金子真季二段の心の一局(4)「妥協を許さないプロの一手」
参考図47
聞き手「白としては、参考図47のAとBの断点を守りたいですね」
参考図48
金子先生「今ここで参考図48の白1とすると、黒2とハネだされて、黒も戦えそうです」
聞き手「かなり難解ですが、やれるかもしれませんね」
実戦図75-76
金子先生「そこで、実戦図のように白76とブツカリました」
実戦図76-80
聞き手「黒は狙いなので77と切ってきたのですね。でもこれは読みの範囲」
参考図49
金子先生「ここで、参考図の白1では黒に逃げられてしまいます」
参考図50
金子先生「参考図50の白1とアテは黒2と取られて左辺の白が全部取られてしまいます。ここで一つ細工して、実戦の白80とアテました」
実戦図80-84
金子先生「実戦の白80と黒81の交換があることによって、白84とコウにはじくことができました」
聞き手「この図は、実戦によく出てくるので覚えておけばいいですね」
金子先生「コウ争いがはじまりました」
聞き手「このコウはすごく大きなコウですね。黒が負けたときは悲惨な状態になってしまいます」
金子先生「白は負けてもまだ黒より被害が少ないので、黒が絶対に負けられないコウです」
実戦図84-89
金子先生「黒85とコウ争いがはじまりましたが、黒からのコウ材が白の利益になることがあるので、かなり白が有利なコウです。実際に黒89は白にはとてもありがたいんです」
参考図51
金子先生「これは、参考図51の白90(白△)と、こちらからヌケば、あとで黒1のヨセがなくなると思って心の中ではすごく喜んでいました。左下で大きなコウを争っているわりに、内心はこんな細かいところで喜んでるんですね」
聞き手「プロはこういう細かいところも気にするんです」
質問「コウ材はもう一度ききますか」
参考図52
金子先生「ここで参考図52の白1としても、黒2とノビてくれないのです」
参考図53
金子先生「黒にはいい手があって、参考図53の黒2と切ってくるのです。以下白3とコウを取ると、黒4と出る手があって、白は今はコウを抜けません」
参考図54
金子先生「そこで参考図54の白3としますが、黒4とノビて白5とコウを取るとやっぱり黒6とマガります。黒2の切りがすごく良い手なんです」
実戦図89-93
金子先生「実戦図の白92と、ここを突き破ったら大きいかなと」
参考図55
金子先生「例えば黒がコウを解消したら白2とツナげば」
聞き手「これは、さすがに大きいですね」
金子先生「下辺が白模様になりますので、ちょっとこれは黒も手を抜くのは大変なので、実戦の93と一回切ります」
実戦図93-94
金子先生「白94とコウを取って、黒はもうコウ材らしいコウ材がありません」
参考図56
聞き手「参考図56の黒1は」
金子先生「さすがに、もう利きませんね。白2とコウを解消します」
聞き手「白△がないときは、白□を取れたのですが」
金子先生「参考図56の黒1の右にツナイでも、左上の白は生きているので、黒1の威力が全然違います」
実戦図94-96
金子先生「右上にもコウ材がないので、黒は実戦の95しか打つところがありません」
質問「実戦は白96とコウを解消しなかったのですか」
参考図57
金子先生「参考図57の黒2とサガられて、黒6が先手で黒8にヌカれるのはかなり大きいと思って、それでも今はこの図もあったかなと思ったのですが、このときはこの後、下辺でうまくさばく自信がなかったのです」
実戦図96-98
金子先生「実戦はこれが嫌で白96とアタリしました。黒95と白96の交換も大きいので」
参考図58
金子先生「で、ここなんですが、普通なら参考図58の白1と取って黒はコウを解消し、白3とツナグのですが、何を思ったのか迂闊にも実戦の白98と先にツイでしまいました」
参考図59
金子先生「黒はここでコウを解消しないで、参考図59の黒1と逃げる手があるのです。以下黒5までとなると、白にとって参考図57のときよりも下辺がさばきにくくなっているのです」
実戦図98-100
金子先生「参考図59の黒1と逃げられると、白は良くなかったのですが、黒はコウを解消しました」
実戦図100-102
金子先生「右下を白からスベられると、白が安定してしまうので、黒は101と一度とめて、白は102とオサエます」
参考図60
参考図61
金子先生「白から参考図60のデギリがあるので、普通は参考図61のようにタケフで守り、死活によくあるのですが白2に黒3とサガリ白4まで」
聞き手「白は生きていますね」
金子先生「こう進行するだろう、と思っていました」
実戦図102-103
金子先生「実戦の103(図の黒3)には驚きました」
参考図62
金子先生「参考図61白3としたとき、参考図62の黒4とアテコミ、白5に黒6と、一応コウになって、白はまだ生きていません。ただしこのコウは黒が勝つまではあまりに遠い上に、黒103の手がこのコウ以外にはメリットがありません」
聞き手「黒は形勢が悪いと思っていたのでしょうか」
金子先生「確かに、感想戦では『形勢が悪いと思っていた』とおっしゃってました」
参考図63
金子先生「シチョウがいいので、普通は参考図63の黒1とカカエる手でしょうか」
参考図64
質問「参考図64の黒1のトビはどうですか」
金子先生「そのときは、白2黒3と右下隅の白4子を捨てて白4とするつもりでした」
聞き手「隅の白を捨てる手もあるのに、黒103は確かにやりすぎでしたね」
実戦図103-106
金子先生「実戦図の黒105となって、ここで少し考えました。右下隅の白は目がなくなったのですが、地合自体はそんなに悪くないので正しく打てば勝てそうだなと。ただ私の悪い癖なのですが、良いと思って打ってると最期に足りなくなることがあるので、この場面は慎重に打っていました」
金子先生「頭の中でいろいろな図を検証して打った手が106です」
聞き手「本局のハイライト、上辺の黒を閉じ込める一手ですね」
金子先生「上辺の左右の白をツナイでから、右辺に手を付けようと思いました」
質問「白は11ノ三に出る手も大きいと思いますが」
金子先生「それも大きな手ですね。ただ黒3子だけでなく、上辺の黒全体を狙っていたのです」
実戦図106-110
金子先生「実戦では図のように白110と出ましたが、この方が11ノ三に出るよりも若干大きいのです」
参考図65
金子先生「黒が参考65のように黒1とハネれは、白2とオサエ、黒3のハネダシに白4とヌキます。黒5のツギには白6オサエ」
参考図66
金子先生「参考図66の白△はとられますが、仮に白4として、以下白8が先手で白10まで、上辺の黒はまるごと危ないので、白は安心して右辺に手を付けることができます。実戦の白110と突き抜けて、これで行けそうだなと思いました」
聞き手「普通なら11ノ三と出て満足するところを、さらに突き詰めるのは、さすが金子先生ですね」
参加者「これはとても思いつかない手ですよね」
金子先生「このときは、わりと強気に打つことができました。調子の悪いときはたぶん思いつかなかったでしょうが、調子が良いときにはこうしたアクティブな手が打てます」
参考図67
参考図68
質問「白106に黒は11の三とツナイだらどうでしょう。黒に生きはありませんか」
金子先生「参考図67から参考図68となってセキですが、たとえ黒が上辺で生きても、白の狙いは右辺なので、上辺の白石を先手で強化して右辺を攻めることができます」
参考図69
金子先生「上辺の黒が生きるとわかっていれば、参考図69のように上辺を固めて白6とします」
参考図70
金子先生「つまり参考図69の黒1には白2が先手で白6となり、黒が参考図70のように黒1と備えれば以下白6まで、右上の黒は生きるのがたいへんですから、右辺が大きな白地になりそうです」
聞き手「実戦の110と上辺が取れたところでだいたい決まりましたね」
金子先生「最期まで黒の頑張りに遭いましたが、なんとか切り抜けることができました」
聞き手「本局は、凡人には気づかない金子先生らしい厳しい手が次々と繰り出されています」
第三譜(101-166) 白中押し勝ち
金子先生「黒103(第三譜の黒3)のコスミには当時とてもびっくりした記憶があります。白6のツケに黒7で黒9にツイだら上辺の黒の死活が危ないので実戦の進行は黒として仕方ない。上辺右側の黒を取っては白がはっきり良いです」
金子先生「黒31から33など逆ヨセを打たれるミスをしましたが、この辺りでは状況をよく把握できていたと思います。黒はこのままでは地が足りないので黒53と頑張りましたが白54からの攻めが的確で上辺からの黒石が取られては終局です」
金子先生「全体的に白ペースの場面が多かったとは思いますが、形勢が入れ替わりそうな局面が何回もありました。そんな中でいつもよりも冷静に状況を把握できていた自分が印象的だったのでこの対局を選びました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
ハイライト(白106)
洪先生「白106(図の白6)のこの一手が怖いですね。「あなたをもう逃さない」とはっきり言っています。上辺の黒を襲うこの一手は金子プロ最大の特徴の攻撃力がよく感じられます。「風林火山」の火のような攻撃は金子プロの最大の魅力だと私は思います。小さい頃から輝いています」
洪先生「金子先生の碁はとにかく鋭く、小学生の頃から厳しい手が多かったです。本局のハイライトも白56にするか106にするか迷いましたが、106の方が決めに行った手なので、こちらにしました。本局の154手もじつに金子先生らしい一手なので、ぜひ並べてみて下さい」
洪道場の教え②「相手を意識せずにただ碁盤にだけ集中すること」