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中国文字謎 入門講座

求ム教養

前回、「言いかえ型」字謎は難しいという話をしたが、それに輪をかけて難渋なのが、「求ム教養」タイプのもの。例えば、

 

  ①东施  dōng shī  (妞)niū

 

  ②嫦娥之家  Cháng’é zhī jiā  (肿)zhǒng

 

  ③古代女英雄  gǔdài nǚ yīngxióng  (栏)lán

 

 西施は春秋時代の越の美人。今でも“情人眼里出西施” Qíngrén yǎnli chū Xīshī (恋人の眼には相手が西施とうつる――あばたもえくぼ)という諺があるくらいの、美人の代名詞。ところで東施のほうは西施をもじった醜女のこと。こちらも“东施效颦” Dōngshī xiàopín という成語がある。話が少々脱線したが、要するに“东施”とは“丑女”chǒunǚ のこと、そこから答え“妞” が導かれる。①を解くには少なくとも“东施”が人名であり、醜女であることぐらいは知っていなければならない。

 以下②も③もその気になれば長い長い解説ができるくらいの典故をもつ。先を急ぐので、簡単に済ませると、嫦娥は月に逃げた伝説上のこれまた美人。彼女の家は月の中ということで“肿”と解く。③は中国人にはこれだけで、父に代わって男装して従軍し功をあげた木蘭の名が思い浮かぶのであろう。“木兰”から“栏”が得られる。

 

 引き続き「求ム教養」型字謎を示そう。

 

  ④疑是地上霜。 Yí shì dìshang shuāng.    (胱)guāng

 

  ⑤贾宝玉出世。 Jiǎ Bǎoyù chū shì.      (国)guó

 

  ⑥刘邦闻之高兴, Liú bāng wén zhī gāoxìng,

 

      刘备闻之伤心。 Liú bèi wén zhī shāngxīn.  (翠)cuì

 

 ④は答えを見れば成程と納得するが、なかなかあっさり解けるものでもない。《静夜思》の一句。⑤は《红楼梦》の主人公賈宝玉は生まれてきた時に口に玉をふくんでいたという話に基づく。前回の“孙悟空出世”なら、“石开”→“研”と解けても、こちらはそれに勝る教養がいりそうだ。⑥は劉邦がその知らせを聞いて喜んだのは「項羽」の死であろうし、劉備がその知らせを聞いて悲しんだのは「関羽」の死であろう。どちらにせよ“羽卒”(羽卒ス)である。かくて“翠”の解が得られるしくみ。

 

 なお、“疑是地上霜”のように、古典詩の一句や経典の一文をそのまま謎面としているものも少なくない。

 

  ⑦人无信不立。 Rén wú xìn bú lì.  (言)

 

  ⑧何可废也,以羊易之。  Hé kě fèi yě,yǐ yáng yì zhī.  (佯)yáng

 

  ⑨少小离家老大回。  Shào xiǎo lí jiā lǎo dà huí.  (夭)yāo

 

 これらを「そのまんま字謎」と呼んでいるが、「言いかえ型」ではないので、さほど難しくはない。ただ字謎用に制作したわけではないゆえ、冗語が目立つきらいがある。

 

 

◆練習問題

 

何故括弧内のような答えになるかを説明しなさい。

 



1 上海人 (伸) 

  

 

 

 

解答を表示 

申人”から “申”は上海の別称 。 

 

 

 

  

 2 广州人 (佯) 

   

 

 

解答を表示 

羊人”から “羊城”は広州市の別称。

 

 

 

 

    3 蜀语  (训) 

 

   

 

 

解答を表示 

蜀の国は四川、つまり“川言”から。

 

 

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著者略歴

  1. 相原 茂

    中国語コミュニケーション協会代表
    1948年生まれ。東京教育大学修士課程修了。中国語学,中国語教育専攻。80~82年,北京にて研修。
    明治大学助教授,お茶の水女子大学教授等を経て,現在中国語コミュニケーション協会代表としてTECCの普及に努める。
    NHKラジオ・テレビでも長年中国語講座を担当。編著書に,『はじめての中国語』(講談社現代新書)『雨がホワホワ』『ちくわを食う女』『中国語未知との遭遇』(ともに現代書館)『ときめきの上海』『発音の基礎から学ぶ中国語 新装版』(ともに朝日出版社)『「感謝」と「謝罪」はじめて聞く日中“異文化”の話』(講談社)『講談社中日辞典<第三版>』『講談社日中辞典』(講談社)など。

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