出張版 桒原駿の備忘録『手の内を知る相手』①
白番 上野愛咲美女流本因坊
黒番 桒原 駿 二段
2020年2月3日
第45期 新人王戦本戦一回戦
上野さんといえば今や女流タイトルをいくつも獲得し竜星戦でも準優勝まで登りつめたスター棋士ですが、僕とは院生Dクラスから一緒で、入段も数カ月違い、その間ずっと勝った負けたを繰り返してきた長い付き合いです。彼女の活躍については素直にすごいなと思うくらいなのですが、やはり盤を挟めば何か見せてやろうと思うのが棋士の性。前日まで対策を練って対局場に向かいました。
第一譜(1-50)
実戦図1-8
桒原二段「ここまでは予想どおりの進行。序盤の研究量が多い相手なので主導権を握りたいところです」
参考図1
桒原二段「秀策のコスミに対してカカった石(実戦の5)からヒラかないとハサまれるのが怖いという意見をアマチュアの方から伺ったことがあるのですが、参考図1のように1とカケても2のツケからハネぐらいでも全部取るのは大変だし、取り切るには白Aともう一手入れる必要がありますが黒一子に対して白は五手かけて25目ぐらい。それなら白は小目から小ゲイマにシマっている形の方が効率的です。最近はシマリの価値が高いという風潮なので5とカカッてハサませただけでも利かしと言えるかもしれません」
参考図2
聞き手「昔は、白は参考図2のようにヒラくのが一般的でしたが最近はすぐヒラかないのですか」
参考図3
桒原二段「例えば参考図3のように次の黒△が厳しい手なので打つ方もいらっしゃいますが、白はAのコスミツケから生きたりBのカケからノビたりいろいろ手があるので、最近はすぐヒラくことは少なくなりました」
実戦図8-18
参考図4
桒原二段「実戦の18で参考図4の1も厚い手とされているのですが、この場合は2が左上の白と左下の黒との間隔的にちょうど良いのと右下に黒のシマリがあることにより、さほど白がアツみを活かすことができないので実戦の進行になりました」
実戦図18-23
桒原二段「前図のノビを白が打たないと19~21が黒の権利になります」
参考図5
桒原二段「ちなみに参考図5の白△のノビに対して黒が受けないと1のツケが厳しくなります。2~6で最強に取りに行っても7で逆に取られてしまいます」
参考図6
桒原二段「参考図6の黒2とブツカっても外の白が厚くなった上にまだ左下の黒の目がウスく次にAなどが厳しい」
参考図7
桒原二段「実戦のようにサガリとアテを決めていると、参考図7のように白7と切っても黒△があることによって黒は取られる心配がありません」
実戦図23-29
参考図8
桒原二段「最近は実戦の29では参考図8のように進行することが多いのですが、この場合は左上と関連して上辺が白地になりやすく、さらに後に白からAとマゲられるとますます大きくなりそうなので29としました」
実戦図29-36
桒原二段「実戦の36では30の左にすぐツイで戦うのもありますが、36を利かせるとツイだときの援軍代わりになります」
参考図9
桒原二段「実戦では参考図9のAと簡明に受けたのですが、1とハサむ手もあり10までのような変化が見込まれます。このときはなんとなく嫌だったのですが実戦のトビサガった手がやや利かされだったようで図のように進行した方が良かったようです」
実戦図36-39
参考図10
桒原二段「実戦の39で参考図10の1と勢いで押していく手は部分的には考えられますが、白△が待ち構えていて白8まで封鎖されると黒は嬉しくありません。実戦の36と37の交換がなければ黒はこの展開もありそうでした」
参考図11
桒原二段「その場合は参考図11のような3子を捨ててのフリカワリも考えられます」
実戦図39-41
桒原二段「39とハズすのはオすと良くないときに使われる手段ですが次の41は自分以外に打った人を見たことがありませんでした」
参考図12
桒原二段「実戦の41で参考図12の1とコスミツケるのがこの形の時は一般的なのですが、10までと平凡に進行した時に配石的に11、12が白からどちらも厳しく見合いになってしまうのでこれは却下しました。利かされた36をどうにか無力化したいので41とケイマにしました」