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リベラルアーツの散歩道 ― 外国語と世界を歩く

思考のコピペに気をつけよう ―3つ目の「制約」

近年ビジネス本などでも目にする「リベラルアーツ」の在り方を解きほぐし、「リベラルアーツ」として「外国語」を学ぶ意味を探っていく、東京大学の「教養」を長年見つめてきた筆者ならではの本連載。リベラルアーツという言葉にもやもやしている方も、「英語」だけが外国語で正義なの?ともやもやしている方も必見です!

 

 「知識の限界」と「経験の限界」に続けて、今回は「思考の限界」について考えてみましょう。これは前の二つと比べて、いちばん厄介な制約と言えるかもしれません。というのも、知識や経験ならいくらでも増やすことができますが、思考は「広げる」ことや「深める」ことはできても、「増やす」ことはできないからです。

 では、いったいどうすれば私たちはこの限界を越えていくことができるのでしょうか。

 教育の現場では、よく「自分の頭で考えなさい」とか「自分の言葉で語りなさい」といったことが言われます。これを裏返して言えば、私たちはとかく「他人の頭で考え」たり「他人の言葉で語っ」たりしがちであるということです。

 じっさいインターネットの世界では、他人の主張をそのまま自分の主張と勘違いしたり、他人の言葉をあたかも自分の言葉であるかのように錯覚したりするといった現象がしばしば見られます。よく考えもせずに気軽に「いいね!」ボタンを押したり、時には「あ、これこそ自分の言いたかったことだ」と思い込んでリツイート したりした経験は、多くの人がもっているのではないでしょうか。

 けっしてそのこと自体が悪いわけではありません。人は誰でも、他人の意見を参考にしながら自分の考えを作っていくものだからです。でも、その境界線をあいまいにしたままでこうしたことを繰り返していると、いつのまにか自分の言葉を失ってしまう危険があります。

 確かに他人が自分の代わりにものを考えたり発言したりしてくれるのであれば、こんなに楽なことはないでしょう。いちいち自分で言葉を選んで表現する必要もありませんし、仮に間違っていたとしても、最終的な責任を負わなくて済むからです。

 私はこれを「思考のコピー&ペースト」 と呼んでいます。他人の文章を無断でコピペしてそのまま自分の文章にしてはいけないくらいのことは誰でも知っていると思いますが、思考のコピペがこわいのは、実際に文章を写し取るわけではないからこそ、それがコピペであるという自覚も悪意もなく、簡単に実行されてしまうということです。

 そうならないようにするためには、あたりまえのことですが、他人の言っていることを鵜吞みにしないよう注意しなければなりません。ネットに限らず、世の中にあふれている情報には本当かどうかあやしいものも相当の割合で含まれています。何の気なしに「いいね!」ボタンを押す前に、それが本当に自分でも責任をもって言えることなのかどうか、ちょっと立ち止まって考えてみる習慣をつけることが大事なのではないでしょうか。

 

第七回 広角レンズのように見渡す力―4つ目の「制約」はこちら

 

【お知らせ】
昨年5月に中部大学にて行われたシンポジウム「リベラルアーツと外国語」が一冊の本になりました!
著者司会のもと鳥飼玖美子先生/小倉紀蔵先生/ロバート キャンベル先生を迎え行われた
刺激的なシンポジウムだけでなく、9名の豪華識者による論考も必見です。

『リベラルアーツと外国語』水声社刊 

定価2750円 ISBN978-4-8010-0626-3

 

 

 

 

 

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著者略歴

  1. 石井 洋二郎

    中部大学教授・東京大学名誉教授(2015-19年春まで副学長をつとめる)。専門はフランス文学、フランス思想。
    リベラルアーツに関連した著作に『大人になるためのリベラルアーツ: 思考演習12題』『続・大人になるためのリベラルアーツ: 思考演習12題』(ともに藤垣裕子氏との共著、東京大学出版会刊)、『21世紀のリベラルアーツ』(編著、水声社刊)などがある。

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