かりやすい例を出してくれたのだ。いきなり手腕を感じさせられる。

 文化を衰退させまいとする、マニアとしての気持ちはとてもよくわかる。お話を聞いていると、その核には、JOさん自身がジェットコースターを好きになるきっかけがからまっていた。

乗れなかったジェットコースターが、「乗れなくなかった」経験

 “二歳か三歳の頃に家族で東京ディズニーランドに行った時、「カリブの海賊」ってありますよね。あれに乗ったんです。絶叫マシンではないけど、少しだけ落下があるんですよね。あれがめちゃくちゃ怖くて。それ以来、少しでも怖そうなアトラクションには乗れなくなったんです。”

 絶叫マシンに、なんと挫折の記憶があった。ジェットコースターのような体感的な乗り物は、好きな人はいきなり好きになるものなのかなと思っていたのだけど、そうではないのか。

 ただ、「カリブの海賊」に一泡吹かされ、怖いものとして距離を置きながら、一方で憧れも感じていたという。遊園地に行くと、怖くて乗れはしなかったけれど、見るのは好きだったそうだ。

 “消防車とか働く車には興味がなくて、その分、ジェットコースターが好きだったんです。速いスピードでレールを走ってるのがかっこいいなと思って見てたけど、乗るのがとにかく無理っていう。

 乗れないまま小学五年生になって、あるとき友達同士で遊園地に遊びに行ったんです。そうすると、ジェットコースターに乗ろうぜみたいな流れにどうしてもなりますよね。みんなで乗ろうって雰囲気だったから、本当に怖かったけど、でも死ぬ思いで乗ったんですよ。勇気を振り絞ってなんとか乗ったら、乗れなくなかった。”

 「乗れた」んじゃなくて、「乗れなくなかった」。

 前提として「乗れない」があった人ならではの生の感覚だ。JOさんは、これをきっかけに一気にジェットコースターに乗ることの喜びを得たんだそう。乗れないまま憧れだけはたぎらせてきたからこそ、乗れなくなかった、乗れたことの喜びも普通とはちょっと違う重さがあったのだ。

 “打ち勝って、強くなったような気がしたんですよね。実際面白くてすごい興奮して、そっからですね。もう一気に、ジェットコースターが楽しい、好きだってなった。小五ではまってからは、当時は自分ひとりではまだ遊園地に行けないから、テレビ番組とかで遊園地の特集があったりすると録画してジェットコースターのところを何回も見たり。あと、観光のガイドブックによく遊園地が載ってるから、買ってもらってジェットコースターの写っているページをずっと眺めてたりっていう感じの子供時代でした。”

 冒頭の、乗ってくれる人が増えて需要が高まって欲しいという気持ちは、小学五年の頃にはじめて乗ったジェットコースターがなくなってしまったことにも関連しているようだった。遊園地は遊ぶ目的で行く場所だ。それだけに、ジェットコースターというのは、思い出が宿り込みやすい乗り物なのだなと思わされる。

子供と一緒に乗るためにジェットコースターを克服したい人たちへ

 そんなJOさん、活動の幅が思った以上に広く驚かされた。ジェットコースターを好きな人を増やすだけではなく、苦手な人に克服の方法を教えることもあるという。意外な需要だし、克服の方法自体も想像がつかない。

 “例えば、子供は乗りたいけどお父さんお母さんが乗れないと。子供と一緒に乗りたいから克服したいという依頼がよくあるんです。家族で思い出を作ってほしいですし、なんとかしたいと思って。お教えしてます。

 方法として、苦手な人は、怖いから目をつぶったり下向いて乗っちゃったりしてるんですよね。ディズニーランドで「スペースマウンテン」っていうアトラクションがありましたけど、あれを自ら演出してるのと同じなんです。先が見えなくてどうなるか分からないって、怖いですよね。苦手なばかりに、余計怖さを倍増させてしまっている。だから、前の景色を見ながら乗りましょうってよく言います。”

 なるほど……! 「スペースマウンテン」は何度か乗ったことがあるけれど、たしかにあれは怖い。乗るために行列する通路がすでに暗くて、途中で怖くなって乗りたくなくなっちゃった人のための脱出口みたいなものが何カ所にも用意されているし、暗いと怖いというのは誰もの感覚なのだろう。

 “あとは、できるだけ前に座った方が怖くないんですよ。落下する時に前の車両が先に落下に突入して、ひきずり込まれるように後ろが入るので、浮遊感は前ほど少ない。後ろに行けば行くほど速くなるんです。苦手な人はどうしても前の方には行きたがらないじゃないですか。たしかに一番前はちょっと怖いかもしれないので、苦手な方には前から二番目か三番目を推してます。”

 「そんなの気合いだよ、ばーんと乗っちゃえば楽しいよ!」みたいな雑さではなく、こうすれば怖くないという丁寧な教えが説得力をもって存在すること自体に、救われる感覚がある。親身、という言葉がしっくりきた。もともとご自身が苦手の側にいたからこそできることだ。

 “二番目か三番目に乗ると、先のレールが見えます。レールを見て、右にカーブするときには自分も右に体を動かす、左に動かすみたいな。バイクに乗るようにして乗ってもらえるとG(重力)を受けにくくなりますよ。怖いと人って抗うんです。右に曲がるのに、体は左に倒してしまう。苦手な人はGを余計に受けてしまっているんですよね。”

夏の雨上がりの午後に乗れたら一番速い

 ということは、だ。ジェットコースターが好きで、もっとスリルを感じたいぞという人は、苦手な人向けのアドバイスの逆をすれば、強いGと浮遊感を味わえるわけだ。なんて有効な教えなんだ。

 “そうですね。一番後ろは落下の時に浮遊感が一番強く味わえます。あとは、ジェットコースターって点検用の通路が左右どちらかについてるんです。ついてない側に座った方が、下に何もなくてより楽しめると思います。スピードに関して言うと、レールが濡れて滑りが良くなる雨上がりは速いです。タイヤにグリース、潤滑油みたいなのを塗るんですけど、夏はそれが溶けやすいので滑りが良くなって、速くなります。だから、夏の雨上がりの午後に乗れたら一番速いんです。”

 夏の雨上がりの午後……理屈を聞く前からもう速そうだ。怖い。ところで、JOさんのような気合いの入ったマニアにとっても、やっぱり速いこと、スリルがなによりの魅力、ということにはなるんでしょうか。

 “マニアの中にも、いろんなジャンルがあるんですよね。速ければ速いほどいいっていう人とか、メーカーしばりで好きっていう人とか。自分はふわって体が浮く気持ちよさが一番好きなので、いかにどれだけ浮かしてくれるかっていうところを見てます。

 浮き方もいろんな種類があって。一番気持ちいいポイントで浮かしてくれる、無理なGが全くないゼロGっていうのが好きなんです。本当に無重力みたいな感じがするんですよ。「ここもう少しスピードが速ければゼロGになったかもしれないのにな」とか、「ちょっとGが強いな」とか、そこを感じながら乗ってます。”

 ちなみにJOさん、もはやいくら乗ってもまったく怖くはないんだそうだ。怖かった頃が懐かしいくらいだという。成熟したマニアの悲哀である。

乗り物としての、行きて帰りし物語

 浮遊感が好きというと、シートが高い塔に昇っていってずどんと落ちる、いわゆるフリーフォール型のアトラクションの方が体感としてはダイレクトなんじゃないかと思ったのだけど、聞いてみるとそこはやっぱりジェットコースターがいいのだそう。

  “乗り物って、基本的に人を運ぶわけで、出発して違うところに到着しますよね。でもジェットコースターは同じところに戻ってきて終わりです。始まってから終わるまで、ひとつの物語みたいになっているのが好きなんです。クライマックスまでどういう風に楽しませてくれるか、なかには出落ちで終わっちゃうジェットコースターや、尻すぼみで終わっちゃうのもあったりするんですけど、ちゃんと最後にびっくりさせて終わってくれるジェットコースターに出会えると、ああ素晴らしいなって思いますし、その中でどれだけ浮かせてくれるか、どれだけ自分に響くものに出会えるかみたいなとこが大きいですね。”

 起点から終点まで、物語としての要素が秀でた具体例として、「ファルコンズ・フライト」を教えてくれた。高さ、速度、長さにおいて、現在世界一を誇るというサウジアラビアにあるジェットコースターだ。崖の上に登り、ぐるぐる回って落下する。その動きが、本当にファルコン(ハヤブサ)になったように感じさせるのだそうだ。物語を体感で表現できるのがジェットコースターならではだという。

 ジェットコースターって、なんかもっとこう、ごとごとごとごと……わー! ぎゃー! わー! ひー!えー!? ……(呆然)。と、連続する驚きの詰め合わせ、みたいな感覚でいて、それはそれとして遊園地らしい面白い体験なわけだけれど、こうしてお話を聞いていると、私が知っているただスリルに終始するジェットコースターのその先にある豊かさを、精密に作品として味わっているのだなと思わされる。私とは違う乗り物に乗っているようだ。

「結婚させてくれませんか」「そんな言い方あるんだ」

 海外にも足を延ばし各地で乗ってきたJOさんだけれど、世界で一番好きなジェットコースターは日本にあるそうだ。十一基と、日本で一番ジェットコースターの数が多い遊園地として知られる、三重県・ナガシマスパーランドの「ハイブリッドコースター 白鯨」だ。 

  “ハイブリッド、というのは木と鉄を使っているからで、見た目の美しいジェットコースターなんですね。コロナ禍で精神的に疲れている時に、営業自粛で遊園地は閉まっているのに、週に三回ぐらい眺めるために通ってた頃がありました。

 遊園地に入らずに、外から白鯨を眺められるところがあるんですよ。今日ちょっと仕事疲れたなと思ったら、仕事終わりに行って。それを繰り返すうちに、白鯨のことが本当に好きになってしまって。ナガシマスパーランドさんに、よく分かんないですけど連絡してしまったんです。「結婚させてくれませんか」と。”

 インタビューの記録を見ると、私はここで「そんな言い方あるんだ」と発言している。その気持ちはインタビューが終わって数日経つ今も変わっていない。そんな言い方、あるんだ。

 “ナガシマスパーランドさんは心がすごく広いので、結婚はさせてあげられないけど……”

 「そりゃそうだよ」。すかさず記録の私はこう反応している。心の声が心で抑えられていない。けれど、ナガシマスパーランド側の優しさは、私の野暮なツッコミを蹴散らしJOさんを優しく包み込むものだった。

 “告白の機会をいただいて、白鯨の中心部まで入って告白をするみたいなことやりました。遊園地が休園していた頃で、特別の対応をしていただけたんだと思います。”

 以来、コロナ禍を過ぎた後もずっと、JOさんにとっての世界一のジェットコースターは白鯨だそうだ。

 “ナガシマスパーランドに行くと、まず観覧車があるので乗って、ちょうど隣にある白鯨の全体像を眺めます。稼働している車両を見ると今日のコンディションが大体分かるんですよね。あ、今日速いなとか、今日ちょっと遅そうとか。スマホのストップウォッチで測ったりもします。冬場は遅くて、一秒、二秒とか全然変わってきます。一秒、二秒秒違うと、乗ってる時に普段浮くところで浮かなかったりするんです。”

 観覧車のあといよいよ白鯨に乗ることになるのだけど、JOさんほどのファンともなると、一番前と真ん中と一番後ろの座席に乗れるまでは列に並んで何度も乗り続けるとのことで、これぞまさにマニアの活動という感じがする。とにかくジェットコースターが好きな人の話だ。強い積極性を目の前にして、なんだか元気になってくる。

 “ジェットコースターってやっぱり生き物だと思ってて。同じジェットコースターでも、座席はもちろん、朝と夜でもスピードが違ったりするんですよ。体感ではなくて、気温とか乗る人の体重によって実際に一回一回違うんです。そこが面白い。一日に二十回、三十回乗ってると違いが分かってきます。”

エキスポランドの「OROCHI(おろち)」はフランスで「モンスター」になった

 そういえば、絶叫マシンが苦手だと話してくれた遠藤舞さんは、ディズニーランドの小さなコースター「ガジェットのゴーコースター」ですら怖かったと話していた。全制覇したとなれば小ぶりのジェットコースターも細かく乗って回ったわけで、そこにも楽しみってあるんでしょうか。

 “それぞれに面白さはやっぱりあります。「ガジェットのゴーコースター」はオランダのメーカーの製品で、あれと同じモデルが実は日本にもいくつかあったりするんですよね。それを乗り比べるとか、マニアすぎる感覚かもしれないですが、いくらでも楽しさはあるんですよね。”

 「いくらでも楽しさはある」その気持ちは、ジェットコースターの規模だけじゃなく、行動の規模も問わない。海外まで行って乗るともなれば、それはもういよいよひとことでは言い表せない面白さがあるという。

 “大阪に昔エキスポランドっていう遊園地があって。「OROCHI(おろち)」っていうジェットコースターがあってよく乗ってたんです。そのジェットコースターが今はフランスに移設されていて。閉園した遊園地のジェットコースターをどこか別の遊園地が買い取ることって、結構あるんです。今、「モンスター」っていう名前で動いてるんですけど、フランスまで乗りに行って実際目の前にした時は、子どもの頃の思い出が蘇りました。今はフランスの地元の子どもたちを乗せて楽しませてるのを見て、泣きそうになるのを我慢して乗りました。”

 JOさんの活動は、お話を聞けば聞くほど、いかんともしがたくその芯に「思い出」がある。ジェットコースターの楽しさはもろに肉体的な感覚で、だからこそ、体で覚えている記憶に強くノスタルジーがこもるのだろう。

 “移設されたジェットコースターはそのまんま移設先で組み直されることが多いんです。モンスターにも日本語で柱にメモ書きされてる部分が残ってたりして。向こうの人にこれなんて書いてるのって言われて、これは日本語でこう書いてるよみたいな。面白かったですね。

 最近は北欧を含むヨーロッパ十カ国ぐらい回って。北欧は自然がすごいんです。ロケーションがもう抜群で。ノルウェーの森を木製のジェットコースターが走り抜けていくのが最高でした。どうしていいかわからなくなって「村上春樹―!」とか叫びながら乗ってました。”

 ノルウェイといえば森、その連想が絶叫に生かされるなんてことが、あるのだ。

「好き」と「得意」を繋ぐもの

 このインタビューシリーズのテーマは「誰かの苦手は誰かの得意、誰かの得意は誰かの苦手」だ。苦手と得意に世界の補完関係を見る。意味はさておき、そうなっている景色を眺めることが、純粋に面白いと私は思っている。

 ジェットコースターは、厳密にはそれが「得意」だと表現する対象ではない。一般的には「好き」でとどまるものだ。けれどJOさんの「好きさ」にはどこか「得意」が混じっている。ジェットコースターが苦手な方に手渡せる克服のコツを掴んでいるのがまさにそうだ。最初は怖くて乗れなかったものの先天的な興味があったのも、才能の話に似ている。

 “体が不自由な方から「乗りたいけど乗れないから、ジェットコースターの魅力を教えてくれてすごい嬉しい」とYouTubeにコメントをいただいたことがあったり、あと妊婦さんで「数年間は乗れないけど、子供が生まれて大きくなったら一緒に乗りに行きます」とか。嬉しいです。来年は日本に新しいジェットコースターができます。少しずつですが、明るい兆しが見えてきて、嬉しいなと思ってます。”

 こうした気概にも、好きを超えた得意の対象としてのジェットコースターが見えてくる気がする。特技はジェットコースター。まったく、そんな感じだなあと思ったところで続けて聞いた「苦手」は、異様というほどに意外なものだったのだ。

めちゃくちゃ矛盾する苦手でも大丈夫ですか?

 “苦手なことですよね。めちゃくちゃ矛盾する苦手でも大丈夫ですか?  実は高所恐怖症で。

 高いところが苦手なんですよ。ジェットコースターに乗ってると大丈夫なんです。ジェットコースターを見るために観覧車に乗るのも大丈夫。でもスカイツリーの展望台とかは本当に無理で。ガラス張りになっていて下が見える床なんかに乗ると、足がぐにゃぐにゃになってしまうんです。ホテルとかも、高い階の部屋ではカーテンを閉めて外を見ないようにしてます。映画も、高い場所が出てくるのは無理なんですよ。

 ジェットコースターマニアの知り合いはいっぱいいるんですけど、高所恐怖症が結構いるんです。だから、珍しいことじゃないみたいなんですよね。わりとあるあるなんです。”

 そんなことある? としか言えない。しかも、マニアの皆さんの中ではあるあるの話だとは。もしかして、高所が怖いからこそジェットコースターのスリルをいっそう楽しめるとか、そういう理論だろうか。しかし先ほど「ジェットコースターはもうまったく怖くなくなってしまった」というお話を聞いたばかりなのだ。人間のふしぎ、ここに極まる。

 “以前、ジェットコースターの点検に同行させてもらったことがあるんです。レールの横を歩くんですけど足がガクブル勝手に震えて、無理だってなって。そのときは下を見ずになんとか見学を終えたんですが、前々から高所恐怖症かもしれないと思っていたのをこの日に確信しました。”

 ご本人としても、なぜジェットコースターだけは大丈夫なのかよく分からないんだそうだ。

  思い出したのが、待つことが得意な人こと、保育士のよっちゃんだ。はつらつとした方で、そのキャラクターでもって保育園のイベントの司会などは難なくこなすけれど、どうしてもカラオケなど人前で歌うことが苦手、こればっかりはやりたくないと言っていた。

 苦手というのが、尊厳に近いものなのかもしれないとはこのときに感じたことだ。「なんでですか」「どうしてですか」という疑問とは遠いもののようだぞと。自分でも、分かりきれないものなのだから。

 ジェットコースターが得意な人は、高所が苦手だった。

 意外な苦手を携えて、私たちはしりとりを次に続けよう。高いところが得意な人ってどんな人だろう。

 

◎お話を伺った人

ジェットコースター男
ジェットコースター(絶叫マシン)を心から愛し、国内のジェットコースターを全制覇するとともに世界各国にも足を延ばし、世界三十五カ国、一一八〇基のジェットコースターに搭乗する。二〇一九年に名古屋市の大須商店街にジェットコースターグッズ専門店をオープンし、店主も務める。「ナニコレ珍百景」(テレビ朝日)にも珍百景として登録されるなど、ジェットコースターの魅力を発信するインフルエンサーとして幅広く活躍中。 
X:@jetcoasterotoko

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著者略歴

  1. 古賀及子

    1979年東京都生まれ、エッセイスト。2018年よりブログ、noteで日記の公開をはじめる。『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』『おくれ毛で風を切れ』(ともに素粒社)、『好きな食べ物がみつからない』(ポプラ社)、『5秒日記』(ホーム社)、『忘れたこと、忘れないままのこと』(シカク出版)、『暮らしの信じ方』(ダイヤモンド社)など。近刊は『遠くまで旅するような顔だけをする』(産業編集センター)。

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