小池芳弘五段の心の一局(1)「三三を科学する」
小池芳弘四段から皆様へ
皆様お集まりいただきありがとうございます。広島アルミ杯二回戦で、院生時代からのライバルである芝野虎丸七段(当時)との碁を紹介します。局面には現れない、水面下の思考や心情までお話できたらと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
洪から芳弘へ
芳弘は洪道場出身プロ棋士13番目です。鋭い印象で少し冷たく感じるときもあるかもしれませんが、実はとても温かくて面白い男です。イベントなどで会ったら気軽に声をかけてください。とても親切にいろいろ話してくれると思います。
大変な努力家です。プロ棋士になっても院生のときと同じように勉強を続けています。その力が2018年に19連勝という素晴らしい記録を作ったと思います。芳弘は着実に成長してきっとタイトルを取れると信じています。時々手合と研究会が遅く終わったら道場の門を開けて「先生、泊まらせてください」と言う芳弘が愛おしいです。プロになってからも道場を忘れず後輩たちを愛してくれて嬉しいです。いつもありがとう。
2018年11月18日
第13回広島アルミ杯2回戦
白 芝野虎丸 七段(当時)
黒 小池芳弘 三段(当時)
持ち時間10分
1手30秒の秒読み
第1譜 1-50
小池先生「黒5は流行のシマリです。黒7は8からオサエるのも可能です。黒15は趣向だが実戦のワカレは白持ちです。白42のオキに黒43、45の反撃したのが好判断でした。白42はAのハネで白模様を大事にするのが良い気がします」
実戦図1-7
小池先生「みなさん、そろそろ三三に慣れていただきたいと思いますがいかがでしょう。アマチュアの方はまだまだ抵抗があるかもしれませんね」
聞き手「子どもたちを指導していると、三三のことを聞かれるようになり、AIの打ち方が話題になるので困ってしまうことがあります」
小池先生「右上隅の星に対しては、右辺からか上辺からの小ゲイマガカリが普通で、他には左下の星から小ゲイマジマリは今でもよく打たれています」
小池先生「本局の場合、右上隅の石にカカるとすれば、どちら側からカカリたいですか。どちらからカカルかを決めるのは非常に難しいです。どちらもありますし、どちらかで違う碁になります」
小池先生「三三だったらそこにしかないので、とりあえず悩まなくていい(笑)これが自分にとって打ちやすい、一番の理由です。ただし本局では黒番が自分で、三三に打ったのは虎丸先生でした。黒番の私はどちら側を抑えるかで悩まなくてはならないのです」
聞き手「深いですねぇ」
小池先生「実戦では黒7とこちら側にオサエました」
聞き手「普通は反対側だと思うのですが」
参考図1
小池先生「参考図1のようになるのが従来の定石です」
参考図2
小池先生「最近は参考図1の白8で参考図2のようにもう一度ノビ、9にはここで手を抜いて白10とします。参考図1なら黒が厚くて不満のない形ですが、この形はもう見なくなりました。参考図の黒7でハネる手もプロの碁では見かけなくなりました」
小池先生「白の三三に黒が参考図のように1とこちらからオサエる理由はというと」
参考図3
小池先生「参考図3の黒3と一路ハズし」
参考図4
小池先生「参考図4の1のブルカリから2とオサエ、3のハネに黒△とノビれば参考図1や2と同じなのですが、黒4とこちへハネます。その後Aと切るかBとハネるかですが」
参考図5
小池先生「参考図5の黒2のオサエに白3と切ると、白5と取れますが黒△のハネ一本がきいて黒8まで、白はポン抜いていても黒は大成功です」
参考図6
小池先生「参考図3で黒がAに切った場合、白は参考図6のAとBがありますが、Bと切るほうが多い」
参考図7
小池先生「白が参考図6のBと切った場合、参考図7の展開になり、今は定石化されていますがこういう形になることが多いです」
小池先生「こうなってみると、黒は三三の右辺側をオサエたはずなのに白に右辺に出られています」
聞き手「黒は白の三三に対して右辺を重視したはずなのに、重視した方に白の侵入を許してしまった、ということですね」
参考図8
小池先生「参考図8のように左上にカカって上辺に展開していく手も考えられ、これも1局ではありますが、折角の右下のシマリを十分に活かせていないので、右辺を大切に打ちたいという発想です」
聞き手「ここまで読んで、オサエる方を決めているのですね」
小池先生「読みというより経験です。こうなったことがあって(笑)」
実戦図7-10
小池先生「実戦の10のツケですが、プロの先生は三三に打つことを皆さんにおすすめしないようです。難しいからおすすめしない、とおっしゃってるところを見たことがあるのですが、三三に入ることは先程説明したように悩まなくて良いので非常におすすめです。後の打ち方が難しいのですが、たとえどこに打ったとしても難しいのは変わりないのですから」
小池先生「しかし白10とツケるのはおすすめし難い意味があるのです。参考図3のようにブツカッてハネれば定石を覚えさえすれば難しいことにはなりませんが、ここから難しい変化になることが多いのです」
実戦図10-12
小池先生「実戦では黒11とオサエに、白は12と引きましたが、これは芝野七段の趣向の手でした。今のプロの碁ではあまり見かけません。この対局は2018年の8月でした」
参考図9
小池先生「今(2019年5月)の主流は、参考図9の変化が世界戦でも非常に多く打たれていてこの当時も非常に多かったです」
参考図10
小池先生「参考図9のあと、参考図10の黒1のコスミから白6とカケツギます。この変化はとても難しくて、説明しだすと永遠に帰れなくなっちゃいますのでここまでにします。一歩間違えると潰れてしまうほど難解ですから実戦の白10のツケはあまりおすすめできません」
参考図11
小池先生「実戦の9に対し参考図11白1のブツカリに黒2でAなら普通ですが、黒2とノビる手があるかもしれません」
参考図12
小池先生「参考図12の△の交換があれば、白がAなどから戦うのは黒の右辺をとてもアツくしてしまいます。ですから、白にとって△の交換がなくて良いのなら、黒は参考図の黒2と戦うのが嫌なので、Aとオサエます」
参考図13
小池先生「参考図13の白△とツケる意味としては、黒のオサエに1のブツカリから白5となれば白が打てる展開ですから、実戦ではこうはなりません。実戦の白10は『自分のほうが研究しているぞ』という手なんです(笑)」
参考図14
聞き手「実戦の黒11とオサエる手で、参考図14の黒1とハネる手との違いを教えて下さい」
小池先生「参考図14のように黒5までとなれば、実戦の10のツケから白4黒5から黒1とハネ白2のオサエに黒3と切ったのと同じですね」
参考図15
小池先生「しかし参考図14の黒1のハネに白は2とオサエずに参考図15のようにハネる手があります」
参考図16
小池先生「振り返って、参考図15で参考図16の△の交換があれば、白7のツギとなり、難しい変化を避けたい方ならこれで白を持って悪いというわけではないのですが、プロにはややきかされたかな、と少し不満が残ります」
参考図17
小池先生「参考図17のように、黒はあとでAやBと寄り付く手があり、右上の厚みを背景に黒△が良い手です。白は地とはいえない程度しかなく少し辛い」
参考図18
小池先生「では、参考図18のように、白イ黒ロがない状態ではどうでしょう。黒5のハネに白6とオサエたとき、白はダメが詰まっていません。これは先程の図に比べて大変大きな違いです」
参考図19
小池先生「部分的には参考図19の黒5までとなり、白は先手でAや上辺にまわることができます」
つづく