一力遼竜星の心の一局(4)「会心の一局」
実戦図81-82
一力先生「実戦は白82とハネダシました」
参考図52
一力先生「ここで参考図52の白1のオサエは、黒2とアテられて白3でツナガるのですが、黒4とされて、AとBが見合いになり、どちらかが切れてしまいます。黒2で全部ツナガることはなくなってしまいます。81に対して「受け方がわからないのなら反発してしまえ」ということで白82としました」
参考図53
一力先生「参考図53の黒1に対しては白2とマガッて黒3とシチョウに取られてしまうのですが、例えば白4とツケを決めて白6とブツカリまで打っておけば、左辺は黒から切ることができませんので、白8と右辺を連打するのが非常に大きいです。これなら白に不満はありません」
実戦図82-85
一力先生「お互いに中央で先手を取って右辺にまわりたいのですが、かといって全部取られてしまっては大きいので、お互いに神経を使いながら打っています」
参考図54
一力先生「実戦の黒83とハネた意味は、参考図の白1と左辺をツナげば黒は2とし、白にシチョウを一度逃げさせたことになり、黒はこの進行をめざしていました」
実戦図85-86
一力先生「ここで白86のハネがいい手です」
参考図55
一力先生「参考図55の黒3のアテに白4と逃げては、黒5で下の白石が危なくなってしまいます」
参考図56
一力先生「そこで、参考図56の白4とすれば、黒5と取られても白6となって、下辺の黒の受け方が難しくなっています。白は左辺がつながっているので、こうなると白が先手で右辺にまわれそうです」
実戦図86-90
一力先生「そこで黒は87としました」
参考図57
一力先生「ここで参考図57の白1とツグと黒2のアテから黒4となって左右の黒がツナガると下側の白が苦しくなります」
参考図58
一力先生「実戦の白90で手を抜くと参考図58の黒1とコスミツケられて白が取られてしまいます。白90の守りは仕方のないところでした」
実戦図90-93
参考図59
一力先生「実戦の黒93は、参考図59の黒1が大きいところですが、白2とされると右下の黒3子が寂しくなってしまいます」
実戦図93-95
参考図60
一力先生「実戦では白94とワタりましたが、参考図60の白1とツケて下辺を生きに行く進行にした方が良かったかもしれません」
参考図61
一力先生「参考図61の黒2よりも白3とされる下辺の方が大きいので、白1には下辺を打つことになります」
参考図62
一力先生「参考図62の黒2には白3とハネて黒4のアタリには、AのハネダシとBのツギがあります」
参考図63
一力先生「参考図62のあと白5のツギには参考図63の進行となり、白9が利くので白13まで生きることができます。この後黒からはAかBぐらいなので、この図のように先に生きておけば白は不満のない進行でした」
参考図64
一力先生「実戦でワタったのは、次に参考図64の白△とフクラむのが立派な手なので、黒は△のノビが相場ですから、この交換のあと下辺の白を生きに行く考えでした」
実戦図93-95
一力先生「実戦では白94に手を抜かれて黒95となりましたが、参考図63と比べてみると、地の出入りが非常に大きかったです。ここまで下辺の黒地が大きくは見えますが、形勢自体は白悪くなく互角と言って良いしょう」
実戦図95-100
聞き手「実戦図96のフクラミでハネはなかったのですか」
参考図65
一力先生「参考図65の白1とハネる手は、対局中は良いかどうかわからなかったのですが、黒は4と切って6とハネる手が手筋で白7に対して…」
参考図66
一力先生「参考図66の黒12が13からのデギリがあるので白は13とツギ、黒14と出られてしまうと、黒を攻めている、という感じではなくなっています。実戦のフクラミの方が冷静な手かなと。本図も考えてはいたのですが実戦のフクラミを選びました」
一力先生「実戦は、白フクラんだあと、今度はここを白からハネられると厳しいので97とオサエます」
参考図67
聞き手「実戦の97でAとノビル手との比較はどうでしょうか」
一力先生「Aのノビはアツいのですが、実戦のオサエがあれば、あとで参考図67の黒△とヘコンだときに黒1、3が相場になっていて下の目がアツい。この局面ではこちらの方が良さそうです」
参考図68
一力先生「実戦の白100(参考図68の白△)は、AやB辺りへの狙いを持った手です」
第三譜101-150
実戦図100-103
参考図69
一力先生「実戦の白102のノゾキは、参考図69の黒1と出てくれば自然に白4まで左上の黒が弱くなるので、そういう狙いを持った手です」
実戦図103-105
参考図70
一力先生「実戦では105(参考図70の黒△)とトンだのですが、ここは参考図70のAと二間にトブかBのコスミ辺りへ打って左上の補強をしたほうが良かったと思いました」
参考図71
一力先生「右下は、参考図71のように黒△に打てば、結構しぶといので、この局面では右下より左上を補強すべきでした」
実戦図105-110
一力先生「実戦の110は厳しい手で、白が次に一路上に打って黒を欠目にすれば、黒は先手で打っても二眼できない形になります」
実戦図110-114
一力先生「二眼できないので、黒は外を逃げていくしかないのですが、111のオシも少し辛いですし、114となっては白が厚く打っていたのが活きてくる展開になりました」
実戦図114-119
参考図72
一力先生「白116(参考図72の白△)のハイで参考図72黒1のツギとかわれば、白は先手で黒の目をなくしましたし地としても大きいです」
一力先生「黒としては上辺の半眼や117で目っぽくなっているので、119と右下の石を補強してきました」
実戦図119-126
一力先生「実戦の126と攻められると、黒は結構危ない格好になります。外に逃げないと目ができそうにありません」
実戦図126-130
一力先生「128を利かして、130がNHK杯なら“今日の私の一手”ですね」
参考図73
一力先生「130のあと直接的な狙いとしては、参考図73の白1から5でピッタリ取れています」
参考図74
一力先生「参考図74の黒1と守ると白2として、このあと白△にアテコマれると黒は上辺に目がありませんし、中央に二眼作ろうとしてもハッキリしません」
参考図75
一力先生「そこで参考図75の黒3と守ると、今度は白4の手が生じます。白8までとなり例えば黒9には10とツイで黒11に白12で白の一手勝ちです」
一力先生「実戦の白130は、上辺と右下と左下の三つの狙いを持った手でした」
実戦図130-131
一力先生「131は上と右下と左下を全部カバーするような手で、柯潔九段らしい手です。こういう手を打って相手のミスを突いて逆転するのが上手です」
実戦図131-141
参考図76
一力先生「141で参考図76の黒1と手を抜くと、白2で黒の目がありません」
実戦図141-145
一力先生「141から143は下の白に対して働かせた守り方ですが、144と切ってこのあと145に入られるのを防ぐためにツグしかないのですが」
実戦図145-151
一力先生「146と切って148に手を抜けば白149と先手で目がなくなってしまうので黒はツガなくてはならない。このあたり白は非常に快調に打ちまわしています」
実戦図151-158
一力先生「152のアテから154とヌイたときは気持ちよく打っていました。コウは白有利で、黒は155や157と全部守らなければならないので、だいぶ白地が増えました」
実戦図156-164
一力先生「白164と黒の3目を取ったところで白の勝勢です。この後数十手打ちましたが黒が盤面で少し残る程度で、コミが出せない展開になりました」
第4譜(151-198)
一力先生「この碁は、自分としても割とうまく打てました。途中柯潔九段がウスいところを放置して頑張り過ぎたところを、的確に咎めることができました。公式戦で柯潔九段に勝ったのはこれが初めてで心に残る一局になりました。決勝では負けてしまいましたが、ここで勝つことができたのは自信にもなりましたし、これから世界戦で活躍していくための糧にもなりました。これからも応援をよろしくお願いいたします」
洪先生「私は通訳のことで関係者の方々と対局を見ていましたが、遼の堂々と戦う姿が本当に良かったです。遼が小さい頃一緒に夢を聞くことがありました。その夢に向かい少しも揺れず真っ直ぐ頑張る遼が素晴らしいと思います。時には辛い時もあると思いますが一歩一歩進みましょう。夢が叶えるまであと少しだと感じました。日本を代表する棋士としてこれからも精一杯戦ってほしいです。皆さま、遼のことをどうぞよろしくお願いいたします」