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グググのぐっとくる題名

第6回 「語順」の話

ブルボン小林さんの新連載、「グググのぐっとくる題名」。小説や演劇、映画、音楽、漫画や絵画……あらゆる作品の、「内容」はほとんど問題にせず、主に題名「だけ」をじっくりと考察します。20年前に発売された前著『ぐっとくる題名』以降、新たに生まれた題名や、発見しきれていなかったタイトルを拾い上げます。
第6回は、題名の語順について。”長寿”に対するうんざり感を率直に綴った大ヒットエッセイ集と、コロコロコミックの人気連載、美少女”スライム”との日常ラブコメディ漫画の題名を取り上げます。(編集部)


Suicaなどのカードで、スムーズに改札を通れるようになってもう随分たつ。
今はすっかり慣れたが、はじめのうちは皆、おっかなびっくりの気持ちがあったはずだ。あの改札機の、カードを触れるところの下には「一秒タッチ!」と大きく目立つように記されていた。
通り過ぎる度、筆者にはわずかな違和感があった。
いや、いいんだが、そこは「タッチ一秒!」じゃないか? とつい思えてしまったのだ。
どちらが正しい正しくないということでなくて、なんかこう、おかしいな、と。

この場合の筆者の把握は「商品」としてのものである。
湯沸かしポットに「ワンプッシュ」とか、詰め替え洗剤に「大容量」って、その本体に文字が書いてることがあるが、そういう感じで把握したとき、「一秒タッチ」では、一秒(ちゃんと)タッチしろ、になる。「たった一秒タッチするだけ」とウリを言いたいのなら、語順が逆だろうよ、と(それまでの紙の切符式の改札に比べて著しく「便利」になったせいで、その効用を言いたいのだろうとつい、思えてしまった)。

でもここでの自動改札は「商品」のウリを言ってるのではないのだった。「タッチ一秒」だと、簡単ですよー感が強すぎて、実質一秒どころか一瞬しかタッチしてくれない人が出てきてしまいそう。
そうでなく、トラブルを避けるための言葉だ。
読み取りのミスが起こらないように、しっかり実質的に一秒タッチしてほしいのだから、この語順であってるのだ(通れない人が続出する際の、駅員の労力を思えばなおのこと、ウリなんかでなく警句として言いたいわけである)。
ということで(?)今回は題における「語順」の話!

 

 

本連載は終了しました。加筆・改稿のち書籍化します(2025年12月20日発売予定)

新たな読み物、対談など盛りだくさんでお届けします。どうぞお楽しみに! 編集部

 


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著者略歴

  1. ブルボン小林

    1972年生まれ。「なるべく取材せず、洞察を頼りに」がモットーのコラムニスト。
    00年「めるまがWebつくろー」の「ブルボン小林の末端通信」でデビュー。
    著書に『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』(ちくま文庫)、『ゲームホニャララ』(エンターブレイン)、『マンガホニャララ』(文藝春秋)、『増補版 ぐっとくる題名』(中公文庫)など。
    『女性自身』で「有名人(あのひと)が好きって言うから…」連載中。小学館漫画賞選考委員を務める。

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