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ドイツに行かなきゃ知らない!? ドイツ語 -Part 1 知ってる? こんなドイツ語―

Stolpersteine つまずき石

ドイツ語学習者でも、日常生活では知らない? そんなドイツ語をピックアップして、Part毎に10回ずつご紹介します。今ドイツ語を学習している、あるいは、むかし学習したみなさん、そして、もちろんドイツ語を知らない方にも! 日本ではあまり知られていないドイツ語単語・表現とともに、その奥に潜むドイツの文化に触れてみませんか? 興味を持った方には、より詳しい内容が読めるようにドイツ語原文と対訳もご用意しました。この機会に、新しいドイツに触れてみましょう!


 

Stolpersteineってなに?

stolpernは「つまずく」(動詞)、Steinは「石」(名詞)で、合わせて「つまずき石」という意味です。96x96x100㎜のコンクリート製ブロックで、上面の真鍮プレートにナチスによる迫害で犠牲になった人の名前と記録が刻まれ、それぞれの最後に住んでいた住居前の道に埋め込まれています。ドイツの芸術家、グンター・デムニヒが1993年から始めた文化プロジェクトで、ドイツ国内だけで既に7万5千個が設置されました。

 

石は物語る

ヒトラー率いる国家社会主義ドイツ労働党(略:ナチ党)は、彼らの価値観で人種を汚すと見なした人々を大規模に迫害しました。中でもユダヤ人は欧州全土で6百万人が犠牲となり、ドイツ人でも反体制派や障害者などが命を落としました。「つまずき石」は犠牲者がどのような運命を辿ったかも物語っています。ユダヤ人は専用の強制収容所へ、反体制派はダッハウ、障害者はベルンブルクなどへ連れていかれました。

 ここで、実際の「つまづき石」を見てみましょう。(デュッセルドルフにて撮影)

 

ポケモンGO“にも登場?

第二次世界大戦が終結した際、ドイツはこの戦争を自分たちが起こしてしまったものと認め、謝罪し、時代を超えてその責任を負うという方針を採択しました。過去のあやまちを二度とおかさぬよう、ナチスがした事を学校ではっきりと教え、戦争を知らない世代も罪の意識を感じています。非常にデリケートなテーマなので、「つまずき石」をポケモンGO“の位置情報に利用するのは不謹慎だと問題になっています。

 

「つまずき石」の多難

「犠牲者の名前を石にして踏みつけること自体不謹慎だ」と批判する人もいて、真鍮プレートを住居の壁に掛ける形に変えた町もあります。「玄関先にあるとイメージが悪く人に貸せない」と撤去を求めた家主もいます。極右主義者たちは当然猛反対で、3万個以上の「つまずき石」を破壊して犯行声明を出しています。民主主義のドイツは言論の自由を認めているので、そのような行為もむやみに禁止できません。

 

「つまずき石」は「忘れな石」

ドイツ以外にも欧州26か国で設置され、今や「つまずき石」は「世界で最も広範囲にわたる慰霊碑」となりました。それほど広範囲にあの戦争が広がり、それほど広範囲に運命を左右された人々が生きていたという証です。「つまずき石」を見つけて立ち止まり、しばし思いをはせてみませんか。「ここに生きた人間を忘れないで!」という声が聞こえてきて、平和の尊さ、そして祈りを改めて感じざるをえないことでしょう。

 

チャレンジ!! ー より詳しい内容を、ドイツ語で読んでみよう!ー

→ ドイツ語文と対訳を見る

 

 

第3回は、Duale Ausbildung  二方向性訓練の危機  を取り上げます。お楽しみに!

 

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著者略歴

  1. 石井 寿子(いしい・としこ)

    学習院大学修士課程卒。ミュンスター大学留学時代(1986-89)に島田氏と知り合う。1993年から約30年間Randolf JesslおよびAndrea Raabと共著で年度版のドイツ語中級読本『時事ドイツ語 Neuigkeiten aus Deutschland』(朝日出版社)を執筆した。訳書に『サッカースポーツの役に立つトレーニング理論 ―サッカースポーツの一般・特殊コンディション』(朝日出版社)、『ジェレミーと灰色のドラゴン』(小学館)などがある。複数の大学でドイツ語非常勤講師をつとめ現在に至る。

  2. 島田 信吾(しまだ・しんご)

    1957年大阪生まれ。1972年渡独。ミュンスター大学修士課程卒。エアランゲン・ニュールンベルク大学にて博士号及びハビリタチオン(社会学教授資格)獲得。ハレ・ヴィッテンベルク大学比較文化社会学教授を経て2005年よりデュッセルドルフ大学現代日本学科社会科学系教授。著書に『Grenzgänge – Fremdgänge. Japan und Europa im Kulturvergleich(Campus),『Die Erfindung Japans. Kulturelle Wechselwirkung und nationale Identitätskonstruktion』(Campus)など多数。

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