韓国の若者たちの悩み~小説「三十の反撃」を読む
#非正規職 #비정규직 #スペック #스펙
皆さんの「そうそう!これ、聞きたかったぁ~」に答える連載『マニマニ教えて!今の韓国ヨギヨギ~(たくさん教えて!今の韓国こっちこっち~)』です。韓国で、または日本で韓国関連分野を研究している先生たちが今の韓国についてやさしく解説してくれます!韓国語版おまけ付きで、言葉の勉強もできるなんてチョアヨ(素敵です)>_< 連載を読み終える頃には、あなたも韓国通になっているかも?!
第14回は、金根三先生(志學館大学)。今回は文学から。急速に変化する韓国の現代社会を背景とした物語には、国境を越えてわたしたちも共感できる部分が多くあることを語っていただきました。
執筆者: 崔銀景 河正一 飯倉江里衣
金根三 朴天弘 鄭敬珍
皆さんは「三十の反撃」という小説を知っていますか?この本には今の韓国社会とその若者たちの悩みがリアルに描かれています。少し紹介しながら、韓国の現実をのぞいてみましょう。
ソウルオリンピックが開催された1988年に生まれた主人公キム・ジヘ。その年の韓国で一番多かった名前であるジヘに、一番多い苗字であるキムをもつ平凡そのものの人です。今年30歳ですが、いまだに正規職が見つからず、とある大企業傘下の文化センターの非正規職員(インターン社員)として毎日を過ごしています。
オリンピック以降、韓国の経済と社会は途上国から先進国に大きく発展していました。しかし、1997年のアジア金融危機により韓国経済が大きな打撃をうけIMFから救済金融支援を受けることになって以来、社会は急速に変わっていきました。経済構造改革という名の下でIMFから強要された新自由主義的な雇用政策は、非正規労働者を増産しており、青年たちはスペック(名門大学卒業・資格・語学力・留学経験など)を上げるための無限競争に陥りながらも、社会の不条理に対して大きな抗議デモ活動を繰り広げています。
そんな中で育てられたジヘも、大学時代にはデモ隊の真ん中で一緒にろうそくを掲げ、既成世代が作った様々な矛盾を正そうとしました。しかし、いつの間にかその情熱は冷めてしまい、正規職になることを目指しながら妥協ばかりの人生をおくる自分自身に気付いてしまいました。
そんなある日、新しいインターン社員として現れたギュオクとの出会いでジヘは少しずつ変わり始めます。ギュオクは社会の不条理と矛盾に対して「転覆すべき対象」と規定し、不当なものに対して異議を申し立てるだけでも世の中は少しずつ良い方向に変わると力説します。次第に、ギュオクの周りにはジヘのように現実に傷つけられたメンバーが集まります。そして、彼らは不条理な現実に向かって彼らなりの小さな反撃を準備し実行に移します。
しかし、その行動は彼らにとって小さな成果はあったものの、周囲を根本的に変えるには限界がありました。それでも彼らの知らないところで、彼らのような想いの人々が集まり、世の中が少しずつ良い方向に変わっていきます。さて、再会したジヘとギュオクの前にはどんな結末が待っているのでしょうか?
2022年度本屋大賞翻訳小説部門1位の作品でもあるソン・ウォンピョン氏の「三十の反撃」には、今の韓国の若者だけではなく、全世界の若者にも共感できる内容が詰め込まれています。是非読んでみてください。
金根三(志學館大学)