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マニマニ教えて!今の韓国ヨギヨギ~

韓国の20代女性にはフェミニストが多い?

#フェミニスト #페미니스트 #ミソジニー #미소지니


皆さんの「そうそう!これ、聞きたかったぁ~」に答える連載『マニマニ教えて!今の韓国ヨギヨギ~(たくさん教えて!今の韓国こっちこっち~)』です。韓国で、または日本で韓国関連分野を研究している先生たちが今の韓国についてやさしく解説してくれます!韓国語版おまけ付きで、言葉の勉強もできるなんてチョアヨ(素敵です)>_< 連載を読み終える頃には、あなたも韓国通になっているかも?!

第15回は、飯倉江里衣先生(神戸女子大学)。韓国におけるフェミニズムの文脈、そして具体的にどのような問題と向き合っているかについて、韓国の社会背景を交えながら教えていただきました。


 執筆者 崔銀景 河正一 飯倉江里衣  

      金根三 朴天弘 鄭敬珍    


 

「20代女性の10名中4名(41.7%)[1]

 

 この数字は何を示すでしょうか。これは、韓国で自身をフェミニストだと考える人の数です。なぜ自身をフェミニストと考える人がこれほど多いのでしょうか。背景には、2015年以降の韓国社会の動きが関係しています。

 韓国では2015年頃から女性嫌悪(ミソジニー)問題が浮上しました[2]。2015年6月にMERS(中東呼吸器症候群)が流行し、海外旅行に行った韓国女性が国内にウイルスを持ち込んだというデマが流れ、ネット上に女性嫌悪言説[3] があふれました。苛立ちを募らせた女性たちはオンラインサイト「メガリア」を立ち上げ、女性嫌悪言説の男女を入れ替える「ミラーリング[4]」戦略で対抗しました。「メガリア」は若い女性たちに、違和感に対して怒りを示して良い、ということ、女性嫌悪言説を放置し認めてきた社会が間違っているのだということを気づかせました[5]

 2016年5月、20代女性がソウルの江南駅付近の公衆トイレで見知らぬ男性に殺害されるという「江南駅女性殺人事件」が発生しました。犯人は、「日頃から女性に見下されていた」と犯行の動機を語りましたが、警察は精神疾患による通り魔犯罪としました。女性たちはこれは「女性嫌悪殺人」であるとし、追悼と連帯を示しました。女性たちは江南駅10番出口付近に追悼場所を設け、カラフルな付箋に思い思いのメッセージを書き残したり、「反女性嫌悪自由発言台」を設け、自身が受けた性暴力や性差別などの経験を告発しました。女性たちは事件を自分のことと捉え、「もう黙らない」と社会に異議申し立てを行ったのです。

 2016年10月には「#○○(界)_内_性暴力」というハッシュタグが登場し、各業界の性暴力やセクシャル・ハラスメントを告発する動きが起こりました[6]。2016年10月にはフェミニズム小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が韓国で出版され、大ベストセラーとなりますが(第6回連載参照)、その背景にはこうした2015年以降の韓国社会の動きがあったのです。

 「世の中が私をフェミニストにするんだよ[7]」。主に2018年の韓国を舞台に、男性主人公の視点からフェミニストになった「彼女」を描いた小説『僕の狂ったフェミ彼女』の「彼女」のセリフです。自身をフェミニストと考える女性たちの背景には、そうさせる社会の現実と、そこに立ち向かおうとする女性たちのパワーと連帯があることに私たちは注目すべきと言えるのではないでしょうか。

飯倉江里衣(神戸女子大学)

 韓国語版はこちら 


 [1] 국승민ほか『20대 여자』참언론 시사in북, 2022, 19頁。時事週刊誌『時事IN』が2021年7月30日から8月2日まで、韓国の全国満18歳以上の男女2,490名を対象に実施したWeb調査で、「私は自身をフェミニストであると考える」という項目に、「非常に同意」(16.6%)、「若干同意」(25.1%)と回答した人の合計です。これは、同じ回答者の30代女性(19.7%)の2倍を超え、30代~60歳以上女性の平均(23.2%)の2倍近い数字となっています。

[2] 女性嫌悪(ミソジニー、misogyny)とは、女性を女性であるという理由で憎悪する文化的態度のことです。2015年に起こった様々な出来事については、趙慶喜「韓国における女性嫌悪と情動の政治」(『社会情報学』6(3))39頁を参照してください。

[3] 例えば、身勝手で贅沢好きで男性に経済的に寄生したがる女性という意味の「キムチ女」、家族や恋人に経済的に依存してブランド物ばかりを欲しがる見栄っ張りの女性という意味の「味噌女」、育児をろくにせず遊びまわる害虫のような母親という意味の「ママ虫」などの新造語や、女性であることを理由に人格を貶める発言のことです。

[4] 男女を入れ替え、男性へのヘイトという形で発信することで、その言説がいかに不自然で暴力的であるかをパロディ的に見せる方法のことです。例えば、常にコスパだけを考えて暮らす男性という意味の「サンマ男」、育児や家事をせず傍観している父親を指す「かかし父」、家父長的で女性嫌悪的な考え方の男性を批判する「韓男虫」などがあります。

[5] その後、「メガリア」は違法成人向けサイト「ソラネット」閉鎖運動を展開し、ついに2016年4月に「ソラネット」は閉鎖されるに至りました(第16回連載参照)。

[6] 詳しくは古橋綾「現代韓国フェミニズム 第2回 MeToo・私も訴える」(『Posse』44、2020年)114-116頁を参照してください。韓国では2016年以降、性暴力の告発が続きましたが、#MeToo運動として韓国社会全体に知られ、広まっていくのは、2018年1月の現職の女性検事による自身の性暴力被害告発以降になります。

[7] ミン・ジヒョン著、加藤慧訳『僕の狂ったフェミ彼女』イースト・プレス、2022年、30頁。

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著者略歴

  1. 飯倉 江里衣(イイクラ・エリイ)

    専門は朝鮮近現代史。東京外国語大学外国語学部東アジア課程朝鮮語専攻在学中に韓国ソウルの延世大学校で1年間の交換留学を経験。学部卒業後、同大学大学院の博士前期課程および博士後期課程で、日本の植民地支配下で中国東北地域(「満洲」)に渡った朝鮮人の歴史を研究。日本軍「慰安婦」問題、徴用工問題、在日朝鮮人の歴史・現在などを大学で教えつつ、韓国のフェミニズム、韓国ドラマ・映画 、K-POP についても勉強しながら授業に生かしている。現在、神戸女子大学 文学部 国際教養学科、助教。

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