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にしまりちゃん 龍神道を行く

時代と共に変わりゆくヨーロッパのドラゴン観

龍はヨーロッパでは悪者?

私はアートショウや個展、カンヌ映画祭へアートを出展するため、5月の1ヶ月はパリのアパートに滞在、パリを軸にヨーロッパを駆け巡っていた。

私の絵は龍をモチーフにしたものが多く、老舗のヨーロッパのギャラリーではかつて、「龍モチーフはやめてほしい」とはっきり言われたこともある。

それは、宗教観に根づいた「ドラゴンの立ち位置」がとても大きな理由だと思う。

ドラゴンから王女を救ったキリスト教の聖人、聖ゲオルギウスの伝説が存在し、今もルーベンスやラファエロなどの絵画を通して見ることができるのだ。

 

ちなみに見た目も龍とドラゴンでは少し違う。

時にドラゴンは龍に翼が生えた姿で、顔は険しくいかにも悪者。

中世ヨーロッパでは病気や災害など、悪いことが起こったらとにかく、悪魔やドラゴンや魔女のせいにしたという。

そうして不幸な出来事と、なんとか折り合いをつけていたのだ。

 

パリで龍に遭遇する

 

しかし時代と共にいろんなことが解明されていくと古い価値観は薄れてくるもので、世界の文化が入ってきたことでまた、龍の立ち位置も変わっていく。

パリ郊外のセーヴル陶磁器美術館 "Musée national de Céramique" に行った時、文化の流入による変化を特に感じた。

そこではアジア文化がひしめき合っていて、中国、韓国、そして日本、それぞれの陶磁器に龍が存在していた。

それは「ラッキーシンボル」でもありミステリアスな架空の生き物としての描かれ方ではあったが、「ジャポニスム」のようにアジア文化がもてはやされたことで、龍というシンボルの見え方も変わっていったのだろう、と思う。

パリでは葛飾北斎が大人気だが、あのモネやゴッホさえも魅了し、彼らがこぞって真似した北斎の絵にも龍はしっかり描かれている。

 

もうひとつ、パリでもカンヌでもとにかくフランスでは日本のアニメが大人気だった。

ドラゴンボールの影響で、龍が大好きだという若い人がたくさんいるのも、ひとつの時代の変化だと言えるかもしれない。

 

ウェールズの旗の龍

 

ヨーロッパといえば、以前、ロンドンに1ヶ月滞在していた時のこと。

目に飛び込んできたのはウェールズのドラゴンの旗。

おおっ、ヨーロッパで悪者にされてきたドラゴンが国旗に?と、思わず私は現地に行き、色々調べてしまった。

先史時代のケルト系ブリトン人にはじまる長く複雑な歴史を持つウェールズ。

旗のシンボルになった起源は、5世紀にまで遡る。

 

強さの象徴、それが龍

 

ェールズの伝説に、「赤いドラゴンと白いドラゴンの戦いの予言」がある。

アーサー王を含む4代の王に仕えた魔術師マーリンは、地中で争うドラゴンを発見する。

彼は、最初は白いドラゴン(サクソン人)が優勢だが、最終的には赤いドラゴン(ケルト人=ウェールズ)が勝つと予言した。

結果、赤いドラゴンが勝利して富と強さと権力の象徴になったという。

 

1959年、赤いドラゴンが国旗として認定された時に「ウェールズの庁舎には緑と白の上に赤いドラゴンが描かれた旗のみが掲げられるべきである」と、亡きエリザベス女王が宣言したそうだ。

様々な歴史を超えてはためく赤いドラゴンに特別な思いを持ってしまうのは、私も赤い龍が大好きだから、かもしれない。

 

ちなみに「赤い龍は富と権力の象徴」というのは中国でも同じで、中国で龍の絵を描くなら、「赤い龍に金色の鱗」が一番人気。

さらにアジア的なこだわりでいうと、「五爪」の龍が最高位の龍なので、私は龍の置物を見つけると、爪(指)が何本あるかを一番先に数える癖がある。

 

キテる、龍城神社

 

パリから戻った今、毎年恒例のイベントが来月に迫ってきているので、前回も一度おはなしした

愛知県岡崎市にある龍城神社のことを少し。

最近は大河ドラマ「どうする家康」の効果でたくさんの方が岡崎市、そして岡崎城を訪れているらしい。

私はご縁があって毎年、岡崎城の隣にある龍城神社さんで、真夏のライブペインティングを開催している。

ちなみに今年も7月30日、龍城神社に迫力の龍を生み出す。

 

徳川家康が生まれた時に現れたという龍は、たしかにこの境内の中に存在する。

結界が張られている感覚、といえばわかりやすいだろうか。

足を踏み入れた瞬間、空気がピリッと張り詰めているのを感じる。

そしてそれは心地よいピリリ、なのだ。

 

もともと龍伝説が多く残された場所であることもさながら、家康人気の盛り上がりで、さらに「気が満ちている」状態の龍城神社。

自分が龍を描く時、特にライブペインティングの場合、どんな龍が降りてくるかはその瞬間までわからない。

だからこそ当事者である自分まで客観的に、「今年はどんな龍神様があの場所に生まれるのか」ワクワクするのだ。

 

さらに言うと、来年は辰年、つまりは龍の年。

私には早速、来年の春節に台湾で龍を描くという仕事が入っている。

今年の下半期から来年に向けて、「龍」を感じる準備をするのは龍城神社から、で間違いないと思う。

 

トークショーとライブペインティング、興味があったらぜひこちらに問い合わせてみてください。

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著者略歴

  1. 西村 麻里

    コピーライター/クリエイティブディレクター/アーティスト
    熊本生まれ。
    国内広告代理店、外資広告代理店のコピーライター・CMプランナー・クリエイティブディレクターを経て、MARI NISHIMURA INC. を設立。
    龍を描くアーティストとして、ニューヨーク、東京をベースにアーティスト活動を展開し、ロサンゼルス、ベルリン、ロンドン、カンヌ、パリなどでも個展を開催。
    2020年公開の映画「響 HIBIKI」に画家として出演。
    著書に『THE AURA』『龍スイッチはじめよう』(ともにWAVE出版)がある。

    ●国内賞
    TCC賞新人賞、TCC審査委員長賞/ADC賞シルバー(RA-CM)/ブロンズ(TV−CM)/電通賞最優秀賞(TV-CM)/FCC賞OCC賞CCN賞/朝日広告賞 ほか多数
    ●海外賞
    CLIO賞シルバー/one show ブロンズ/SPIKS ASIA ブロンズ/epica award paris シルバー/one show メリット賞/D&AD インブック受賞

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