小山空也四段の心の一局(1)「棋聖戦への第一歩」
小山空也四段から皆さまへ
本日はお越しいただき、本当にありがとうございます。みなさんと交流できるのをとても楽しみにしていました。
洪先生という素晴らしい先生の下で育った棋士たちは、それぞれとても魅力的な棋士なのでこれからも道場出身棋士と『白黒さんぽ』をよろしくお願いします!
洪から空也へ
空也は道場出身棋士第9号です。空也を見れば空のようなきれいさを感じます。ことばも品があってマナーもとても良いです。教え子ではありますが、むしろ習うことがたくさんありました。いつも着実に一歩一歩ずつ進めていくのでとても嬉しいです。
プロになってからも空也自身が主催する研究会(空研)も作って若手棋士の実力向上にも貢献しています。真っ直ぐで清らかな空也のことを皆さまどうぞよろしくお願いいたします。
2019年2月14日
44期棋聖戦ファーストトーナメント決勝
白 山田晋次六段
黒 小山空也四段
持ち時間3時間
残り5分から1分秒読み5回
総譜(1-50)
小山先生「黒5のシマリは最近とても流行しています。やはり相手が手をつけにくいからだと思います。黒17までは前日に想定していた布石です。黒23のボウシは気持ち良い手ですが、黒31までは良い勝負です」
小山先生「2月14日に行われた棋聖戦フリートーナメント決勝戦を解説します」
小山先生「この決勝戦は、対戦相手の山田晋次六段が準決勝で平田智也七段に勝ってきました。平田先生だったら初対局だったのです」
聞き手「初対局だったのですか。何度でも打っているようなイメージでした」
小山先生「私の三歳上なのですが、洪道場では小さい頃からたくさん打っていただきました」
聞き手「対局前に相手の研究などはしましたか」
小山先生「相手が決まってから研究しています。山田六段の対局はかなり研究しましたので、打ち方はある程度予測していました。うちは両親もプロ棋士なので、山田六段の碁を研究してもらいました。『山田さんこんな布石を打ってたよ』なんて」
聞き手「家族で協力体制ができていていいですね」
小山先生「それで、相手はすぐダイレクト三々に来るよ、と聞いていたので、『シメシメ』という感じでした」
聞き手「計画通り、ということですね」
実戦図
聞き手「白10とトビましたが、ここでは最近はいろいろな打ち方がありますよね」
小山先生「星に対して三々に入るのが、AIの影響で最近多い戦法なのですが、黒は大事にしたい方をオサエて、白はハッて黒ノビて、ハイまでは必然です。ここで黒はオサエて、白のハネにノビる、さらに白ハイに黒ノビて、以前は白はここですぐハネて黒オサエて白はツナイで」
聞き手「カケツギまで打ちましたね」
参考図1
小山先生「ここまでが三三に入った場合の定石といわれていたのです」
参考図2
小山先生「最近は白はハネツギをきめずに、もう一度ハイを打って」
聞き手「これは、黒はもう一度ノビますね」
小山先生「で、白は辺の星あたりに置いて、三三の外側の黒を強化させないようにします。先手で地をとって、右辺に先着するような打ち方が最近の流行です」
聞き手「最近、そういう形ばかりな気がします」
小山先生「これは、AIの影響ですが、これが良いのか悪いのかは今のところ、まだわかりません」
参考図3
小山先生「実戦は、参考図2が白の注文なので、8手目は単にノビました。これで白が参考図3のようにケイマなど手を入れれば、黒は先手を取って右辺に手を入れます」
実戦図
小山先生「このへんはいろいろあるのですが、実戦図も一つの定石のような進行です」
参考図4
聞き手「でも不思議ですよね。白はトンで参考図4のようにノビないで、戻ってツグんですね」
小山先生「ここは説明すると長くなるので、こういう形もあるということです」
実戦図
小山先生「実戦は、右上隅は白16までにして左下隅に黒17とカカリました。ここまでは前日に想定していたので、そのとおりになってよかったな、と思っていました」
聞き手「次の一手も想定内でしたか」
小山先生「次の手は、白が左下隅に相手をしてくれると思っていたのですが、実戦は右辺に白18ときたので、ここから予定通りにはいかなくなりました。ただ、この手はちょっと嬉しかったんです」
聞き手「というと?」
小山先生「左下にカカった手が大きいから、こちらに打つほうが大きいかなと」
参考図5
小山先生「白は実戦の20で参考図5のようにヒラキたいなと思うかもしれませんが、右上の黒は4本あって割と強い石なので、白は右上にはあまり近づかないほうがいいです」
聞き手「なるべく遠ざかって置いたほうがいいですね」
小山先生「実戦のトビはもっとも自然な手です」
実戦図
小山先生「実戦の黒21を手抜きすると、Aに切られて、右辺の白2子が活躍してしまうので」
参加者「白は右辺のトビのところで、ハネたらどうでしょう」
参考図6
小山先生「このハネはいいところです」
聞き手「二目の頭でハネたくなりますよね」
小山先生「参考図6の白1には相手をせず、黒2とボウシ。上辺の黒2子はカルクみて、しばらくは右辺の白を攻めます」
小山先生「白3と逃げれば、黒4と攻めていきます」
小山先生「黒21とノビて、上々の立ち上がりでしょう」
実戦図
小山先生「ここで右上の黒の厚みを活かしたいなと思い、黒23とボウシしました」
参加者「それは、らしくない手ですね(笑)」
小山先生「自分は穏やかな棋風で、あまり激しく攻めるタイプではなくて、すごい勢いで攻めるのは金子先生の役目ですが、この場合は隅の厚みを活かせるので、この厚みに白石を押し付けるイメージです」
聞き手「役目って(笑)」
小山先生「右下に3手打っているのですが、ややスカスカな感じですので、白2子を攻めながら、右下から右辺の地を確定させる狙いもあります」
実戦図24
聞き手「白が受けてくれれば」
小山先生「実際に白24と受けてくれたので、右辺をサガりました」
参考図7
小山先生「次に黒から、参考図7の黒1のように両ノゾキの手があるので、白は受けなければなりません」
参考図8
聞き手「白は26とケイマに受けましたが、これはこのあと先程のようにノゾくと」
小山先生「参考図8の白2とブツカり黒がデギッても白△をカルク見て、例えば参考図のように、下辺の大場に先着されてしまうので、黒は白△をトルより全体を大きく攻めたい」
実戦図27
小山先生「実戦の黒27は、白20と白26の間を狙っています」
聞き手「ノゾキをねらっていますね」
小山先生「白が手を抜いたら、実戦図のAやBが狙いになります」
参考図9
小山先生「ここで白は参考図9の1と守れば、下辺に黒2と先着しようかな、と思っていたのですが、実戦は白は守らずに下辺に打ちました」
聞き手「白は参考図のように守らなくても大丈夫、ということですか」
小山先生「白が手を抜いたので、あとで参考図9の白1を黒が打ってとがめようと思っていました」
実戦図
小山先生「実戦は、左下隅の大きいところにいきました。黒33から白オサエて黒ハネル手は、昔からあるのですが、最近ホントによく打たれています」
聞き手「AIもこの形がよくでてきますね」
参考図10
小山先生「以前は、参考図10の黒1とスベリが多かったのですが、白のコスミに黒3と下辺にオサマル狙いなのですが」
参考図11
小山先生「黒がスベったとき、参考図11の白2とツケたりハサむなどいろいろな手があるので、実戦の黒35には、白からの手を限定させる意味もあるのです」
実戦図
小山先生「これは定石のひとつです。白は下辺に石があるので、黒1子を分断して下辺を模様にしようとしています」
聞き手「黒39には、白40ともどるしかないのですね」
実戦図
小山先生「次に白43と打たれると死んでしまうので黒43とし、白も外側を守るため44とします。ここまでは定石です。黒は隅でおさまって、白は外側に厚みをつくりました」
小山先生「ここまでは、いい勝負だなとおもっていました。ここでお昼休憩になりました」
聞き手「一段落したところで休憩になったんですね」
小山先生「お昼の休憩は、棋士によってどう過ごすかそれぞれで、自分は普通に昼食を食べに行きます。しかし、決勝戦のような大きな対局ではあまり食欲がわかないので、だいたいうどんとか蕎麦のような軽いものを食べています」
聞き手「そういえば、うどん屋さんで会ったことがありましたね」
小山先生「棋士の行く店はだいたい決まっているので、同じ棋士によく会います。たまに対局相手と隣同士になって、少し気まずい思いをすることがあります」
参加者「お昼は12時ぴったりにはじまるのですか」
小山先生「世間が12時にはじまるので、棋士は一斉に11時45分から12時半までと、少しずらしています」
連載第2回「閃きと緻密な読み」をお楽しみに