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文士が、好きだーっ!!

星が好きだよ、犀星さん☆

「本おや」店主・坂上友紀さんによる、めくるめく文士の世界。文士の(まだ笑)ふたり目は、坂上さんのなかで井伏鱒二とともに「かわいい系文士」、いや「文士」そのもののツートップであるところの室生犀星です! まずはそのかわいらしい一面から〜。



井伏鱒二とともに「かわいい系文士」の双璧をなす(と勝手に思っている)室生犀星(むろお・さいせい)にふたつ名をつけるとしたら、「乙女子(おとめご)の犀星」そして「覗き見の犀星」となりましょうか……! 乙女チックでロマンチストであること。そして、コッソリと覗き見るのが好きという性質を持つこと。この性質については「変態性」と言い換えてもいいのですが、そうあることが犀星の文学にとてもプラスに作用していることも含め、決して貶(けな)したいがために言っているのではありません! かわいいの!? 変態なの!?という疑問も生じるかと思われますが、ひとまず持論を進めます!

この「乙女性」と「変態性」はどちらも犀星の人や文学を語るうえでは重大かつ重要なエレメンツであり、また際立って目立つところでもあります。しかし、それだけで犀星のすべてを語ることはできません。なぜなら彼を形作る根底には、当たり前すぎて目立たないけれども強(したた)かに、「生活(苦や、そこから生まれるハングリー精神)の犀星」という、さらなる根っこがあるからです。実の親との縁が薄く貧乏もし、多くの苦労もありながら、いついかなる時も、地面の一番低いところから空高くに輝く星を見上げることができた人。ここを踏まえることが、かわいい系文士・室生犀星について語るうえでは最も大切なことではないかと思われます☆

というわけで、室生犀星の素敵なところをお伝えしていくにあたり、「乙女」「変態」「生活」という3つのキーワードをもとに紐解いていきたいと思います!


まずは犀星の、「……乙女かーっ!」とツッコミたいくらいのロマンチシズムについてであります☆ 室生犀星、本名を室生照通(てるみち/1889(明治22)年生まれ)には、いくつかの俳号と、いくつもの筆名とがありました。俳号はひとまず置いておくとして、筆名を見るに最初は「残花」。そして「犀星」。また、「犀星」の使い始めには「青き魚を釣る人」という名で作品を発表したことも。どの名前も美しいかぎりですが、実は「犀星」はもともと「犀西」だったのを途中で「西→星」と変えています。ちなみに「犀星」や「犀西」における「犀」の字は、出身地・金沢を流れる「犀川」から一文字取られています。「犀西」は、だから「犀川の西」の意味となり、犀星が住んでいたあたりを指します。以下に出てくる「犀東」も同じく「犀川の東」のひと。

「〔中略〕では国府犀東さんのような立派な詩人になろうと考え、にわかに犀西と名乗ってみたが、気がさしてならなかった。その時代は星や菫の流行時代だったので私も恥かしながら、ついに、犀星と名づけたのである」
(朝日新聞、昭和14年7月30日「雅號の由来」)

……なんてシレっとおっしゃられておりますが、流行に乗っかった!というよりも、星や菫が好きだったのですよね!?とまたもやツッコミたくなってしまうのは、犀星の俳句、詩集、小説と、そのどれをとっても隅々まで美しくてかわいらしい表現が散見しまくっているからです。これで星が好きじゃないなんて、ありえない!

たとえば俳句なら、


星と星と話してゐる空あかり

あんずあまさうなひとはねむさうな

(『犀星発句集』より)


だとか。詩なら、処女詩集(後述しますが、この「処女詩集」という呼び方にも、犀星は並々ならぬこだわりを持っていた)にあたる『愛の詩集』を紐解いてみても、


自分は愛のあるところを目ざして行くだらう
悩まされ駆り立てられても
やはりその永久を指して進むだらう
愛と土とを踏むことは喜しい
愛あるところに
昨日のごとく正しく私は歩むだらう。


と、その最初の詩集の「序詩」からしてすでに「愛」を目指している人がロマンチストでないわけがなく、また、この詩集のその他の収録作についても、土のにおい漂う情緒にあふれながらも、なんなら耽美でもあるものが多く見受けられます。

 「星と星と……」や「あんずあまさうな……」の他「夏の日の匹婦の腹にうまれけり」などの代表作も収録された『犀星発句集』の(ヘタカワな)題字は犀星。「カワイイ」は字にも現れる!

 

さらに、犀星の詩の中で最も有名なもののひとつ

我は張り詰めたる氷を愛す。
斯る切なき思ひを愛す。
我はその虹のごとく輝けるを見たり。
斯る花にあらざる花を愛す。
我は氷の奥にあるものに同感す、
その剣のごときものの中にある熱情を感ず、
我はつねに狭小なる人生に住めり、
その人生の荒涼の中に呻吟せり、
さればこそ張り詰めたる氷を愛す。
斯る切なき思ひを愛す。


(「切なき思ひぞ知る」『鶴』より)

なども、やはりどうしたって見事です。

というか、断腸の思いでいま二、三の例を挙げてみましたが、犀星の作品の数々については「美しい言葉しかない!」と言い切っても過言ではないくらいに、うっとりするような表現が多く散逸しておるのです。

読めば読むだに、星や花や空といった、あれやこれやが大好きだったんだろうなぁ……。あと美人や美少年も好きだったのね! と納得がいってしまう犀星の「美しいもの好き」のうちの、「美しい人(美女や美少年)好き」ついてはもう少し後で触れるとして、ロマンチックな犀星の乙女チックな部分について、小説デビュー作にあたる「幼年時代」を取り上げて、さらにフォーカスしていきたいと思います☆

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著者略歴

  1. 坂上友紀(さかうえ・ゆき)

    2010年から11年間、大阪で「本は人生のおやつです!!」という名の本屋をしておりましたが、兵庫県朝来市に移転して2022年の春に再オープンしました☆

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