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あさひてらすの詩のてらす

水母の檻からの手紙と9篇の詩(ナカタサトミ)

今回は、ナカタサトミさんの作品を10篇掲載いたします。すでに掲載している「『詩人の墓』と13篇の詩」と「『身代わりっ子』と15篇の詩」、「集合住宅の老ニンフェットと13篇の詩」もぜひご一読ください。


 

総評として

選んだ作はどれも語彙と行文に具体性がみられるものとなりました。しかしその逆で、具体性にとぼしいもの、とぼしくとも作のめざす方向が直線的で太線的であるものには関心をひかれました。詩の方向が作品ではなく、作を脱し作を超えてゆくゆえに作にゆるやかに回帰するゆたかな回帰性を開くものといった趣きのものにも関心を引かれました。一方、比喩暗喩がふくらみや屈曲ではなく短絡火花をちらすがごとくひびく作は、当方の鑑賞力がオールドなのでしょう、ついつい敬して遠ざける結果となっています。「敬して」という一語はいいのがれではなく、現実です。さて、なかには決めセリフが早く来すぎてリズムが単調になりがちな作があったように感じます。言い換えれば語彙のレベルでも、心情表出のレベルでも反復がみられるということですが、それは作のリズムや語調に、そして思考にうねりや展開が入り込みにくくするとおもいました。結果、以下10作をコメントさせていただきます。

(千石英世 記)

 

水母の檻からの手紙

 

大切なともだちよ 私にはあなたが

年代不明の写真のなかの一人に見えている

あなたが私の言葉で笑っても

かなしみの涙を流すはめになっても

すべてが遠く薄く

それでもあなたが大切なので

私のこころは痛みのない深手を負う

歴史の授業中私がふらふらと

教室を出ていったらしいのを

先生から聞いて

とうとう壊れてしまったと思った

リベラルな家庭に生まれたから

おじいちゃんは私が××人について

おとしめるようなことを言うと

×××を××させるのをすぐにやめて

グーとパーで躾けなおしてくれる

それって××な××よりはましじゃない?

××××なんて人間はしてはいけないの

一時保護所で小林××××の『××論』

読んでたのも

数年後 十八歳のはじめての投票で

××党に入れるのも

ずっと後悔しているけれど

私は私を抱きしめてくれる人より

こころごと殺してくれる人がほしい

それでもやさしくなりたいから

それってとても卑劣だから

私も燃える写真になればいいのにね

 

 

ポプラバス

 

生きておられないような気持ちになったら

しばらくの間だけ消えていることができる

そういうバスがある

町いちばんのポプラの木と

青少年サナトリウムと

水族館と火葬場をぐるぐるまわるバス

乗客はなん人かいるけれど

誰も私を抱きしめたり

キャラメルの甘さをもつ言葉で

べとべとにしたりしないんだよ

私の姿かたちをした人たちが

交代で運転しているんだ

私はいつも一番前の席に座って

運転手の後ろ頭を見ている

もちろん運転手と目はあわない

それでもきょうの彼女は怒っている

窓の外はひどい霧で

スピードがどんどん上がっていき

死ぬのだろうと思う

見知らぬ人間を

おおぜいおおぜい轢き殺している

血にまみれた私たちのバス

きみも一緒に乗ってみませんか?

 

 

いまだ人間ならざる私からの手紙 

 

Y君 その節はお土産をどうも

いちご味を好きなことを

きみが覚えていてうれしかった

私のぬいぐるみを

不器用にかわいがってくれて

それだけでたまらなくなったよ

まだ若い身体のにおいは

会えない父親のとなぜかよく似ていたし

ここにいないのが信じられない

Y君 きみの黒い巻き毛の

少しかたい手触りを

懐かしく思い出す

その下の濃い両眉が

さらにその下のきついまなざしが

まだこちらを向いてくれているのに

私はいけないことばかりやっぱり

蟻地獄に足もとをすくわれたように

繰りかえしてしまうよ

人のいのちがなくなって

悲しい気持ちになったのは

きみの親不孝がはじめてだったんだ

Y君 生まれつき死んでいた私に

呼吸をくれてありがとう

きみのぶんまで生きるなどと

簡単に約束はできないが

宇宙の待ち合わせ室で会うのは

とうぶん先になると思うよ

 

 

パンドラ

 

××の古い借家の和室の天井に

ロースクールに通っていた母が貼った

伊藤真弁護士のポスターが

きのうの夢にまた出てきた

夏 エアコンはその部屋にしかないので

みんなで布団を並べて寝ていた

右側に母 左に祖父

六歳か七歳の私ひとり眠れなくて

逆さまになって祖父の足を舐めていたら

祖父が目を醒まして

それからなにかひどいことが起きた

すべてが終わったあとに

私は天井の伊藤氏を見ていて

憲法の前文を小声でつぶやいていた

自分が人間でないような気がしたから

 

 

死ぬまでピュアピュアやってんのん?

 

朝四時のなんかいいブルーは

暗いとcryが似ていることを思いださせる

そしていま二人暮らしのちいさな部屋で

恐竜が好きなまま青年になった

かつての男の子が

恋人の私を抱きしめていて

その指をひどく噛むよ

青空とは呼ばれない青に問う

愛されずに愛されることができる?

ぬくもりはここにいるという

まぎれもないほんとうを突きつけるから

逃げていってしまいたいよ

まずさ 世界なんてあるのかな

うそつきオオカミの絵本みたいに

食べるために待ちかまえている以外に

救いのある場所が…

女は海だなんだと昔の歌でうたっていた

だけど私はきっとたよりない船で

考えていることや言葉が

自分自身のものなのか人一倍自信がないし

読んでいるきみがこれを弱さと名付けるか

日本の政治と同じくらい興味がある

 

 

塑造する者

 

そのお菓子好きだよねとママが言ったから

今日も買ってきて食べている

かたちづくられているというあきらめよ

逆立ちしても私は私に生まれなかったのだと

生まれさせられたのだと

雨のように身にしみて痛むよ

へその緒をたってもあなたと私は

無線でつながっているのだと

やっぱり女の声がして

宇宙のクレバスにただ一人テンラクした…

 

 

アップリケ

 

幽体離脱ができると言って

クラスのみんなに笑われた

やせっぽちでのっぽの七歳だった

風はいまより青色で

空はもっとはるか遠かったのに

知るべきではないことばかり知っていた

捨てられなかったピンク色のズボンに

母があててくれたアップリケのように

歴史のもとに生きていた

そこにわたしの身体があった

 

 

マジックミラー

 

恐竜は人間に出会わなくて幸せだったよね?

ニュークスをもつわたしたちは

他の誰たちよりも愚かで

一方互いをやりとりすることにかけては

さながらステレオタイプ化された南の島の女

情熱的でエロく

政治と芸術にはファリックな影が常に落ちて

きみの野枝じゃない 文子じゃないよと

抗っても虚しい

たとえば育ったまちの一つの美しさ

それは日焼けした青年の姿をとっていた

同性を恋する心で彼に奪われたものだ

愛しあうときだけ存在はたしかに男であり

悪魔主義の誘惑者ではなかった

しかしいまかの子にも彌生にもならないまま

女の語り手としてある裸の背中に

いかがわしいカタツムリを這わせている

読まれ犯されながらも

生命の真意は詩の国でしかありえないからだ

巨大な殻が生き物を守ってくれる暮らしを

祈りなお憎む

わたしはきみの粘液によごれた鏡の肌

そのように書きたい

 

 

去勢

 

怖いとき

宇宙について考えていればよかったのに

その暗闇もやがては牙をむいてきた

わたしと知とのいさかいだった

祖父が六歳のわたしを膝に抱いて

英語といっしょに教えた秘密のこと

隣のクラスの教師が

十歳のわたしの手をとって

きみが好きだと言ったこと

塾の先生が眠るわたしにキスをした

十五歳の秋のこと

わたしは隠れるのが下手なのだ

わたしの身体には

望むと望まざるとにかかわらず二十数の

唇や手のあとがあり

わたしはわたしの身体から逃げていきたい

精神科医はわたしを語ることばを持つけれど

わたしは精神の果てない純潔について

世界を納得させることばを与えられなかった

しかしどうなってもかまわないと思うことと

あの日山の閉鎖病棟の窓から

幼く老いた聖娼の姿を見たこととは

なにひとつ矛盾はしないだろう

わたしはお前にぜんぶやるかわり

お前を噛みちぎってやる

 

 

君にも負けず

 

雨 青色はきらきら溜まり

溢れてしみていく会話のドッヂボール

揺れ動きつづけることこそが誠実で

左翼的なペニスにも反動の子宮にも

少し馴染めず

ちんちくりんのマネキンだ

性的二形でない動物が好きで

よれたTシャツと絵の具のシミがついた

ジーンズがよく似合う

それでいて芝居がかった化粧をし

父を恋しながら

望んで生殖した男たちをやや蔑み

命のかたちをしている命だ

セックスよりも愛のほうが危険と

確信してテロリストになりそうなくらい

ヤバい

私がなりたいのはそういうヒトだ

 

 

 

〈各作品について〉 

水母の檻からの手紙 

××になっているところは謎々のようで考えさせられる。

ポプラバス

具体性があって面白い。ただし最後の4行、どうでしょう。決めすぎか。

いまだ人間ならざる私からの手紙

手紙に具体性があってわかる、よくわかる。

パンドラ

具体性があって面白い。ただし××のところ埋めてほしい。

死ぬまでピュアピュアやってんのん? 

あえてありがちな語彙を並べているのだろうが、タイトルの良さで救われる。

塑造する者 

比喩の良さがひかる。 

アップリケ 

最後のきめせりふはどうだろう。

マジックミラー 

詩の面白さよりメッセージの切実さ。

去勢 

詩の面白さよりこれもメッセージの怖さ。

君にも負けず 

あえていえば、肩のちからがぬけていて可愛い作になっている。ユーモアがある。

 

 

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