音声学とうた ゴスペラーズ北山陽一さん×川原繁人さん対談(中編)
音声学は人生を豊かにする
北山 僕は高い音を出したいときに、どうしても舌をぎゅっと巻き込んでしまう癖があるんですが、その発声は全体的に力んでしまうので色々と不都合が多いんですね。声帯を伸ばすために使う筋肉は緊張させて、他の筋肉はリラックスさせる1。それを切り分けるためのトレーニングをしているんです。声帯の周りって色々な筋肉があるんですが、本当に必要な筋肉だけを動かすようにしないと、声の響きが変わってしまったりするので。例えば「ば」って言うときには、口のなかで気圧が高まって、口の外だけでなく喉のほうにも空気が出ていく。どの子音を使うかによって筋肉への圧力のかかり方が変わるので、音声学的なボイストレーニングの世界では、この筋肉にアプローチしたいんだったらこの発音法を使うとか、かなり細かく研究されているんです。
例えば恋愛においても、自分の感情をどう相手に伝えるかってすごく大事だと思うんですね。どのニュアンスで「好き」って言うか、その感情表現に使える選択肢を増やすためには、発声のバリエーションとか、高低のレンジとか強弱をコントロールできる範囲が広いほうが、選択肢が広いじゃないですか! だから音声学を知ると、人生がとても豊かになると思うんですよね。
川原 書きましたよね、連載の初回で。「音声学は人生を豊かにする」って(笑)。当時は北山さんとの交流は始まっていませんでしたから、まさかこのような形で証言してもらうとは思ってもいませんでしたね。
北山 実際、3回くらい川原先生の授業を受けただけで、僕の声は変わっていたので。
●本連載は大幅加筆、改題のち書籍化いたしました(編集部)