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音声学者とーちゃん、娘と一緒に言葉のふしぎを見つける

可愛いやつらは、だいたい両唇音

娘たちから一言、二言

前回の記事では、私がキュアパインに変身しながら発見した「プリキュア=両唇音」という法則をご紹介した。この法則から一歩踏み込んでみると、もしかしたら名前が両唇音で始まるプリキュアは、そうでないプリキュアよりも可愛くて魅力的に感じられるかもしれないアイコン 。将来、真剣に検証したい仮説ではある。 

せっかくだから娘たちにお気に入りのプリキュアについてインタビューしてみた。答えは、上の娘が「ムーンライト」、下の娘が「パパイヤ」で、どちらも両唇音で始まる。ずいぶん親孝行な娘に育ってくれた。 

父親が少し疲れ気味に夕食をとっていると6歳の娘が「パパイヤは唇が閉じる音で始まっているね」と父親に気を遣ってくれる家庭は世界広しと言えども川原家だけなのではないだろうか


とーちゃん、娘に気を遣われる 

またつい最近、わんちゃんが大好きすぎる下の娘と散歩していたとき向こうからパピヨンと思われる犬がやってきた。「パピヨンだねー」と言ったら「パピヨンって、かわいいねー」とのこと。もしかしたら、あれは私に気を遣って両唇音あふれる名前を可愛いと言ってくれたのかもしれないまぁ、わんちゃん自身が可愛かった可能性も否定できないが。 

最後に、私のプリキュア研究の総決算として、実在しないプリキュアの名前を創作した場合でも「両唇音で始まる名前がプリキュアらしい」という法則が成り立つのか、当時4歳の娘に聞いてみたことがある「プリキュア=可愛い=両唇音」という制作者側の意図は、名前を聞いた子どもたちも感じることなのかどうか、確認するためだ。 

父:「キュアポロン」と「キュアコロン」、プリキュアだったらどっちが良い? 
娘:「キュアポロン」 
父:どうして? 
娘:可愛いから

実際のインタビュー音声がこちら



ビンゴだ。しかし、娘一人の意見では心許ないし、親の影響かもしれないので日本語話者およそ200名を対象に両唇音で始まる名前とそうでない名前それぞれ30個の名前を用意して正式な実験を行ってみた結果はやはり両唇音で始まる名前がプリキュアの名前として選ばれる確率が高かった一部の例外を除き、7585%程度の確率で「両唇音=プリキュア」が成り立ったのであるこちらも前回の記事で紹介した研究同様、学会で発表している 

だが残念なことに、この実験の参加者は大人だった。音声学者とーちゃんの野望は3歳児を対象に同じ実験を行うことだが、コロナ禍で子ども相手に実験することは容易ではなく、2021年現在、まだ実現に至っていない。コロナバカヤロウ。 

ちなみに、この「プリキュア=両唇音」という法則について発表する際によく尋ねられるのが「プリキュアの制作者はそういう法則を意識して名前を決めているのだろうか」という質問。正直、私が知りたいくらいだ。たぶん企業秘密だろうけど、制作者のみなさん、密かにメッセージお待ちしております。秘密は守ります。
 

おたくはパンパース? うちはマミーポコ 

私に発見されるまで慎ましやかに待ってくれていたこの「プリキュア=両唇音」という法則だが、いったん気が付くと、他の分野にも目が向く。結果、他の商品名でも似たような現象が観察されることがわかってきた。例えば、おむつの名前にも両唇音が多く使われる。ちなみに、我が家は「マミーポコ」派だが、「パンパース」「メリーズ」「ムーニー」という日本の4大メジャーおむつ名にはすべて両唇音が含まれている 

そこで、おむつの名前に関しても実験検証を行った大学生82名に、赤ちゃんの日常品であるおむつ大人の日常品である化粧品の名前をそれぞれ創作してもらい、その名前に含まれる両唇音率を比較してみた。その結果、「ピープ」や「マパル」など新しく創作されたオムツ名には両唇音が含まれることが多く、なんと全子音の48.7が両唇音であった。対照的に大人用化粧品名の両唇音率は19.4%であり、「おむつの名前には、両唇音が多用される」という結論が得られた
 

アンパンマンを忘れるな  

いやいやもっと大事なジャンルを忘れていた。日本の赤ちゃんの登竜門の一つ「アンパンマン」である。彼の名前も、語頭ではないが、語中に両唇音の [p][m]が入っている(名前のイメージには、語頭の音が大きく関わっているのだが、語中の音も影響を与えることがわかっている。)アンパンマンシリーズきっての良心である「メロンパンナ」ちゃんだって両唇音で始まるし、敵役ながらどこか憎めない「バイキンマン」も同様だ。「アンパンマン」の人気の秘密は両唇音にあるのではないかとすら思えてくる。 

思い返せば、上の娘の初めての言葉は「パパ」でも「ママ」でもなく、「アンパンマン」を示す「まんまんまん」だった気もする。いや「あんぱんぱん」だったか。まあ、うちは「パパ」も「ママ」も使わない「とーちゃん」「かーちゃん」派なのだが。 

アンパンマンのキャラクター名も体系的に研究したいものだが、なにせキャラクターの数でギネス認定を受けているほどである2013年時点では2200体)データ数としては申し分ないが、実際に行うとしたら覚悟が必要だろうアイコン

他にも色々いるね  

両唇音は、「あかあさんといっしょ」やサンリオのキャラクターにも多い。前者では「ピッコロ」「ポロリ」「ムームー」、後者では「ポムポムプリン」「バッドばつ丸」「マイメロディ」など。ぜひみなさまも例を考えて頂きたいアイコン 。お子さんと一緒に考えれば、家族で音声学を楽しめるチャンスである。こ2つのジャンルについては実は私も分析済みで、語頭の両唇音率はそれぞれ43.5%と35.4だった。プリキュアの47.5には届かないものの、なかなか高い値を叩き出した

最近の川原家は大人も子どもも『PUI PUIモルカー』や『ペネロペ』に癒やされているこの癒やしも両唇音に由来するのだろうか。『おジャ魔女どれみ』には6人の可愛い魔女が登場するが、どの子の呪文も「プルルンプルンファミファミファ」の様に両唇音に溢れているアイコン

連載の後半でじっくり解説するが、「ポケモンのキャラクター名の分析は、最近の私の研究のメインテーマの一つとなっている。その分析によると、名前に含まれる両唇音の数が増えれば増えるほど、そのポケモンの体重は軽くなる。「ゲンシグラードン」は重たいし、「フラべべ」や「カミツルギ」は軽い。 

同じように、ポケモン世界ではフェアリータイプのキャラに両唇音が多いこともわかった「ピィ」なんていかにも可愛くて妖精っぽい名前ではないか。逆に、悪役っぽい「ゴーストタイプや「あくタイプ」の名前には両唇音が少ない。悪役が可愛くては確かにピンとこないポケモン好きのみなさんは、ぜひ自分で例を考えてみてほしいアイコン

まとめよう。子ども向けで可愛い」キャラクターの名前には両唇音が多用されるようだ。どうやら「両唇音=可愛い」という連想が働いているとしか思えない。このように、音そのものが意味を持つ現象は音象徴おんしょうちょう」と呼ばれ、近年多くの研究者たちの関心を集めている。私は、自らの娘を名付ける際にも音象徴を考慮に入れて、魅力的な名前を妻にプレゼンした。このエピソードについては後日じっくり語らせて頂きたいと思う。 

さて、「両唇音を可愛いと思うのは、日本語話者だけなの?」と思ってくれた読者がいればありがたい。この問いに答えを出すべく、英語のディズニーキャラクターの名前を分析してくれた学生がいる。悪役とそうでないキャラの名前を比較したところ、悪役でないキャラクターのほうが両唇音を多く含んでいることがわかった。「ミッキー」「ミニー」や「プーさん」、割と簡単に例が思いついてしまう。また、上記の「両唇音=軽いポケモン」という法則は英語でもドイツ語でも成り立つ。外国に輸出されたポケモンは、名前がその国の言語らしく変えられていることが多いが、それでも同じ法則が成り立つのだ!  

その他にも英語話者も「両唇音=フェアリータイプ」という連想をするのか、実際には存在しないオリジナルのポケモンの絵を使って、実験的に検証したこともある。結果はその通りで、日本語話者と英語話者が、両唇音に関して同じ感覚を持っていると思うと面白い。詳細は、後の記事に乞うご期待だ 

ここまで読んでくださった方は、ディズニーランドに行っても、ポケモンを楽しんでいるときにも、ついつい音声学のことが気になってしまうかもしれない。そうなれば私の思うつぼである。 

さて好奇心旺盛な読者のみなさまの頭の中では、まだまだ様々な疑問が渦巻いているだろう。 

どうして赤ちゃんは両唇音が得意なの? 
調音点って他にどんなものがあるの? 
同じ調音点を持つ音同士はどうやって区別するの? 

次回以降の記事でこれらの疑問に答えていこうと思う。 

本日の妻からの一言  

妻:あの「まんまんまん」は「アンパンマン」じゃなくて、「ママ」でしょ。ママがアンパンマンに負けるわけがありません 
私:「……。(ママ……? かーちゃん……?)」 

前回のクイズの答え  

Q.両唇音の中でも、プリキュアの名前の語頭に最も多く現れる音は何でしょうか?

A.特によく現れるのは[m]です。
「ミント」「マリン」「ムーンライト」「メロディ」「ミューズ」「マーメイド」「ミラクル」「マジカル」「ミルキー」など断トツで多い。なぜ
[m]がいちばん多いのかは、連載の後半で明らかになるでしょう。 

今回のクイズ 

1両唇音が可愛いのは、赤ちゃんがよく発する音だからだと思われます。しかし、なぜ赤ちゃんは両唇音が得意なのでしょう? 答えは次回の本文の中で。 
2おやつの名前によく現れる両唇音があります。それは何でしょう? 



 

 

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著者略歴

  1. 川原繁人

    1980年生まれ。1998年国際基督教大学に進学。2000年カリフォルニア大学への交換留学のため渡米、ことばの不思議に魅せられ、言語学の道へ進むことを決意。卒業後、再渡米し、2007年マサチューセッツ大学にて言語学博士を取得。ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て、2013年より慶應義塾大学言語文化研究所に移籍。現在准教授。専門は音声学・音韻論・一般言語学。研究・教育・アウトリーチ・子育てに精を出す毎日。著書に『音とことばのふしぎな世界』(岩波科学ライブラリー)『「あ」は「い」より大きい!?:音象徴で学ぶ音声学入門』(ひつじ書房)など。

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