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にしまりちゃん 龍神道を行く

龍神様は時々悪役になる?

弁天様に恋をした龍神様とは

私は昨年夏に初めて、江島神社を訪れた。

周りの友人たちに龍神様を祀る神社だと聞いていたけれど、なぜか行くチャンスに恵まれず、一度も行ったことがなかった。

神社仏閣というのは不思議で、タイミングというものがあるようだ。

一説では、「完全に呼ばれた時でないと行けない」神社もたくさんあるらしい。

 

江島神社は、夏だったせいもあって、若い人を中心にとにかく活気があった。

エンターテインメント的なエスカレーター「江の島エスカー」に乗って本殿まで辿り着くと、不思議な看板を目にした。

龍神様が恋をした弁天様、とある。

江島神社でご宝物として保管される、平安時代に創られた絵巻物『江島縁起』には、たしかにこう記されている。

 


その昔、鎌倉の湖に五頭龍が棲んでいた。

その龍は、山を崩す、洪水を起こす、疫病をはやらすなど数々の悪行を重ね、生贄として子供まで食べた。

欽明13年4月12日(552年)、暗雲が天を覆い、大地震が起きると、雲上に十五童子を従えた天女が現れた。

23日の朝に揺れが収まると、夜叉ら雲上の諸神が巌を降らせ、海底より小石を巻き上げ、雷を落とし、再び天変地異の様相となる。

しかし、天女の天下りと共に、海上には島(現在の江の島)が築かれていた。

美しい天女を見た五頭龍はひとめ惚れし、結婚を申し込むも、拒絶される。

諦めきれない五頭龍は、天女の教えに従い殺生を絶つことを約束し、結婚にこぎつける。

その後、五頭龍は、日照りに雨を降らせ、台風をはね返し、津波を押し戻し、約束通り村を守った。

力尽きていく一方の五頭龍は、最期を悟ると山に姿を変え、なお村を守り続けている。


 

なるほど、龍神様が最初は悪事を働いていたとは…。

一瞬私は絶句した。

しかも、弁天様に恋をしていたとは。

龍神様の描き方は色々だけれど、こういう謂れもあったのか。

 

正直なところ、私が認識している龍神様は、俗世的な色恋とはかけ離れたところにいる。

『江島縁起』は実に人間的なストーリーで、龍神様を身近に感じられてほっこりした。

となると、龍神様に性別があるということになり、これにはさまざまな見解があるが、私は動物的な性別はないと思っている。

まさに今で言うLGBTQとも言えるだろうか。(いや、違うか。)

 

そういえば私ごとであるが、先日母が天国へ行った。

その後私に降りてきた絵の龍神様は、間違いなく女性の、母性を持った、まるで母そのものの顔をしていた。

 

夢に出てきた、瀬津織姫

 

ところで私は、夢で瀬津織姫に3回会っている。

私が龍の絵を本格的に描き出してからのことだ。

夢の中で必ず龍神様の背中に乗って出てくるものだから、最初は、「騎龍観音だろうか」といろんなことを考えていた。

2度目の夢の時、男性の野太い声で「瀬津織姫」と聞こえたので、名前を記憶して思わず調べたことがある。

それ以来、私が描く騎龍観音は、瀬津織姫なのだ。

 

瀬津織姫はとても謎めいた存在でもある。

『古事記』や『日本書紀』には記されず、神道の神様に奏上する大祓詞の中にだけ正式に登場する女神なのだ。

瀬織津姫は、天上の神々によって祓い清められた罪や穢れが山から落ちて来たところを、大海原に流してくれる神様だという。

 

川に座す水の神様だからこそ、龍神様の化身ではないか。そうでなくとも、龍神様と共に生きてこられた方なのではないか、というのが私の勝手な見解。

弁天様を瀬津織姫と結びつける説を聞くことがあるが、それもまた誰にも答えを出せない永遠の謎である。

だからこそロマンがあるので、私も絵のテーマにすることがある。

そして描いたその姿に、私が時々自分を重ねてうっとりしているのも事実である。

 

竹生島の天女伝説

 

滋賀県竹生島もまた、龍神様と天女の結びつきの伝説がある場所である。

竹生島は琵琶湖にあり、西国三十三所観音霊場の第三十番札所「宝厳寺」のある島。

私の友人がこの近くで生まれたことから、竹生島で龍神雲をよく見るのだと教えてくれたことがあり、気になっていた。

龍神様というより弁天様を祀っているのだが、こんな謡曲が残されている。

 


延喜帝(醍醐天皇)の臣下が竹生島の弁才天の社に詣でようと、琵琶湖にやって来た。

社人に宝物を見せてもらっていた時のこと。

にわかに御殿が鳴動し、弁才天が美しい天女の姿で現れた。

天女が月明かりの下で舞っていると、湖中からぶわっと龍神が現れ、祝福の意として臣下に金銀珠玉を捧げた。

そして、「ある時は天女となって人々の願いを叶え、ある時は下界の龍神となって国土を鎮めよう」と約束した。 


 

江ノ島とはまた似て非なる、美しい伝説のあるこの地を、一度は訪れてみたい。

 

これらの伝説を私なりに解釈すると、弁天様、瀬川織姫、天女、すべては水の神様で、龍神様と同化している神様ではないかと考えられる。

 

そういえば、私が好きな台湾の海の神様である「媽祖廟」で知られる媽祖様は、常に龍と共に描かれている。

アジアにおいて龍神は、水と切っても切れない関係なのではと思わずにいられない。

 

余談になるが今年は癸の卯年で、水がキーワードの年。

さらに来年は辰年で、龍神様の気の流れはますます広がる予感がする。

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著者略歴

  1. 西村 麻里

    コピーライター/クリエイティブディレクター/アーティスト
    熊本生まれ。
    国内広告代理店、外資広告代理店のコピーライター・CMプランナー・クリエイティブディレクターを経て、MARI NISHIMURA INC. を設立。
    龍を描くアーティストとして、ニューヨーク、東京をベースにアーティスト活動を展開し、ロサンゼルス、ベルリン、ロンドン、カンヌ、パリなどでも個展を開催。
    2020年公開の映画「響 HIBIKI」に画家として出演。
    著書に『THE AURA』『龍スイッチはじめよう』(ともにWAVE出版)がある。

    ●国内賞
    TCC賞新人賞、TCC審査委員長賞/ADC賞シルバー(RA-CM)/ブロンズ(TV−CM)/電通賞最優秀賞(TV-CM)/FCC賞OCC賞CCN賞/朝日広告賞 ほか多数
    ●海外賞
    CLIO賞シルバー/one show ブロンズ/SPIKS ASIA ブロンズ/epica award paris シルバー/one show メリット賞/D&AD インブック受賞

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