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音声学者とーちゃん、娘と一緒に言葉のふしぎを見つける

音声学とうた ゴスペラーズ北山陽一さん×川原繁人さん対談(中編)

音声学は人生を豊かにする

北山 僕は高い音を出したいときに、どうしても舌をぎゅっと巻き込んでしまう癖があるんですが、その発声は全体的に力んでしまうので色々と不都合が多いんですね。声帯を伸ばすために使う筋肉は緊張させて、他の筋肉はリラックスさせる1。それを切り分けるためのトレーニングをしているんです。声帯の周りって色々な筋肉があるんですが、本当に必要な筋肉だけを動かすようにしないと、声の響きが変わってしまったりするので。例えば「ば」って言うときには、口のなかで気圧が高まって、口の外だけでなく喉のほうにも空気が出ていく。どの子音を使うかによって筋肉への圧力のかかり方が変わるので、音声学的なボイストレーニングの世界では、この筋肉にアプローチしたいんだったらこの発音法を使うとか、かなり細かく研究されているんです。

例えば恋愛においても、自分の感情をどう相手に伝えるかってすごく大事だと思うんですね。どのニュアンスで「好き」って言うか、その感情表現に使える選択肢を増やすためには、発声のバリエーションとか、高低のレンジとか強弱をコントロールできる範囲が広いほうが、選択肢が広いじゃないですか! だから音声学を知ると、人生がとても豊かになると思うんですよね。

川原 書きましたよね、連載の初回で。「音声学は人生を豊かにする」って(笑)。当時は北山さんとの交流は始まっていませんでしたから、まさかこのような形で証言してもらうとは思ってもいませんでしたね。

北山 実際、3回くらい川原先生の授業を受けただけで、僕の声は変わっていたので。


●本連載は大幅加筆、改題のち書籍化いたしました(編集部)

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著者略歴

  1. 川原繁人

    1980年生まれ。1998年国際基督教大学に進学。2000年カリフォルニア大学への交換留学のため渡米、ことばの不思議に魅せられ、言語学の道へ進むことを決意。卒業後、再渡米し、2007年マサチューセッツ大学にて言語学博士を取得。ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て、2013年より慶應義塾大学言語文化研究所に移籍。現在准教授。専門は音声学・音韻論・一般言語学。研究・教育・アウトリーチ・子育てに精を出す毎日。著書に『音とことばのふしぎな世界』(岩波科学ライブラリー)『「あ」は「い」より大きい!?:音象徴で学ぶ音声学入門』(ひつじ書房)など。

  2. 北山陽一

    1974年2月24日生まれ、青森県八戸市出身。ミュージシャン。慶應義塾大学環境情報学部卒。1994年12月、男性ヴォーカルグループ・ゴスペラーズのメンバーとしてシングル「Promise」でメジャーデビュー。以降、「永遠に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など、数々のヒット曲を送り出す。2019年にメジャーデビュー25周年を迎え、2021年3月にオリジナルアルバム「アカペラ2」をリリース。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に在学中。

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