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教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.148「長年英語の勉強を続けているが、まったく上達しないのはなぜか?」

1日3時間以上の勉強を欠かさず3年間してきました。その前から1日2時間程度の勉強を続け、学校での勉強を含めずに計算すると10年以上は英語の勉強をしています。3時間以上勉強するようになってからは、ポッドキャストによるリスニング30分、洋書を毎日1章の黙読と翻訳60分、翻訳した章の音読を約30分、シャドーイングを30分、文法の勉強を30分、AIとのチャット、スピーキングの練習を30分(Duolingo)という感じです。半年前には完全初心者ということにして、英会話も始めています。しかし、信じられないくらい全然しゃべれず、話しかけられたらYESかNOか、せいぜい3語程度の返事しかできません。3語を超える英語の返事も思考すらも、いまだにできません。おまけに聞きとれていても、3語を超えると全然意味が分からなくなってしまいます。チャット等での読み書きであれば3語以上でもできるのですが...

英語の習得3000時間は3000時間程度あればできると聞きましたが、10000時間をゆうに超す時間をかけたにもかかわらず全く上達している気がしません。3年前から趣味のテレビゲームなども完全にやめてその時間も使っているにもかかわらずでこの状態に、どうしていいのか途方に暮れています。アプリで英語力を診断したら「A2」レベルという診断でした。いったい何をどうしたら英語が上達するのでしょうか?(ペペ、38歳)


 

暗示的知識を獲得するための練習

英語学習にそれほど多くの時間を費やされているのは、本当に頭が下がります。たしかに「日本人が使える英語を身につけるのに約3,000時間の学習が必要」だというような研究の報告があるのは確かです。これまでの学習経験で、学習時間についてはすでに達成していますから、ここでは、今後の英語学習について少し視点を変えてみるのはいかがでしょうか。

これまでの学習で英語力がアップしているのは確かだと思います。ですが、ご自分の期待するような達成感を実感できていないのは、大変なストレスにもなります。モチベーションや感情などの心理的要因は学習効果に大きな影響を与えます。そのため、ネガティブな心理的要因が英語学習にマイナスの影響を与えることは、極力避けたいです。たとえば、事情によっては「昇進のために3か月以内にTOEIC800点が必要」といったケースなど、期限付きで達成しなければならないゴールがあるという学習者もいます。そのような場合には、それぞれの目標に照準を合わせ、まず現在の英語力を分析して、不足しているところから順に克服していくのに、1日3時間以上の学習が必要ということもあるかもしれません。しかし、そうでない場合には、それほどの学習時間を確保するために努力をするというより、英語学習を楽しむこと、そして、なにより、理解できなかったことが理解できるようになる、言えなかった表現が言えるようになるという成長を実感することで、学習の喜びを経験することも非常に重要です。

これまでの学習してきた例として挙げられている、ポッドキャストを使ったリスニング練習、洋書を読むこと、シャドーイング、文法学習など、いずれも学習効果が期待できる練習方法です。ここで学習効果を実感できない原因について考えてみたいと思います。

まず、聞き取れていても3語を超えると意味が理解できなくなってしまうという点と、読んだり書いたりするのはなんとかなるという点から考えてみましょう。ここから推察できるのは、英文を聞いた際、それをテキストに一度変換してから理解しようとしている可能性が考えられます。さらに一度テキスト化した英文を和訳している可能性もあります。英文を聞いているときにご自身がどのようなプロセスで聞き取っているのか、改めて振り返ってみると、今後の学習に役立つと考えられます。

 

「聞き取れていても…意味が理解できない」のはどんな状況か

さて、「聞き取れていても…意味が理解できない」という表現から、英文を音声で聞いた際に、個々の単語に変換することはできるようですので、これはおそらくシャドーイングで学んだ効果が表れているのだと考えられます。英語には日本人には聞き馴染みのない子音や母音、強弱、リズム、イントネーションなどの発音要素が多く存在します。聞いた際に、これらの音声情報から個々の単語に置き換えるのはかなり難しいので、これまでの学習、特にシャドーイングの学習によって培ってきた発音要素の知識が生かされていることは間違いありません。これまでの学習の成果が出てきている証拠なので、自信を持ってください。

ただ、聞こえた音を個々の単語に置き換えることができても、その内容が理解できないのは、内容理解を素早く行なうことに特化した練習が不足していると考えられます。これまでの学習の中に翻訳するという学習が含まれていましたが、この翻訳というプロセスは、英文を理解する上では必要ありません。むしろ、英文の内容をすばやく理解する上では、かえって足枷になる可能性も否定できません。聞くとは反対の「話す」という行動を分析しても、その中に訳すというプロセスは本来存在しないので、処理スピードがついていけず、語数が多くなると内容の理解ができなくなっていると考えられます。

 

明示的な知識を暗示的知識に変えるには...

それでは、英文の音声を聞いたとき、その音声のスピードで内容が理解できるようになるために必要な学習についてご紹介させてください。

ここで重要なポイントが、学習方法というより使用する文章のレベルと量のバランスです。辞書や文法書を用いて、知らない単語や複雑な文構造を調べたりするのは、書かれているあるいは話されている内容というより、英語の言語的要素を明示的に学習することになります。おそらく、これまでの学習はこの明示的学習に近いものだと推察しますが、これにはあまり長い文章は向いていません。単語の意味や文構造など、英語そのものを明示的に学習して得られる明示的知識は短期記憶となり、すぐに忘れてしまいます。折角学んでも、次に同じ表現に出くわした際に思い出せないのは必然です。これを思い出せるようにするには、少なくとも1~2日間ほど間隔を空けて反復学習をする、間隔反復学習が有効です。最初は思い出すのに時間を要した明示的知識が、少しずつ思い出すのに要する時間が短縮され、やがてかなり早いスピードで記憶が引き出されるようになります。短い文章を用いるとこの間隔反復練習を行ないやすくなります。そして、この間隔反復練習により、英語に関する明示的知識は、やがて、単語や文法を意識しなくても内容が理解できる暗示的知識へと変換していきます。

一方、直接暗示的知識を獲得する学習方法もあります。それが多読と多聴です。1ページ内に知らない語句が1~2個ある程度の、調べたりしなくても内容が理解できるレベルの文章を使用して、あくまでも内容理解にフォーカスした学習です。この学習では、内容理解を目的として読んだり聞いたりしているので、個々の語彙や文法には注意を向ける必要がなく、無意識のうちにコミュニケーション(この場合は内容理解)上、それらの語彙や文法を使用していることになります。この暗示的学習を大量に行なうことによって、語彙や文法に関する暗示的知識の獲得が期待できます。自力で内容が理解できない難しいレベルの文章であれば、内容理解が止まった時点でどうしても英語に関する明示的知識を必要としてしまうので、暗示的知識を獲得する効果が薄れてしまいます。調べなくても自力で内容を理解できる文章を使用することがとても重要です。

しかし、自身のレベルにあった教材はどのように見つければいいのでしょうか。学習者向けに簡単な表現に書き変えられたGraded Readersなどを使用するのもいいでしょう。Graded Readersには音声付きのものもありますから、リスニングの練習にはそれを利用するのもいいと思います。あるいは、英文で書かれた記事などで何か興味のあるものがあれば、生成AIを利用して、たとえば、CEFRのA2レベルに書き変えてそれを読んだり、読み上げ機能を用いて聞いたりするのも効果が期待できると思います。一度試してみて自力で理解できなければ、さらにレベルを下げるように生成AIに指示を出せばいいですし、あまりにも簡単すぎると感じる場合には、たとえば、B1レベルの単語を3語だけ含めるという指示を出すなど、レベルの調整ができるのも生成AIを利用する利点だといえます。

そして何より、この多読と多聴で重要なのは和訳をしないことです。和訳することが習慣化してしまっている可能性もありますから、すこし時間がかかるかもしれませんが、日本語を介さないで理解する練習を繰り返しましょう。たとえば、Nice to meet you!やWhere are you from?などは一つ一つ和訳しなくても理解できると思いますが、これは、おそらく定型文として覚えてしまっていて、これまでのコミュニケーション上何度も出くわした表現であるために、スムーズに理解できるといえます。多読と多聴で目指すのはこの効果です。せっかく簡単に理解できる英文を使用して学習しているので、日本語を介さないで内容を理解する練習を必ずしてください。

そして、書いたり話したりするアウトプットの学習についてです。書く場合だとある程度できるのに英会話になると、3語以上の英語がうまく口から出てこないということなので、ここではスピーキングの練習に焦点を絞らせてください。スピーキングでは難しい表現を使用する必要は全くなく、比較的簡単な表現ばかりを使用して構わないので、自身の言いたいこと、伝えたいことをまずは口に出してみましょう。まずは、身のまわりで日常的に起こり得ることや経験するような内容に絞って練習してみるといいでしょう。会話で使えることを目指すのであれば、質問ができることも重要なので、質問を考えながら、それに対して答えるというような練習でもいいと思います。スマートフォンの録音機能を使って、たとえば、

What do you usually do when you have some time to spare?

(自由な時間があったらいつも何をしますか?)

 

と質問し、それに対して、

I usually spend my free time studying English.

(いつも自由時間には英語を勉強します)

 

と答えたり、余裕があれば、さらに詳しく、

I regularly read books written in English and translate them into Japanese.

(英語で書かれた本を定期的に読んだり、和訳したりします。

 

のように、詳細についても説明する練習をするのがいいと思います。

アウトプットの練習で重要なポイントは、自力で表現できることとできないことを把握することです。自力で表現できないことは、辞書や文法書を使用して、表現できるようになるように明示的な学習が必要になります。そこで生成AIなどを利用して、新しい表現を学習するのも明示的に学ぶいい方法です。新しい表現を学んだら、最初は意識して思い出しながら学んだ表現を使うことになるので、書くときのスピードでしか話せないと思います。しかし、インプットと同様、間隔反復練習がとても重要で、少なくとも1~2日間の間隔を空けて何度も同じ表現を使うことを繰り返すと、最初は英文を作るのに時間がかかっていたのが、意識しなくても自然にスラスラ話せるようなってきます。

そして、辞書などの力を借りずに、自力で表現できた場合には、その流暢性を磨くためには、1回の練習内で反復することで効果が出るといわれています。書く練習でも話す練習でも共通していえることですが、自力で表現できた内容に関しては、あまり間隔を空けずに、最低でも3回は繰り返し練習するといいでしょう。しかし、繰り返す際には、制限時間を設けるなど、より早く言うための工夫をすることが流暢性を上げるには重要なポイントとなります。

 

このように、身につけたい目標次第で、使用する英文のレベルとそれに合わせた明示的学習と暗示的学習をバランスよく取り入れるのはいかがでしょうか。最初はゆっくりでしか表現できないことも少しずつ処理スピードが上がり、いずれスラスラ言える表現が増えいきます。ぜひ試してみてください。

 

★明示的知識と暗示的知識のちがい★

明示的知識とは、主に授業や参考書などを通して習得する、文を一から理解・構築する際に必要な語法や語彙や発音などに関する知識です。たとえば、友達に「今何時?」と英語で言う時に「何はwhatで時間はtimeで、時間を表す時の主語はitで、動詞はbe動詞をisにして...疑問文だから順序を逆にすると...what time is it now?」などと頭の中で組み立てを考える場合、明示的知識を活用して話すということになります。

一方、暗示的知識とは、直感的に理解できる、構築できる知識のことを指します。たとえば、「今何時だろう?」と思ったら文構造や語彙について考えることなく、“What time is it now?”と自然と口から出てくるのが、暗示的知識を使って話すということになります。

明示的知識を暗示的知識に変えて使えりように反復練習を続けましょう!

(編集部)

 


★編集部より★

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著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

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