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音声学者とーちゃん、娘と一緒に言葉のふしぎを見つける

こどもといえばポケモン、ポケモンといえばこども 〜ピカチュウ、古代からの論争に光を当てる〜

犬も歩けばピカチュウにあたる

世の中はポケモンに溢れている。携帯ショップにも自動販売機にも至る所にピカチュウがいらっしゃる。娘はふたりともポケモンが大好きだ。音声学者とーちゃんとしては、ポケモンに関しても何か分析せねばなるまいと常々思っていた。そして目標はかなった。しかも結構な度合いで。びっくりするくらいに。

ソクラテスの遺言

今までの記事で様々な「音象徴」つまり「音と意味の関係」を紹介してきた。

両唇音=可愛い
共鳴音=丸い、女性、萌え
阻害音=とげとげ、男性、つん
濁音=大きい、強い、悪役 

実は、この「音と意味に関係があるのか」という問いは、言語学史上、論争の火種であり続けた。この論争、ソクラテスに遡る。対話形式で「音と意味の間に関係があるのか」という議論が真剣になされ、ソクラテスは「音に意味はある」という立場をとる。曰く:

[i]=細やか
[a]=大きい
[o]=丸い
[s]=風
などなど。 

一方で、現代言語学者の生みの親と言われるソシュールという学者は、ソクラテスと反対の立場をとった。曰く、音と意味の関係は恣意的である。もし音と意味の関係が決まっていたら、言語間に差があることに説明がつかない。



ポケモンの「進化レベル」と「名前に含まれる濁音の数」の相関

進化すればするほど、名前に含まれる濁音の数が増える。ただし、この関係はあくまで統計的な傾向で、例外のない絶対的なものではない。2ちゃんねるで私の研究が取り沙汰された際、例外をあげて私を叩いたネット上のみなさん、この点に注意してください。

さて、上にあげた名前のリストをもう一度吟味すると、もう1つの顕著な傾向に気づくだろう。そう、進化すると名前が長くなるのだ。こちらも統計的に分析すると、結果は下図のようになった。縦軸は「名前の平均的な長さ」を示している。やはり進化すればするほど、名前が長くなる。


●本連載は大幅加筆、改題のち書籍化いたしました(編集部) 

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著者略歴

  1. 川原繁人

    1980年生まれ。1998年国際基督教大学に進学。2000年カリフォルニア大学への交換留学のため渡米、ことばの不思議に魅せられ、言語学の道へ進むことを決意。卒業後、再渡米し、2007年マサチューセッツ大学にて言語学博士を取得。ジョージア大学助教授、ラトガース大学助教授を経て、2013年より慶應義塾大学言語文化研究所に移籍。現在准教授。専門は音声学・音韻論・一般言語学。研究・教育・アウトリーチ・子育てに精を出す毎日。著書に『音とことばのふしぎな世界』(岩波科学ライブラリー)『「あ」は「い」より大きい!?:音象徴で学ぶ音声学入門』(ひつじ書房)など。

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