昔ばなしと龍神様
♪ ぼうや よい子だ ねんねしな ♪ 龍の背中で
「日本昔ばなし」をテレビで見ていた世代には、印象に残っているのがあの主題歌 ♪ ぼうや~よい子だ ねんねしな ♪ ではないだろうか。
龍の背中に乗っている少年がスイスイと空を飛ぶあの絵は、私の中では憧れでしかなかった。
ちなみに龍の背中に乗っている夢を、私は小さい頃から幾度となく見てきた。
そして、これはゲンかつぎにも近いのだが、その夢を見たあと必ず、いいことが起こる。
そういえば、先週まで開催していたアートショウでお嫁にいった絵がまさに、私が見る夢の中の世界だ。
「龍の背中に乗る」という憧れは、きっと永遠に見果てぬ夢なのかもしれない。
松谷みよ子さんの本で『龍の子太郎』という童話をご存知だろうか。
「日本昔ばなし」のオープニングはこの童話を想起させるのだが、そういえば、私の尊敬してやまない画家の叔母・牧野鈴子が絵本『龍の子太郎』の原画を描いているので、私の近くにはずっとこの本があった。
それゆえに、龍神様に対する気持ちが育まれたとも言えるかもしれない。
日本神話に欠かせないのが龍神様
そもそも、中国から龍のモチーフがやってきたのは弥生時代と言われ、和泉市の池上曽根遺跡から龍が描かれた壺が発見されている。
そして日本神話には、国津神に属している大物主神、建御名方神などが龍神として描かれている。
竜宮に住む竜王・綿津見神が、神武天皇の母・玉依姫の父親にあたるというのも興味深い。
前回のコラムでも触れたが、日本を作ってきた武将たちが龍を崇拝し、龍をシンボルにして神社仏閣を作ったことも、歴史にもとづく流れなのだなと思わずにはいられない。
私は小さい頃から龍の存在を感じて、常に守られている感覚があるからこそ、龍を崇拝しているのだが、古代の人々も「龍の存在を認識してきた」から、ずっと龍神話が語り継がれるのではないだろうか。
また、私が「なるほど」と納得するのは、日本列島の形状そのものが「龍」なのだという説。
そのテーマで描かれたマンガや小説は多いのだが、小松左京さんの『日本沈没』では、沈みゆく日本を「竜の死」というエピローグで語っている。
日本そのものが龍なのだ、と思うとさらにその神話性が高まる。
ヨーロッパで、龍の絵は嫌われる?
ところで、龍を描く画家として世界で活動しているととても面白いことがある。
私が最初にイタリアのギャラリーとアートフェアの話をした時に、「龍の絵はNG」と言われたのだ。
え?と最初はびっくりしたものの、ヨーロッパの龍は、いわゆる「龍に羽根が生えたドラゴン」なのだからいたしかたない。
ドラゴンは、ギリシャ神話の中でも旧約聖書の中でも、とにかく悪者。
悪魔やサタンとも言われるのだから、それはそれは縁起が悪い。
そもそもドラゴンの根源は、龍というより恐竜なので、全く違うものだ。
それでも、英語ではドラゴンと訳されるわけで、あまりいい印象がないのは当然だ。
不思議なことにニューヨークのアートショウで、龍は大人気だ。
LAも大人気だった。
つまり、アメリカはOK。
ヨーロッパはあまり好まれない、ということになる。
ヨーロッパでもロンドンの若いアーティストたちには Cool と言われるが、イタリアやパリでは好まれない。
だからこそ世界でアートショウを開催する時には、前置きが必要になる。
一番に覚えて流暢に語れるように練習した英語が、まさにこの部分。
「なぜ私が龍を描くか。
そのことを語る前に、アジアにおける龍と、ヨーロッパにおけるドラゴンの違いをお伝えしなければなりません」
そう伝えたうえで、私が敬愛するアジアの龍の話を切々と語る。
世界各地でその捉え方が違う、龍。
画家の視点から見ても、とても面白い。
3月にドバイでは初のアートショウがあるのだが、ドバイにおける龍のイメージはどうなのか、反応が楽しみでもある。