新井満涌初段の心の一局(1)「憧れの棋士」
新井満涌初段から皆さまへ
今回の「白黒さんぽ」にお越し頂き、ありがとうございます!
現在洪道場の師範をさせて頂いております。本日は皆様と碁を通して楽しく交流させて頂けたら有り難いです。よろしくお願い致します。
洪から満涌へ
満涌は道場出身プロ棋士8番目です。小6の時に道場に来た満涌を今でも記憶しています。いつの間にか時間がたくさん流れました。時々人生の半分を囲碁と道場で過ごしたと笑いながら言う満涌に感謝します。今は洪道場の師範で働きながらプロ棋士の活躍もしています。子ども達が好きで、いつも笑いながら話を聞いてくれるので、子ども達も満涌のことが大好きです。子ども達と勉強しながら、みんなのおかげで気付くことも多いと言う満涌の心も嬉しいです。これからもいつも元気で笑いながら1日1日頑張りましょう^-^
2018年4月23日
第37期女流本因坊本戦1回戦
白 新井満涌 初段
黒 鈴木 歩 七段
持ち時間3時間
5分前から60秒5回
新井先生「私が上京する前、群馬で棋士を目指していた小学生の頃、鈴木七段は女流最強位のタイトルを保持されていました。当時よくお世話になっていた囲碁教室に貼られていた、歩先生の就位式のポスターを憧れの気持ちで眺めていたことが懐かしい思い出です。本局が初対局でしたが、真剣勝負の場で打てることが嬉しく、盤を挟んで高揚感を感じました」
第一譜(1-50)
新井先生「中央に手厚い打ち方が好きなので、白12、14と思い切って打ってみました。白44のような曲がれる所を見ると、つい厚く見えてマガってしまうのですが、続けて白46とハネ、ここに2手かけたのは足が遅かったです。黒47からはみ出されてはリードを持っていかれています」
実戦図1-11
新井先生「対局当時は白10のツケが流行っていました」
聞き手「AI流の手ですね」
新井先生「はい、影響を受けていました」
参考図1
新井先生「実戦の黒11のあと、白10から左へトブ手などもあるのですが、部分的には参考図1の白1とツケで5まで三段ハネて」
参考図2
新井先生「参考図2の黒1から3と取れば、白4とアテて右辺の状況次第ですが、あとで白Aと脱出する手があります。白黒△の交換があればこそで、中央側の黒2子が弱くなるという手筋があるのです。他にもいろいろ変化はあるのですが、とりあえず流行に乗ってツケてみました」
聞き手「白10のツケは流行の中でも、新井先生好みの手ですね」
新井先生「右辺のカカリから星の構えもそうなのですが、院生の頃は武宮先生や洪先生のようなアツく打つ碁が好きで、本局は憧れの鈴木歩先生との対局なので、自分の好きな形で打ってみようと思いました」
実戦図11-21
聞き手「白12のカタツキも先生らしい手ですね」
新井先生「中央志向で打ってみようという手ですが、先に相手に地を与えるので失敗すると一瞬で終わってしまう怖さはあります。そんな手を好んで打っています」
聞き手「ゆったりとした構えですね」
新井先生「ゆったりと構えるのは、隙きを突かれてうまく対処できないときもあって、そこが悩みの種ですが好きな打ち方です」
実戦図21-26
参考図3
新井先生「参考図3のように先に地を与えても終始中央志向で打って、黒が中に入ってきたら勝負しましょうと、恐れ多くもお誘いをしていました。憧れの先生との対局でテンションが上がったまま打っていたので、後先はあまり考えていません(笑)」
聞き手「参考図の白2に打てれば模様ができてきますね」
実戦図26-27
新井先生「ところが鈴木先生、どうやら何か察知されたようで黒27とされました。こうなると白26がなにやら寂しげに見えます。27も自分が打ちたかった場所なのですが、このときは26の方がやや優先順位が高かったのです」
実戦図27-31
新井先生「黒27と打たれてみて、それほど困ったわけではなかったのですが、こちらの言うことを聞いてもらえるわけもないので、受けてもらえなかった以上は白28と入らなければ26の顔がたちません」
参考図4
新井先生「参考図4のように黒が1と切ってきたら、白2とツイで黒3のツギに4とオサエていこうと考えていました。なお、白4でAとアテるのは実戦の黒27がシチョウアタリになって逃げられてしまいます」
参考図5
新井先生「黒31で参考図5のように黒1と割り込んできたら、白としては下辺を破って軽くさばいていきたいと考えているので、白4とオサエて黒5と切られても、白6から8と1子取って目的は達成しています」
聞き手「参考図の黒9でAのコウにするのは黒の方が怖いですね」
新井先生「そうです。参考図の黒5と切ったので、白には右辺の黒2子との間にコウ材多いので、黒は9とサガルくらいです」
新井先生「参考図のようになれば、白はなかなか死なないので、この後で黒7の上に切る手も生じます。こうなれば白としては嬉しいですね」
新井先生「サバキはツケよ、という格言がありますが、白28はこの格言を地で行ったものです。そこで、黒も白にサバク調子を与えないように31とツイでじっと我慢し、下辺の白全体を狙いにいくという鈴木先生らしい手でした」
聞き手「鈴木先生の棋風はどのようなイメージですか」
新井先生「鈴木先生は岩田一先生の門下生です。私の院生時代の友人に岩田先生のお弟子さんがおりますが、とにかく詰碁が好きな先生だと聞いており、読みが強い方という印象です」
聞き手「そういえば、鈴木先生は詰碁がとっても強くてびっくりしたことがあります。トッププロの研究会に詰碁の研究会があって、超難問を競い合うのですが一力先生、許家元先生、芝野虎丸先生たちがいるにもかかわらず、いつもトップレベルの点数を叩き出されています」
新井先生「なので、鈴木先生に石を狙われたらちょっと怖いです」
聞き手「下辺の白石は大丈夫ですか」
新井先生「はい大丈夫です、と自分に言い聞かせながら打っていました(笑)」
実戦図31-33
聞き手「黒は下辺に手を入れずに左上にカカリました」
新井先生「そうですね。下辺は白32と手をかけましたので、今打ってもあまりイジメがきかないだろう、と左上に展開しました」
実戦図33-35
新井先生「黒のカカリに白は34とハサミましたが、黒は35にツギました」
参考図6
新井先生「黒35で参考図6のように三三に入れば、白は2からオサエて黒9まで普通の定石ですが、この別れはどうでしょうか」
聞き手「左右の黒石が近いですね」
新井先生「そうなんです。上辺はほとんど黒地で、時にカライといえばカライのですが、左右どちらの黒石も強い石で、強い石と強い石が同じ方向に密集していると、その強さを十分に発揮できないのです」
参考図7
新井先生「参考図7の後、黒からAにデギルてがあって、黒はAとツグことになるのでしょうが、左右の強い石が衝突してできた黒地と中央の白の模様と比較してどうでしょう」
新井先生「黒は手数をかけて20目ほど地が増えましたが、白は同じ手数をかけてより大きな厚みができています
聞き手「参考図のように三三に入ったときには、白がこんなにツナガルようには見えないのに、こうなってしまうのですね」
新井先生「上辺は白からの利きが多いので。この図は白には中央への発展性がありますが、黒にはもう発展性がないので打ちづらいかなと思います」
聞き手「黒35にツナがれてみると、参考図7との厚みの違いが歴然としますね」
新井先生「白としては中央指向で打っていたので、その隙きをつかれるのが嫌なのです。ここでちょっと困ってしまいました」
実戦図35-37
新井先生「悩んで打ったのが実戦図の白36のツケでしたが、黒は37に打ち込みました」
聞き手「これは退治できないのですか」
新井先生「退治されそうです(笑)」
参考図8
新井先生「参考図8のように白△と黒△の交換があるのと、実戦図を比較するまでもなく、当初は『入ってきて下さい』と思っていた活きの良さはどこへやら(笑)」
実戦図37-42
新井先生「白は38とツケてサバキにいきます」
参考図9
新井先生「実戦の白42で参考図9の1とアテルのは以下黒6まで、白は3と出たものの出ただけで何も得をしていません」
参考図10
新井先生「参考図9の後、例えば参考図10のように白1と上辺の黒に迫っても黒2とされて、白は右辺の△は弱く、右上隅の△も取られていて、しかも白1の周りは隙だらけ。こうなってはなにも良いことはありません」
実戦図42-44
新井先生「黒にコウを抜かれて、白は44にマガリました」
聞き手「44はコウ材には見えないのですが」
つづく